第五章:突破口
役員会は、重苦しい空気の中で始まった。
健太のプレゼンテーションに対し、役員たちからは厳しい質問や懐疑的な意見が相次いだ。
しかし、健太は怯まなかった。
彼は、データに基づいた冷静な分析と、未来への熱い情熱を込めて語り続けた。そして、彼の言葉は、一人の人物の心を動かした。
「…面白いじゃないか」
静かに口を開いたのは、大和フーズの創業者一族であり、現社長の山崎龍一郎だった。これまで保守的な経営姿勢を貫いてきた社長の予想外の発言に、役員たちはどよめいた。
「リスクはあるだろう。だが、何もしないことのリスクの方が、今は大きいのかもしれん。高橋君、君に任せてみよう。ただし、条件がある。必ず、結果を出すことだ」
社長の鶴の一声で、健太のプロジェクトは正式に承認された。限定的な予算と人員ではあったが、会社として公式に認められたのだ。健太は、込み上げる感動を抑えきれなかった。
健太をリーダーとする正式なプロジェクトチームが発足した。メンバーは、健太の熱意に共感した若手社員たちが中心だった。彼らは、これまでの鬱憤を晴らすかのように、活き活きと働いた。
デジタルマーケティング戦略は本格的に展開され、SNSでの話題性はさらに高まり、オンラインストアの売上は目に見えて増加した。テレビCMなどの従来型広告に比べて、はるかに低いコストで、大きな成果を上げ始めたのだ。
この成功は、社内に大きなインパクトを与えた。健太のチームの活躍を見て、「自分たちも何か新しいことに挑戦したい」と考える社員が現れ始めた。保守的だった社内に、少しずつ変化の兆しが見え始めていた。
プロジェクトの成功報告会で、健太は晴れやかな表情で壇上に立っていた。彼の視線の先には、誇らしげな表情の佐々木課長、温かく見守る佐藤、そして、静かに頷く山崎社長の姿があった。
「私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、変化を恐れず、未来を信じて行動すれば、必ず道は開けると確信しています」
健太の言葉は、会場に集まった社員たちの心に、新しい風を吹き込んだ。大和フーズは、健太という一人の若手社員の情熱と行動によって、ゆっくりと、しかし確実に変わり始めていた。そして健太自身も、この大きな挑戦を通して、一人のビジネスパーソンとして、確かな成長を遂げていたのだった。彼の目には、すでに次の挑戦への決意が宿っていた。