レイヤー16
金色の光の粒子が、さらに激しく回転し始めた。
やがてそれらは一つの姿を形作り、闇の影の前に堂々と立ち尽くす。
簡素な王冠を戴いたその存在は、ただそこに立っているだけで、空間そのものが跪いているかのような威圧感を放っていた。
「偉大なる王――」
ベニーの父は、まるでこの物語そのものを乱すのを恐れるかのように、静かにそう呟いた。
七つの指輪が宙に浮かび、エルガーの身体を一定のリズムで周回する。
白、赤、青、緑、橙、灰、黒。
それぞれ異なる色を放つそれらは、単なる装飾品ではない。
並行世界を成り立たせる“根源の法則”そのものの具現だった。
アルドが一歩前へ踏み出すと、闇が生き物のように彼の身体から流れ出した。
指にはめられた紫の指輪が脈打ち、まるで呼吸するかのように周囲の光を喰らっていく。
「兄よ」
歪み、重なり合った声が響く。
「なぜ、お前だけがすべてのクランの運命を決める資格を持つ?」
偉大なる王は、言葉で答えなかった。
最初に輝いたのは白の指輪。
真理を暴き、幻を拒絶する力が発動し、アルドを覆っていた闇が裂ける。
そこには、彼が隠し続けてきた心の傷が露わになっていた。
次に、青の指輪が高速で回転する――元素の指輪。
瞬きする間もなく、エルガーはアルドの目前に立ち、あらゆる元素を融合させた一撃を叩き込む。
しかし、アルドは嗤った。
紫の指輪が激しく脈動する。
その攻撃は呑み込まれた。
まるで、現実そのものが王の命令を拒んだかのように。
「だからこそ――」
ベニーの父は、低く重い声で語り継ぐ。
「偉大なる王は、すべてを解放せざるを得なかった」
赤の指輪――《意志》。
王の決意を燃え上がらせ、血そのものを震わせる力。(最強の装甲と武装)
緑の指輪――《生命》。
彼らの衝突によって傷ついた世界を修復する力。(自然)
橙の指輪――《エネルギー》。
その余波だけで小さなクランを滅ぼし得る、純粋な破壊力。(巨人)
灰の指輪――《均衡》。
並行世界が完全に崩壊するのを抑え込む存在。(霊魂と精霊)
そして最後に、黒の指輪――《影》。
それは闇に堕ちるためのものではなく、闇を理解し、縛るための力だった。
並行世界の空が裂けた。
その兄弟戦争は、人類の時間には記録されていない。
どんな暦も、それを書き留めることはできなかった。
「アルドは最終的に世界から消え去った。だが、闇の指輪は残り続けた。
そして、全盛を極めた偉大なる王は老いと共に、自らの七つの指輪を七人の子へと託した。
――私が語っている指輪とは、まさにそれだ」
金色の光の粒子が、再び形を変える。
「……うぐっ」
その声が、静寂を破った。
ベニーが目を瞬かせ、勢いよく上体を起こす。
「頭が……なんだこれ、隕石にでも殴られた気分だぞ……」
「ベン?」
俺は慌てて振り返った。
アルヴィナも身体を起こし、頭を押さえる。
「……私たち、気絶してた?」
ベニーの父は、かすかに微笑んだ。
だが、その眼差しは変わっていた――鋭く、そして深い。
「よかった。ようやく目を覚ましたな」
ベニーは周囲を見回し、ゆっくりと机の上に降りてくる古書に視線を向ける。
「待てよ……さっきの話……ただの昔話じゃないよな?」
父は頷いた。
「ベニー、私はずっとこの時を待っていた」
ベニーは乾いた笑いを漏らす。
「父さん……まさか――」
「お前は、スーパーノヴァ・クランの血を引いている」
空気が凍りついた。
「狂気の思考者、クランを超えた発明家、宇宙の技術法則を設計した者たちを生み出したクランだ」
父は続ける。
「お前の天才性は偶然じゃない。それは“遺産”だ」
ベニーは言葉を失った。
冗談一つ口にしない彼を見るのは、初めてだった。
「……なるほどな」
やがて、彼は小さく呟いた。
「俺の設計が、やけに簡単に思えた理由……それか」
アルヴィナは、尊敬と恐怖が入り混じった表情でベニーを見つめている。
そして俺は、胸の奥が締めつけられるのを感じていた。
もしベニーがスーパーノヴァの末裔なら――
もし、俺の“想像の指輪”がこの物語と繋がっているのなら――
ルンとの出会いも、アルドも、指輪も。
すべてが、偶然なはずがない。
かつて並行世界を滅ぼしかけた戦争は――
まだ、終わっていないのかもしれない。
「さて――」
ベニーの父が、静かに言葉を継ぐ。
「まだ語られていない物語が残っている。続きを話そう」




