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第16話 ああ、ずっと俺のそばにいて欲しいくらいだ

 それからクラスの列に合流し、開会式が終わった後でしっかりと準備運動を行う。球技大会ではバレーボールを行うわけだが、普段はあまり運動をしないためサボると普通に怪我をしかねない。

 そしていよいよ球技大会が開始となったが、クラス内でも試合用のチームが作られているため一気に全員が試合をするわけではない。だから俺の出番はまだ先だ。ひとまず出番が来るまでは暇なので他の試合でも見て待とうかなどと思っていると見知った姿が目に入ってくる。


「伊丹さんじゃん」


「あっ、鶴海君。おはよう」


「おはよう」


 声を掛けると伊丹さんは挨拶をしてきたため俺も同じように返した。体操服姿の伊丹さんを見るのは初めてなのでちょっと新鮮だ。


「もしかして鶴海君も試合はまだ先な感じ?」


「そうそう、だからとりあえず適当に試合を見て時間を潰そうと思ってたんだよ」


「そっか、私は見ての通り運動はあまり得意じゃないから結構憂鬱なんだよね。ただでさえ勉強も全然出来ないのに運動も出来ないって存在価値があるのかなって思っちゃうよ」


 伊丹さんのネガティブ発言は今日も平常運転らしい。球技大会という青春の場面には似つかわしくない負のオーラを撒き散らす伊丹さんを俺はいつものようにフォローする。


「いやいや、俺は伊丹さんがいてくれるおかげで楽しいから存在価値がないなんて全く思わないけどな」


「……本当?」


「ああ、ずっと俺のそばにいて欲しいくらいだ」


「ど、どういう意味!?」


「そのままの意味だけど」


「そ、そっか。鶴海君がそこまで言うなら……」


 より正確に言うと伊丹さんだけではなく柚月さんと楓姉もセットでそばにいて欲しい。三人体制のおかげで俺の私利私欲は今までかつてないほど満たされている。

 伊丹さんは何故かめちゃくちゃモジモジしていた。俺から必要とされて嬉しがるならまだしも、何故伊丹さんはそんな反応するのかいまいち分からない。

 そんなことを思っているとどこからともなく向けられている視線に気付く。キョロキョロと見渡していると視線の主と目が合う。

 視線の主の正体は何故か俺を睨みつけるような目で見てきている楓姉だった。いつから俺を見ていたのかは知らないが、多分相手をして欲しくてそんな視線を向けてきているのだろう。すると伊丹さんもその視線に気付いたようで口を開く。


「あっ、あの人って確か……?


「そう言えばこの前図書室でもチラッと会ってたっけ、遠くからずっと黙って見られ続けられるのもあれだから連れてくるよ」


 そう言って俺は楓姉のところに向かう。そしてそのまま手を掴んで楓姉を引っ張りながら戻り始める。


「おい、蓮待て。私に何をするつもりだ!?」


「何って楓姉のコミュ障を改善させる手伝いに決まってるだろ、伊丹さんならちょうどいい練習相手になると思うし」


「いやいや、私はそんなことは望んでない」


「変化には痛みが伴うものだけどそれを乗り越えた先にしか見えない景色もあるから」


「痛みを伴わないと見れないならそんな景色は一生見なくてもいい」


 楓姉はそんな言葉を並べながら抵抗していたが、男子の俺が力負けなんてするはずがなかったため、伊丹さんの前への連行は割と簡単だった。ひとまず伊丹さんに楓姉を改めて紹介する。


「前も話した気がするけどこの人は俺の従姉妹だ、俺達の二つ上だな」


「あっ、三年生なんですね。鶴海君にはいつもお世話になってます」


「……わ、私は蓮の従姉妹の鶴海楓だ」


 コミュ障ではない伊丹さんは普通に話しかけていたが、楓姉は完全にガチガチであり何とか自己紹介こそしていたものの噛み噛みだった。

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