第9話 へー、鶴海のくせに今日はかっこいいじゃない
俺は柚月さんのもとへと真っ直ぐ歩いていきそのまま声をかける。
「もしかして雨に巻き込まれたのか?」
「見たら分かるでしょ……って何であんたがここにいるのよ!?」
スマホを見ていた柚月さんは相変わらず不機嫌そうな声でそう答えていたが、顔を上げて俺の姿を見た瞬間驚いたような顔になった。
「ああ、うちはこの近所だから。そういう柚月さんはどこかからの帰りか?」
「ええ、友達の家で遊んだ帰りよ。天気予報では雨が降るなんて言ってなくて傘を持ってなかったから最悪だわ」
「災難だったな、今日は珍しく何もトラブルに巻き込まれてなかったのに」
「本当それよ、せっかく今日は気持ちよく一日を終えられると思ってたやさきにこれだからたまったものじゃないわ。やっぱりそういう星の下に生まれたってことかしら」
そう口にした柚月さんは忌々しそうな表情を浮かべていて、かなりガッカリとした様子だ。まあ、気持ちは分からなくはない。無事に放課後を迎えられたというのに友達と遊んだ帰りにこんな目に遭うというのは、俺が柚月さんの立場でも多分いつも以上に萎えると思う。
「とりあえず傘に入れ、家まで送っていくから」
「へー、鶴海のくせに今日はかっこいいじゃない」
「その言い方だと普段の俺がかっこよくないみたいに聞こえるんだけど?」
「とりあえず身長を後十センチくらい伸ばして顔もワンランク……いや、ツーランクくらいは整えないとかっこいいとは言えないわね」
「マジレスされると普通に辛いから辞めろ」
中肉中背で顔も平凡という自覚はあるが、女子からここまではっきり言われるのは結構なダメージだ。自分は気付いていないだけで実はイケメンだったという夢をいつまでも見ていたい。そんなやり取りをしつつ俺は柚月さんを傘に入れて歩き始める。
「そう言えば鶴海はこんな時間まで何をしてたわけ? 確か部活にも入ってないし、塾とかにも通ってなかったと思うけど」
「ああ、学校の図書室で十八時前くらいまで勉強してたんだよ」
「ひょっとしてそんなに成績が悪い感じなの? 真面目そうに見えるからちょっと意外だわ」
「いやいや、俺は外見通り普通に成績は良いから。勉強の苦手な友達に付き合ってただけだ」
「あっ、そういうことなのね」
俺の補足説明を聞いて柚月さんは納得してくれた。やはり日頃の行いが良いとすぐに信じてもらえるので助かる。
「ちなみに柚月さんは前回の中間テストで学年一位だったって聞いたけど、やっぱり普段からめちゃくちゃ勉強してる感じなのか?」
「基本的には授業を受ける以外、特に勉強なんてしてないわよ」
「えっ、マジか。凄いな」
どうやら柚月さんは天才タイプのようだ。俺が割と頑張ってようやく学年の上位十パーセントに入っているというのに、それを勉強せずに学年一位なのはめちゃくちゃ凄いと思う。
「それならうちの学校よりも偏差値がだいぶ高いようなところでも余裕で受かっただろ」
「ぶっちゃけうちの私立高校は第一志望じゃなかったりするのよね」
「えっ、そうなのか?」
「ええ、実は第一志望だった公立高校入試の日は朝から体調が悪くて。無理して試験を受けてたら試験中だんだん悪化してそれどころじゃなくなって普通に不合格になったわ。後で病院に行ったらインフルエンザだったから本当に最悪よ」
柚月さんは高校受験という人生の一大イベントでも不運に見舞われたようだ。冗談抜きで柚月さんは疫病神に集団で取り憑かれているのかもしれない。





