第一章:閉塞感
灰色の高層ビルが立ち並ぶ都心の一角。
中堅食品メーカー「大和フーズ」のオフィスは、今日も静かな熱気に包まれていた。
しかし、企画部の若手社員、高橋健太(27歳)の心は、その熱気とは裏腹に重く沈んでいた。
「また、却下か…」
健太の肩が、がっくりと落ちた。これで何度目だろう。寝る間も惜しんで練り上げた企画が、またしても「時期尚早」の一言で片付けられてしまった。
健太が提出した新商品のデジタルマーケティング戦略案は、上司である佐々木課長から、いつものように冷たく突き返された。
「高橋君、君のアイデアは面白い。だが、うちのような伝統ある会社には、まだ早すぎる。リスクもコストも考えろ」
大和フーズは、創業50年を超える老舗企業だ。
品質の高い製品で長年顧客の信頼を得てきたが、近年は市場の変化についていけず、業績は伸び悩んでいた。
健太は、この状況を打破するには、旧態依然とした販促手法から脱却し、SNSやインフルエンサーを活用した新しいアプローチが必要だと考えていた。
しかし、彼の熱意は、常に「前例がない」「リスクが高い」という壁に阻まれてきた。
「このままじゃ、会社は時代に取り残される…」
デスクに戻った健太は、窓の外に広がる都会の景色を眺めながら、深い溜息をついた。情熱を燃やせる仕事がしたい。
自分の力で会社を変えたい。そんな思いとは裏腹に、何も変えられない無力感が彼を苛んでいた。