第4話 確かに楓姉にそれが出来る勇気があるなら初めから学校でぼっちになんてならないよな
学校から家に帰った俺はひとまず課題に取り掛かる。と言っても、あまりやる意味が感じられないような課題に関しては基本的には思いっきり手を抜いているが。
「どんなふうに俺が課題を取り組んでるのかまでは分かりようがないしな」
そのため教科書の解説を丸写しするだけのことも日常茶飯事だ。俺が真面目に解いたように教師が錯覚してくれさえすればそれで良い。俺は楽をして効率よく自分の私利私欲を満たしたい。
ちなみに周りの目があるところで課題に取り組む時は全力で取り組んでいる。真面目な優等生キャラを演じているのだから当然だろう。
そんなことを考えると部屋の外から近づいてくる誰かの足音が聞こえてくる。スマホで動画を見ながら教科書の解答例を丸写ししていた俺は慌てて真面目に勉強している姿を装う。
「やあ、蓮。もしかして真面目に勉強中だったかな?」
「何だ、母さんかと思ったら楓姉か。慌てて損したんだけど」
「相変わらず平常運転みたいで安心したよ、私の前で優等生キャラなんか演じられても違和感しかないし」
俺の部屋にやって来たのは俺の従姉妹である鶴海楓だった。二歳年上の楓姉は俺の本性を知っている数少ない人間でもある。だから俺は楓姉の前では本性を隠さない。
「そもそも楓姉はうちに何しに来たんだ?」
「学校から帰ってる最中に家の前を通りかかって寄っただけだから特に用事はないかな」
「じゃあさっさと家に帰れ、楓姉の相手をするほど俺は暇じゃないから」
「釣れないな、子供の頃はあんなにお姉ちゃんお姉ちゃん言ってくれてたのに」
「一体何年前の話をしてるんだよ」
俺が冷たくあしらうと楓姉は不満そうな表情になった。残念ながらあの頃の純粋な俺はもうとうの昔にいない。そんなことを思っていると楓姉は悪そうな表情を浮かべてぼそっと言葉をつぶやく。
「急に蓮の本性をおじさんとおばさんにバラしたくなってきたな」
「おい、辞めろ」
せっかく苦労して作ってきた俺の優等生なイメージがぶち壊そうとするのは勘弁して欲しい。俺の本性を知ったら父さんも母さんも間違いなくドン引きするから。
「じゃあもうしばらくここにいさせて貰おうか」
「……分かったよ、好きにしろ」
楓姉はこんなふうに俺をたびたび脅迫してくる。そういう意味では俺なんかよりはるかに悪人だと思う。俺の場合は動機こそ不純だが、結果的には誰かの助けになっているわけだし。
まあ、でも楓姉と一緒に過ごす時間自体は嫌いではなくむしろ好きだったりする。その理由は非常に単純で、楓姉と一緒にいるだけで承認欲求や自己顕示欲が満たされるからだ。
楓姉は身内の前でこそこんな感じだが、実はかなりの人見知りな上に凄まじくコミュ障なため赤の他人とはあまり上手く喋れない。
そのせいで楓姉は友達もおらず学校でも基本一人だ。同じ学校に通っているため楓姉がぼっちであることも知っている。そのため楓姉には年の近い話し相手が実質俺しかいない。
だから俺が相手をすることによって楓姉は少なからず救われているはずだ。俺は救うことができて欲求が満たされるし、楓姉は孤独が緩和するので、まさにウィンウィンの関係と言えるだろう。
「てか、そんなに俺に絡みたいならわざわざ家まで来なくても学校でよくないか?」
「学校は無理だ、流石に蓮の教室に行くのはハードルが高過ぎる」
「確かに楓姉にそれが出来る勇気があるなら初めから学校でぼっちになんてならないよな」
「うるさい、余計なお世話だ」
俺のツッコミを聞いた楓姉はそう文句を言ってきた。かなり効いている様子だ。これ以上揶揄うと喧嘩になる可能性があったので辞めておいた。
それにしても今日も柚月さんと伊丹さん、楓姉のおかげでかなり欲求を満たせたので満足だ。願わくばこんな日々が今後もずっと続いて欲しい。この時の俺は調子に乗りすぎた結果、全員から惚れられることになるとは夢にも思っていなかった。
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