第12話 分かった、じゃあ責任を取って楓姉と結婚するから
しばらくしてようやく制服が乾いたため俺はそろそろ家に帰ることにした。
「じゃあそろそろ家に帰るわ、また明日」
「ええ、さようなら」
俺は柚月さんの部屋を出てマンションの敷地外に出る。外はまだ雨が降っていたため引き続き伊丹さんから借りた傘が役に立ちそうだ。
それにしても今日の天気予報は全く当たっていないな。文句を言ってやりたい気分になる。そんなことを思いながら夜道を歩き続けてうちに到着した。
帰り道に関しては特に何もトラブルは起きなかったため、やはり先程のあれば柚月さんの超絶不幸体質に巻き込まれた感じだろう。
「ただいま」
「おかえり蓮、今日は遅かったわね」
「ああ、帰り道で傘を持ってない同級生を見つけたから家まで送ってたんだけどトラックに水しぶきをかけられてさ。同級生の家でさっきまで制服を乾かしてたんだよ」
母さんに話しかけられた俺がありのままを答えると特に疑うことなく信じてくれた。やはり日頃の行いが良いためすぐに信じてもらえるのは助かる。
「あっ、そう言えば今日の夕食は楓ちゃんも一緒だから」
「えっ、そうなのか?」
「義兄さんと義姉さんが今日は出張で帰ってこないって言ってたから誘ったのよ」
「確かにおじさんとおばさんは二人とも結構忙しい人だもんな」
楓姉の両親は二人ともサラリーマンでありかなり忙しいタイプだ。今回のように二人揃って出張というパターンは珍しいが、それでも帰りが遅いことは昔からよくあったので母さんは頻繁に楓姉をご飯に誘っていた。
父さんと母さんは楓姉とはめちゃくちゃ仲が良い。だから楓姉が俺の本性を暴露すると信じてしまう可能性もあるのだ。それから自室に戻るとそこには当たり前のように楓姉がいた。
「やっと帰ってきた、待ちくたびれたぞ」
「俺は別に待ってないけどな」
「私にそんな態度を取ってもいいのか? 今の私は蓮に恨みがあるから何をするか分からないけど」
「……もしかしてまだ図書室でのことを怒ってるのか?」
「当然だろ、蓮は私のことを弄んだんだから」
何となく想像はしていたがやっぱり根に持っていたらしい。だがあれに関しては俺にも一応言い分がある。
「楓姉が未来の妻とか言い始めたからその設定に合わせただけだぞ」
「いやいや、あの時は妻じゃなくて彼女って言ってただろ。いきなり初対面の相手の前でそんなことを言われたせいでびっくりしたんだからな」
「妻も彼女も似たようなもんだろ」
「全然違う」
やはり今の言い訳は流石に通用しなかったようだ。流石に楓姉もそこまでチョロくはなかったらしい。
「謝るから許してくれ」
「それなら何か誠意を見せて貰いたいな」
「分かった、じゃあ責任を取って楓姉と結婚するから」
「えっ!?」
俺が冗談でそう口にすると楓姉は驚いたような表情でそう声をあげた。予想外の言葉に不意打ちをうけた様子で完全に固まっている。
えっ、まさかとは思うけど真に受けたりしていないよな。ここで嘘でしたなんてことを言ってさらに楓姉の機嫌を損ねるのはまずいので軌道修正を図る。
「あっ、勿論楓姉にも俺にも将来相手がいつまで経っても見つからなかった場合な。そもそもそんな未来なんてまずあり得ないと思うけど」
「そうか、今の言葉はよーく覚えておく」
楓姉がそう口にしたのを聞いて色々とやらかしてしまった気しかしないが、多分そのうちさっきのことはころっと跡形もなく綺麗に忘れるだろ。だからきっと何も問題ないはずだ。





