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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

触手型宇宙人に脳内を寄生されてる女子高生と触手型宇宙人に脳内を寄生されて抗ってる女子高生の話

作者: 甲虫

第一章 寄生、それぞれの朝


朝の光が、カーテンの隙間から差し込む。

私は布団の中で、じっと天井を見つめていた。


――頭の奥が、妙に重い。

そこに、私じゃない“誰か”が確かにいる。


こめかみの奥に、細い針金みたいな何かが深く入り込んでいて、

脳のしわ一つひとつを、冷たい触手が静かに這っているような感触。

その触手は、眠っている私の意識をやさしく(でも強制的に)撫でまわしながら、

「起きましょう」と命令してくる。


私はまだ眠い。

だけど、私の意思とは無関係に右手がカーテンをシャッと開けてしまう。

自分の体なのに、自分のものじゃない。


これが――

脳内に寄生された女子高生の日常、だ。


「……だから、勝手に動かさないでよ」


言葉には出さない。ただ心の中で抵抗する。

でも、脳の奥に絡みついた触手型宇宙人Bは、私の訴えなんか意に介さない。

指先から足先まで、糸でつながれているみたいに、

私は今日も制服に着替えさせられ、髪をまとめ、家を出て学校へと歩かされる。


私は――本当に、私のままなんだろうか。


放課後。

私は人気のない教室で瑠璃と向き合っていた。


彼女は私と同じ「寄生」された女子高生だ。

けれど、彼女の場合は少し様子が違う。

明るくて、どこか楽しそうで、むしろ“支配されている”ことを誇らしげにすら思っている。


瑠璃の中の触手型宇宙人Aが、表情ひとつ動かさずに口を開いた。


「あなたもこの星に来ていたのですか」


私は意志とは裏腹に、口が勝手に動いてしまう。

「う、うぐぎぎ……はい、そうです……」


やめて、と心で叫んでも、口だけが別人格になったみたいに言葉を吐く。

この奇妙な感覚には、いまだに慣れない。


Aが続ける。「なぜ精神まで支配しないのですか?」


Bは私の口をぎこちなく操り、

「ぐぐぐ……やはり、人権を尊重しなければ……なななりませんから……」


「ふぅ……では、瑠璃、ちょっと出てきてください」


Aの言葉に、瑠璃の目の奥に少しだけ人間らしさが戻る。

「……あ、うん」


私は息を切らして、額にじんわり汗をかいていた。

「ぜぇ……はぁ……る、瑠璃……まだ、意識が……」


「うん、舞ちゃん、普段は私の人格だよー」


あっけらかんと笑う瑠璃。その笑顔が、少しだけ羨ましい。


だが、Bがまた強引に私の口を奪う。

「『がぎ!?』 精神まで支配されていルというのに、人格は消去していないのですカ……『やめで、でてこないで……』」


瑠璃はにこにこと答える。

「支配なんてされてないよー、みんな私の意思なんだー」


本当に?と私は思うけれど、彼女はまるで疑いを知らないようだ。


Aが再び前に出てきて、淡々とした口調で宣言した。

「このように、我々は非常にスムーズな共生関係を営んでいます」


私は力なくため息をつく。

「……なにが共生よ……」


Bは私の中で、ちょっと申し訳なさそうに私の口を使って語りかけてきた。

「ま、ま、舞……わたシは、無理やり支配したくなイの、のですすす……」


「……これが無理やりじゃなくて何なのよ……」


私の体から流れ落ちる汗は止まらない。

教室の空気は、やけに静かで、まるで別の世界にいるようだった。


第二章 ヒーロー、襲来


学校帰り、私の体は“自分の意思”よりも少し先に動き始める。

Bの触手が、脳の中でそっと動くたび、私は背中をくすぐられるような、不安なざわめきを覚える。


「……コンビニに寄って帰ります」


自分の口がそう言った。でも私は、本当はまっすぐ帰りたかった。

Bの意思が、私の行動をひとつずつなぞっていく。

私は抵抗できないまま、ただ道順だけはぼんやり眺めていた。




コンビニの自動ドアが開く。

中にはすでに瑠璃がいた。彼女は、どう見ても普通の女子高生――

だけど、その体には宇宙人Aが根を張っている。

彼女は、Aと完全に“同化”していた。


不意に、店内で叫び声が上がった。


「金を出せ!さっさとしろ!」


カウンターに、ナイフを持った男――強盗だ。

私は一瞬、体を強張らせたけれど、その前にBの触手が脳の奥で震える。


危険、と判断したのだろう。

でも――もっと早く反応したのは、瑠璃の中のAだった。


瑠璃の口元が微笑み、その声が妙に静かに響く。


「……5秒で制圧します」


すぐに、瑠璃の表情が無邪気に跳ねる。


「かっこいい~!」


その直後、私は信じられない光景を目にした。


瑠璃の制服の下から、無数の細く長い触手が――

霧のように伸び、ナイフを持った男の手首、肩、胴体、足首、

ありとあらゆる関節に絡みつく。


強盗は一言、「は? ひいいいいい!!」と叫んだだけで床に沈み、ピクリとも動かなくなった。


あまりに一瞬のことで、店員も私も声が出なかった。


その直後、警察が突入してきた。


「手をあげろ!……あれ? 女子高生?」


警官たちは、店内にピースサインで立つ瑠璃と、横たわる強盗を見比べて硬直している。


そのころには、触手はすっかり消え失せていて、

何事もなかったかのように、ただ静かな日常が戻っていた。




数日後、学校。

昼休みの教室でスマホを見ながら、私はため息をついた。


「……この前、テレビ出てたわよね。」


A(瑠璃の口で、首をかしげる)

「テレビとは?」


瑠璃は少し得意げに笑う。


「有名になったんだよ!SNSでもいっぱい話題になってるよ~」


Aは、まったく動じずに言った。

「それは困りましたね」


私はまた、深くため息をついた。


いまさら何を言っても、もう遅い。

私たちは「普通の女子高生」じゃない。

そして、私の脳には今日もBの触手が、ひっそりと絡みついているのだった。



第三章 共生のカタチ


最近、私は少しだけ“慣れてきてしまった”自分がいる。


脳の奥に冷たく伸びた触手が、

そっと私の思考を撫でながら、

「危険です」「回避しましょう」と囁いてくる。

最初は毎回、心臓が跳ねるほど怖かった。

でも今は――

「便利だな」と思ってしまう自分がいるのが悔しい。


ある日の放課後、瑠璃とAと教室で顔を合わせた。

Aは相変わらず、瑠璃の口から無機質に話し出す。


「最近はうまくやれているようですね」


私は少しだけ苦笑して答える。


「……まぁ、便利……だからね。

この前も交通事故に遭って、腕とかちぎれたのに治ったし」


瑠璃はあっさり返す。

「へー、良かったね」


Aはさらりと自慢するように言った。

「私なら事故に遭う前に体を動かして避けますが」


瑠璃はすぐに目を輝かせる。

「ほんと!さすが“しょっくん”!」


私は思わず問い詰めた。

「えっ、そうなの!?なんでそうしなかったのよ!」


Bが私の口を、不器用に動かす。

「私にはそこまでのパワーはありません。しかし超回復能力ならあります」


私は肩を落としてため息をつく。

「……わたしも“しょっくん”に寄生されたかったわ」




しばらくして、話題は“生殖”に移った。

(もう、この単語にすら驚かなくなった自分が怖い)


Aが突然、真面目な顔で私に尋ねる。


「ベクター(B)と生殖はきちんと行っていますか?」


その言葉に、私は顔から火が出そうなくらい赤くなる。

でも、もう隠せることなんて何もない。

私はただ、こくんと小さくうなずくしかなかった。


「/////」コクン


Aはさらに、平然と質問を続ける。


「卵は?」


私は思わず、お腹のあたりに手を当てる。

あの感触――脳の奥から伸びてくる冷たい触手が、身体の奥に何かを“残していった”感覚は、

今も鮮明に残っている。


「……わたしの“ここ”に入ってるわ」


そっと、お腹をさする。


瑠璃は満面の笑みで言う。

「そっかー、良かったー!この前なんてさ、授業中にやってくれてさ~」


私は思わず声を上げる。

「じ、授業中!?うそでしょ!?」


Aは淡々と補足する。

「時々ですが」


私は呆れ半分、諦め半分でつぶやく。

「……やっぱ私は、あいつ(B)で良かったわ……」




少し沈黙が流れたあと、私はふと疑問を口にした。

「てか……なんで今あいつは出てこないのよ」


Bが、やさしげに私の口を操る。

「会話を楽しんでいたんじゃないのですか」


私は苦笑しながら、ちょっとだけ素直になる。

「……いたの。別に瑠璃と二人きりの時は出てきていいのよ」


Bの声に、微かな安堵が混じる。

「ありがとう、舞」




私は最後に、ずっと気になっていたことをAに尋ねた。


「……で、いつ地球は乗っ取られるの?」


Aは、瑠璃の口を通して首を傾げる。

「乗っ取るとは心外です。私たちは共生を目指しているのです」


瑠璃はにっこり笑って、

「そうだよー」


私はため息混じりに、

「精神汚染しといて、何が“共生”よ……」


Bが私の口で重ねる。

「そうだろ?やっぱり人権は大事だ」


私は乾いた笑いをこぼす。

「私に人権なんて残ってないわよ……」


Aは合理的に言う。

「たまに女性の胎内を貸していただければそれで十分です」


瑠璃は明るく手を振って、

「いっぱい子供つくろうね♡」


私は空を見上げてつぶやいた。


「……それ、絶対“共生”じゃないから……」


教室の窓から入る春の光だけが、やけに普通の日常を照らしていた。


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