第15話 とりあえずいかがわしい関係じゃないとは分かったから
何事もなく課題を職員室へと持って行った俺達はグラウンド向かい始める。開会式が始まるまではまだ余裕があるため廊下を歩くスピードは割とゆっくりだ。
「そう言えば今日の球技大会のチームって夏休み明けにある学園祭のチームと実は一緒ってことは知ってたか?」
「えっ、そうなの?」
「ああ、球技大会のチームを学園祭と同じにすることで早いうちから三学年を結束させるのが狙いらしいぞ」
学園祭は三学年が一つのチームになって評価を競い合う。今日の球技大会はその前哨戦として位置付けられているのだとか。まあ、ぶっちゃけここで結束したとしても学園祭はまだかなり先のためあまり意味はない気もするが。
「どこでそんな情報を仕入れたのよ? クラスでは誰もそんな話をしてなかったはずだけど」
「ああ、仲の良い先輩から聞いたんだよ」
仲の良い先輩とは言うまでもなく楓姉だ。楓姉は友達もいないくせにその辺りの情報を得意げな表情で教えてくれた。ちなみに楓姉はぼっちのため球技大会も学園祭も苦痛なイベントでしかないらしい。
「ふーん、仲の良い先輩なんているんだ」
「相手をしてやらないとすぐに不機嫌になるから中々厄介な先輩だけどな、しょっちゅう家まで来るし」
同世代の相手でまともに話せる相手が俺しかいないため、完全に楓姉のお世話係になっている。おじさんとおばさんからも楓姉の相手をしてあげて欲しいと頼まれているため、お世話係は両親公認状態だ。
「ちなみにその先輩って男子よね……?」
「いや、女子だぞ」
「……女子を頻繁に自分の家にあげるってどういう関係なのかとっても気になるんだけど?」
そう口にした柚月さんは何故かめちゃくちゃ警戒したような表情を浮かべて俺の方を見ている。
「ぼっちを拗らせ過ぎて社会不適合者にならないように面倒を見てるだけだから」
「ちょっと言っていることの意味がよく分からないんだけど」
「それ以上に良い説明が他に思い浮かばないんだよな」
「まあ、いいわ。とりあえずいかがわしい関係じゃないとは分かったから」
柚月さんが何に対してそんなに警戒していたのかは分からないが、ひとまずは自己解決したらしく一人で納得していた。
ちなみに先ほどの説明を聞いて柚月さんはちょっと引いたような表情を浮かべていたが、俺の中で楓姉と同じ訳あり枠にカテゴライズされていると知ったらどんな反応をするのか気になる。まあ、わざわざ本人に言うつもりはないが。
そんなことを思っていると柚月さんはいつもの不幸体質を発動させたらしく、突然何もないところでつまずいて転びそうになる。
「きゃっ!?」
「危ない!?」
俺は咄嗟に横から柚月さんを受け止めるが、勢いを殺しきれずそのまま一緒に廊下へと盛大に倒れ込む。俺が下敷きになったおかげで柚月さんの被害は少ない。その代わり俺は割と痛かったが。
「……巻き込んで悪かったわね」
「それは別に良いんだけどさ、そろそろ離れてくれないか? 色々なところが俺の体に当たってるから」
そんな俺の言葉を聞いた柚月さんは顔を赤ながら飛び跳ねるようにして離れた。どうやら俺に体の色々なところを当てている自覚がなかったらしい。それから柚月さんはグラウンドに着くまで一言も喋らなかった。





