第1話 だから頑張って本性がバレないようにしてるんだよ
俺の趣味は人助けだ。困っていたり悩んでいたりする相手を見ると助けてしまう俺だが、ただ純粋に誰かを助けたくてやっているわけではない。
人から評価されるとめちゃくちゃ気持ちいいから助けてるだけだったりする。つまり俺の人助けは自分の承認欲求や自己顕示欲を満たすことだけが目的なのだ。でも俺は別にこれが悪いことであるとは全く思っていない。
だって実際に俺の行動のおかげで相手は一応助かっているのだから。やらない善よりやる偽善とはまさにこのことだろう。
問題だったのは俺の欲求を満たせるほど困っている相手が中々いない事だ。だからこの性癖に目覚めてから悶々とした日々を過ごしていたわけだが、高校に入学してから状況が一変した。
一つはクラスメイトの女子である柚木真綾のおかげだ。柚月さんは疫病神に取り憑かれているのではないかと思ってしまうくらいの不幸体質を持っている。
「きゃあぁぁぁぁ!?」
ちょうど今も俺の目の前で手を滑らせてお弁当箱を中身を全て床にぶちまけていた。こんな感じで不運なアクシデントに毎日のように巻き込まれているせいか、柚月さんは他のクラスメイトから距離を取られている。
顔は普通に可愛いので最初は下心全開で助けようとしていた男子も数人いたが、その頻度があまりに尋常ではない上に内容もかなりえぐかったためあっという間にギブアップしてしまった。
そのため、クラスで柚月さんを助けようとするのは今や俺だけだ。だから俺は今日も床にぶちまけた弁当の中身を見て涙目になっている柚月さんに話しかける。
「また今日も派手にやったな、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ、この惨状を見て分からないの?」
「それだけ悪態がつけるなら大丈夫そうだな、片付けるのを手伝うよ」
柚月さんはただでさえ凄まじい不幸体質があるというのに、こんなふうにプライドが高くツンツンした性格のため、それもクラスメイト達から敬遠されている要因の一つだ。ひとまず相変わらず涙目な柚月さんと一緒に床に散らばったお弁当を片付け始める。
クラスメイト達からは完全に柚月さん係と思われているが、そのおかげで俺は評価は好調なのでむしろ感謝したいくらいだ。願わくばこの調子でアクシデントに巻き込まれ続けて欲しい。
「鶴海のおかげで助かったから一応お礼を言っとくわ、ありがとう」
「言葉と表情が噛み合ってない気がするのは気のせいか?」
「気のせいよ」
柚月さんのツンツンぶりは今日も平常運転のようだ。その後柚月さんは購買でパンを買うと言い残して教室から出て行く。そんな様子を見て満足した俺が教室を出てトイレに向かっていると後ろから誰かが話しかけてくる。
「蓮は相変わらず今日も人助けに勤しんでるんだな」
「おいおい、いくら本当のこととは言えそんなに褒めるなよ。照れるだろ」
「いやいや、俺がお前みたいなやつを褒める訳ないだろ。皮肉って事に気付けよ」
クラスメイトである清水雪也はそう口にした。幼馴染である雪也は俺の本性を知っているため周りのクラスメイト達とは違い俺を覚めた目で見てくる。
どうせ幼馴染がいるならこんないけ好かないイケメン男子ではなく可愛い女の子が良かったと内心で常々思っている事は内緒だ。女の子なら今の棘のある言葉や冷たい視線も萌えるのに。
「人に褒められるような立派な事しかしてないのに酷い言い草だな」
「蓮が承認欲求と自己顕示欲を求めるモンスターだって知ったら皆んな同じような事を言うと思うぞ、真面目な委員長の中身がこんなんだって知ったら皆んなドン引きするだろうな」
「だから頑張って本性がバレないようにしてるんだよ」
そう、俺は自分から委員長を引き受けるなどクラスでは真面目系キャラを演じている。そのおかげで積極的に人助けをしても違和感のないポジションを確立出来たためまさに狙い通りだ。
「あんまり調子に乗ってたらいつか絶対痛い目を見る日が来ると思うからマジでほどほどにしといた方がいいと思うぞ」
「オッケー、頭の片隅には入れとくわ」
そんな日が来るとは一ミリも思っていなかったが一応ポーズとしてそう答えておいた。もっとも長年幼馴染をやってるだけあって雪也は全く信じていない様子だったが。
何故雪也が俺の崇高な行いを理解してくれないのか不思議で仕方がない。ちなみに一度お前もやってみろよと雪也を誘ったこともあったが速攻で拒否された。
「午後にもう一回くらい何かやってくれないかな」
そうすればまた助けられるので俺の評価はさらに上がるはずだ。次は何をやらかすのかはまだ分からないが楽しみで仕方がない。
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