表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤色の花

作者: 飛木赤

ガタンゴトン

列車の音

心地よい振動

広がる海


赤色の花が線路脇に立っている

一筋の光が差し込んでる


体が軽い

気持ちが良い

眠たくなる

少し寝よう



どうも私は昔からあの赤い花に心が惹かれる

特段花が好きと言うわけではないのだが、ついつい咲いているのを見ると少し足を止めて何かを考えるでも写真を撮るでも何をするでもなく、ただただ、ただただその花を見る

そんな何が魅力的かと問われても答えられないし、自分でも何故わざわざ見ているのか理由が分からない

けどこれが一目惚れというやつだったのか、初めてその赤い花を見た時からどうも私はその花をさしたる理由なく、いや理由はあるが分からないだけなのか、ついついその花を見つけるたびに少し足を止めて見てしまう

よく田んぼの近くを歩くのだがそこで見る姿と線路脇で見る姿、同じ花なのにどうも姿が違う

どちらも美しいが私は田んぼに植っている姿の方が好きだ

かといって線路脇が嫌いというわけでもない

あのどことなく現実と非現実が交錯したような、文明と非文明が交錯したような、そんな姿もまた一興という気持ちではある

でもその現実的たる文明感にどうも一抹の拭いきれないものがあるノスタルジーを感じないというと近いかもしれないがそれも正確ではない

嫌いなわけではない、むしろ他の花と比べればその姿も奥ゆかしさがあって好きだ

だがやはり一目惚れをしたのが田んぼだったからなのだろう、田んぼ脇の姿には勝てない


あの花は何故あれほどに赤いのか、桜のように死体でも埋まっているからなのか

よく赤は情熱だの何だのと言われるが、あの花の赤はそう感じない

帰るべき場所というか、落ち着く存在な色

それがあの赤い花が醸し出す色香ともいえる魅力

その魔力たるやどうも抗えないほどに美しく、心が惹かれてやまない

しかしこの線路脇の赤い花にどうも惹かれきれないのはそんな魔力に色香に当てられた人たちの死体が埋まっているからなのだろうか

それが田んぼ脇とは違う姿を私に見せるのだろうか




こんな理由で列車に乗るとは思ってもいなかった

わざわざ車窓から見えるあの赤い花を見るためにだけなんて

確かに田んぼ脇は車からも、自転車からも徒歩ででも見はした

であれば別の、つまるところ線路脇の姿を今までとは違った視点で見るというのは一つ理にかなっているのかもしれない

けどそれだけの為にわざわざ列車に乗るとは私もどうかしたのかもしれない


人のいないこの空間から、この心地よい振動と音を享受しながらに見るあの赤い花はどんな姿を私に見せてくれるのか

少し楽しみだ


思っていたよりもこれはこれで良いものだな、それが感想だ

依然として田んぼ脇の姿の方がどこか惹かれるところはあるが、列車という存在の相乗効果のおかげかどうもいつもより美しく見える

次は確か海が見える駅だったはずだ、列車から降りて少し次の列車までの間一度線路脇の姿を見てみるのもいいかもしれない





何故か体が動かない、耳は聞こえる

足音だろうか

目も見える、靴だ

やはり足音だったのか


さっきまで私は駅であの赤い花を眺めていたはずだが、寝てしまっているのだろうか

もしかして駅員に起きるよう体を揺すられているのか、であれば早く起きなければ

体は妙に重たいし感覚もはっきりしないが、とにかく目をしっかりと開けて起きる意思だけは伝えなければ

おかしい

どうも目と耳以外が動かない


少しでも状況を知りたいのだが

「人が突然飛び込んで来たんです!

はい海臨駅です!

急いで救急車をお願いします!」


なるほどどうやろ私は列車に飛び込んだようだ、特段希死念慮もなかったのだがな

こんな状況なのに妙に頭が冴えて冷静なのはアドレナリンの影響なのだろうか

いったい何故自分は飛び込んだのだろう、不思議だ

取り敢えず見える範囲で周りを見よう、ちゃんと把握したい


あぁ、なるほど

そういうことか

まさか本当に魔力があったとは思わなかった

線路脇の赤い花に惹かれきれないのはその魅力を最大限に出せる舞台じゃなかったからなんだ

死が彩ってこそ本当の美しさを発揮する

その彩に私がなった、そういうことなのだろう

確かに美しい

田んぼ脇も美しかったがこれはその比ではない

本当に美しい、死と命で彩ったあの赤い花がこれほどまでに美しいなんて

死体が埋まっているから惹かれなかったんじゃない、死体が埋まっていないから惹かれなかったんだ

あぁ、なんて美しいんだ

でもこの美しさをずっと見れるわけではない

この無駄にはっきりとした頭でそう理解できる

どうかこの姿を常に頭に植え付けていられるようにちゃんと見ておかなければ

でもこの来る眠気がそれを遮る


でもそれもいいのかもしれない

常に美しければこの姿を見ても感動はしなかったはずだ

そう、この一瞬のために輝いた

そう考えればこの眠気に身を任せて夢の中で再度楽しむ程度に留めておくのもいいのかもしれない

そう思えばこの耐え難い眠気に逆らわず心地よく眠れるかもしれない

そうしよう

少し疲れた、今日は列車旅もしたんだ眠くて当然だ、少し寝よう

明日はまた田んぼ脇の姿でも見に行こう

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ