夢と寝言と君にキス
隣の家の美月を、俺は小学校から好きだった。
可愛い上にコミュ力が高く、困った人にはためらいもなく手を差し伸べる、心の優しい子だった。
しょっちゅう俺の部屋に遊びにきては、
「起きてよー、一緒にゲームしますよー」
と、寝ている俺を起こしてゲームをやっていた。
高校生になっても、その関係は変わらなかった。
美月のことが好きだった。
もう、どうしようもないくらいに。
だが、コミュ障で底辺の俺にとって、人気者の美月はあまりにも眩しい存在だった。
俺にはもう、美月の要望には絶対に応えることでしか、この関係を維持する術がなかった。
「美月は原宿が好きだな」
今日は二人で原宿に来ていた。
「楽しいでしょ?」
「美月とだったら、どこでも楽しいよ」
「ほんと? 嬉しい!」
美月は笑顔で、俺に優しいキスをしてくれた。
そして、
「ゲームしますよー」
予想外の美月の発言に、俺はビックリして目を開けた。
ベッドで寝ている目の前に、美月が覗き込んでいた。
いつもの光景だった。
「あ……来てたのか」
「うん」
「夢か……」
思わず深い溜め息を吐いた。
「ぐっすり寝てたね」
「めっちゃ寝た」
「原宿に行ってたの?」
「なんで?」
「寝言で『原宿……』って言ってたから」
「ああ……」
「誰と行ってたの?」
美月、とは言えない。俺は、
「好きな人」
と、ごまかした。
――つもりだった。
「私のことが好きなの?」
「…………」
「寝言で『美月』って何度も言ってたよ」
違う、とは言いたくない。かといって、そうだと言うのも勇気がいる。
寝起きの頭がまわっていない時に、なんでこんな取調べを受けてるんだ。もう、何も浮かんでこない。俺は白状するしかなかった。
「そうだよ」
「そうなの?」
「はい……」
「まあ……分かってたけどね」
「ええっ!?」
「だって、君は私の要望になんでも応えてくれてたから態度で分かるよ」
「あのさ」
言いながら、俺は美月を見た。
「俺は君じゃなくて、隼人だよ」
「…………」
「会った時からずっとだ。なんで君って言い方すんだよ。名前で呼んでくれよ」
すると、美月の顔はみるみる真っ赤になっていった。
「……好きな人の名前を呼ぶのって、恥ずかしすぎて無理じゃない……?」
「えっ?」
「実は、我慢できなくて、寝ている君にキスしちゃったの……」
「ええっ?」
あれは夢じゃなかったのか。
驚く俺に、
「怒らないでね?」
と、美月は要望を出した。
いたずらっぽく笑った顔は、もう俺の応えをとっくに分かっているそれだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
「小説家になろうラジオ大賞」の応募作品です。
苦手な恋愛ものを、久しぶりに書いてみることにしました。
コミュ障で底辺の主人公が、コミュ力が高い人気者の女の子に救われる話です。
出てきた美月とは、コロン様、みこと。様、黒星★チーコ様、未来屋環様、エタメタノール様、私をお気に入り登録してくださっている方、評価をしてくださった方がモデルです。
もう書くのをやめようと落ち込んでいた底辺の私を、皆さんが助けてくださいました。
本当にありがとうございました。