第一章〜あかりんは、看護師さん
第1章です。よろしくお読みになっていただけましたら幸いです。
あかりんが看護師であるというのを知ったのは、つい三日前のことだった。
リスナーの一人からの質問がきっかけだった。
「あかりんさん、お仕事は何をしてらっしゃいますか?この時間、配信することが多いように思うのですが、朝帰りですか?朝は暇なのですか?ひょっとして夜職、水商売?」
そんな不躾とも思えるコメントがディスプレイ内のコメント・ビューワに現れたのだ。
コテハン━━コテハンとは、固定ハンドルネームのことであり、コメントを送るユーザー自身が自分につけるインターネットの世界内で使用するニックネームみたいなのだけれど━━を見れば、この番組内でほよく目にする常連リスナーのコテハンなのであった。、
その答えは、個人情報であるしプライベートなことだからと答えるのをあかりんが渋るのきと思っていたのだ。
ところが、彼女。
『冗談じゃない。失礼ね。そんなんじゃないですよ!夜勤明けには違いないけとね。ある意味お夜職かもしれないけどお!』
などと怒り出したのである。
その勢いに気圧されたのか、文字テキストでコメントはぴたりと止まった。
「失礼しちゃうわ!」
いかりんはふくれっ面。
僕は別に夜のお仕事の方々にとくに偏見みたいのはないから、彼女が怒る理由は分からなかったけれど、とにかく彼女は続けた。
「わたし、看護師だよ!ひとの命を救う方の仕事してんのよ」
口が悪かったのかもしれない。が、ともかく、その答えを聞いて僕は喜んだ。いや、 喜んだのは僕だけではないかもしれない。
看護師さんだからというのではなく、推しのプライバシーを共有できるというのは男にとって至上の喜びなのに違いない。
案の定、あかりんを冷やかすようなコメント、逆に応援するコメントなどが乱れ飛んだ。
━━あちゃあー。やっちゃったな。あかりん。言わなきゃいいものを。リスナーの挑発に乗ってしまったな。
僕は彼女の身の上を心配した。
食事を調べたと言って、具体的な昨晩は知られたわけではないし、その企業名 だって今の段階でわかるはずもない。一見 心配することはなさそうだけど、いやいや ネットユーザー舐めるものではない。たった1つの関係のなさそうな情報から、プライバシーを特定してしまうのが ネットユーザーというもの。
油断はならないものなのなのだ。
そこら辺のところは、少し歳を行って見えるあかりんより、僕たちの世代の方が身をもって知っているのかもしれないけれど。
お読みになっていただきまして、誠にありがとうございました。まだまだ書きます。