1話
塩対応のイケメンだけを書きたい。
勢いだけで書いています。反省はしていますが後悔はありません。
ラピス王国には、国内でその名を知らぬ者は居ないと言われるほどに有名な男がいる。
その名もレイモンド・レイン。彼は王族ではないが、王族と同じほどに知名度を持つのだ。
彼の持つ他の誰よりも多い魔力と…何よりもその類を見ない程の美貌、聖人と称される程の性格の良さで貴族の間で有名になった彼は、いつの間にか絵画などが秘密裏に売られ、国中の女性を虜にしたのである。
そして私、リリーもまた、彼に心を奪われた女性のうちの1人でもあった。しかし私は自分の立場を分かっていた。
平民と、貴族。
花屋と、騎士。
凡人と、聖人。
容姿、身分、性格…どんな観点から見ても、釣り合うものなど何一つないのだから。夢を見るだけ無駄だと、私は知っていたのだ。悲しきかな、初恋は、蕾すら実ることなく散っていった。
そんな風に毎日を過ごしていたある日、事件は起きた。
店の前に、人が倒れていたのだ。
男性、だろうか。目深にフードを被っており、顔を見ることは出来ないがそんな気がした。見た感じ身長が高く…180センチはあるのではないかと思う。
「え…ちょっ、店の前で倒れないでくださ…」
今は深夜だから店の妨害になることはないが、近所の人に見られたらどうなるかわかったものではない。とりあえず店の中に移動させようと思い、フードの根っこを掴んで引いた瞬間、フードが脱げその顔が露になった。
「なんで…!?」
そこには夢にまで見た騎士、レイモンド・レインの姿があった。
絵画よりも美しい人間なんていたのね、と呟く。
夜に溶かしたような色の長い髪も、神様が自ら造形したようなその美しい顔も、全て実際に見たことはなかった。
「う…」
じっくりと観察しようかフードを手放ししゃがんだその時、至近距離で呻き声が聞こえた。そしてゆっくりと、しかし確実に目が開いてゆくのを、私はまるでスローモーションのように見ていた。
「…誰です?」
耳に、今まで聞いた事がないほどに冷たい声が響く。
その瞬間、本当に、聖人と称される彼なのだろうかと自信がなくなってしまった。実は兄弟が居て今目の前にいるのは騎士様本人ではないのではなかろうか。いや、彼は一人っ子だと道端で嘆いている令嬢がいたのだ。そんなはずは無い。
「聞いていますか?あなたは何者ですか?」
「あっ…えぇと…」
なんて答えれば良いのだろう。雰囲気からして別に名前を聞いている訳ではないだろうが、はっきり言って名前以外に伝えられるような情報がない。
「聞こえていますか?」
いつの間にか立ち上がった騎士様はどこから出したのか分からない剣を私に向けていた。