第14話 それならご主人様であるこの私の前でも同じようにするべきよ
気付けば六月も中旬に突入した。期末テストの足音が徐々に近づいて来てはいるが、考査発表はもう少し先ということもあってまだ皆んな勉強モードには入っていない。
それどころか今日は勉強なんてそっちのけで浮かれているクラスメイト達がほとんどだ。まあ、今日が一年に一回しかない球技大会ということを考えると当然か。
「よっしゃ、今日は一日授業がないからめちゃくちゃ気分が楽だ」
「ああ、毎日これが続いて欲しいんだけど」
「いやいや、お前らは何のために普通科高校に進学したんだよ。まあ、気持ちは分かるけど」
そんな話題で盛り上がるクラスメイト達に俺は委員長っぽく真面目なことを言いつつ、その一方でしっかりと共感の言葉も入れておいた。
この辺りは本当にバランスが難しい。あんまり真面目過ぎる発言をすると周りからうざかられるし、逆に不真面目過ぎても委員長キャラが崩壊してしまう。
だから普段から割と考えて発言している。そのおかげもあって俺は上手いこと今の地位を上手い具合に保てているというわけだ。
「蓮は相変わらず今日も計算しながら上手く立ち回ってるな」
「ありがとう、褒められると嬉しいわ」
「いやいや、ずる賢いって意味だぞ。そろそろ皮肉って気付けるようになれよ」
俺の本性を知っている雪也は先程の行動を見てちょっかいをかけてきた。マジで雪也はしょっちゅう俺に絡んでくるよな。あっ、もしかして俺のことが好きなのか?
幼馴染に好かれていると聞くとラブコメが始まりそうだが、残念ながら俺も雪也も男だ。俺とラブコメしたいんなら美少女に性転換してから出直してこい。心の中でそう思っていると柚月さんが話しかけてくる。
「ねえ、鶴海。特別に私を助けさせてあげるわ」
「めちゃくちゃ上から目線だな、それで俺は何を助ければ良いんだ?」
「日直として職員室に持っていく課題が多過ぎて一人じゃ運べそうにないのよ、あんたなら喜んで手伝ってくれそうじゃない」
「勿論手伝うぞ」
俺は考えるそぶりすら見せず即答した。助けて欲しいと頼まれた以上、断るという選択肢なんて俺の中には存在しない。てか、柚月さんは今日が日直なのか。球技大会で授業がなく黒板を消す必要がないためちょっと羨ましい。
あっ、でも今日授業がない埋め合わせとして一人で職員室まで持っていけない量の課題を出されたので運は良くないか。それから朝のホームルームが終わった後、俺と柚月さんは課題を持って職員室に向かい始める。
「そう言えば鶴海って清水とは結構仲が良いの?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「何というか、清水と話してるときのあんたはちょっとイキイキしてるように見えるから」
「あいつとは幼馴染だし、割と長い付き合いがあって遠慮とかもないからそれがそう見える要因かもな」
特に雪也の前では猫を被る必要もないため色々と楽なのだ。だから雪也の前ではイキイキしているように見えるのだろう。
「ふーん、そうなのね。それなら私の前でもイキイキしてくれたっていいんじゃないの?」
「えっ、何で?」
「だって鶴海って私のしもべでしょ? それならご主人様であるこの私の前でも同じようにするべきよ」
「いやいや、柚月さんのしもべになった記憶はないんだけど!?」
柚月さんから突然そんなぶっ飛んだことを言われた俺は思わずそう声をあげた。柚月さんってそんなことを言うようなキャラだったっけと思う俺だったが、高飛車な性格なので違和感はそんなにない。
「冗談よ、どうしてもしもべになりないんなら止めないけど」
「しもべは流石に勘弁してくれ」
柚月さんのしもべになったら毎日のようにトラブルに巻き込まれる未来が容易に想像できてしまう。





