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46億年の色彩

作者: ようひ
掲載日:2024/05/14


「夕日ってどうして泣くんだろうね?」


幼馴染のエニカがそう言うと、潮風が吹いた。

真っ赤な太陽は、燃える海に沈んでいくところだった。


「そんなの、知らないし」


私は飲み終わったコーラの缶を、海に投げた。


「あー、環境破壊だー。いけないんだぁ」

「……別にいいじゃん」

「よくないよぉ。海が泣くよ?」


にへへ、と笑うエニカ。

私はうつむいた。

手の甲で目を拭くと、濡れた砂粒が付いていた。


「……」

「……」


潮の香り。

波の音がする。

大きな夕日からも、音が聞こえてくるようだった。

じーんという感じの、音のない音だ。

それは、私が勝手に聴いている音なのかもしれない。


「ミイ、そんなに泣かないでよ」


エニカが後ろからぎゅっと抱きしめてくる。


「一生会えないわけじゃないんだから」

「……なんでそんなに楽観的なの」


結んだ口を開くだけで、また涙が出そうになる。


「アメリカなんて、聞いてない……どうしてそんな、遠いところに行くの」


たったさっき、聞いたこと。

エニカは親の仕事の都合で、アメリカに行くことになった。

帰ってくる見込みはない。私の親がそう言っていた。エニカの親から直接聞いたから、間違いはないらしい。


「私たち……生まれたときからずっといっしょにいたのに」

「ミイ」

「そんな簡単に離れ離れになるなんて……イヤだよ……」


私は俯いて目を閉じた。

夕日も見たくない。エニカも見たくない。

何もかもが、見たくない。

閉じたまぶたから熱い雫が鼻水と一緒になって落ちていく。


波の音がした。夕日の音も。

音だけが、私の中に素直に入ってくる。耳にまぶたはないから。


「あたしさぁ、実は知ってるんだぁ」


立ち上がる音といっしょに、エニカの声が上から降ってきた。

彼女の声も聞きたくない――でも、それはできなかった。


「なんの話」

「さっきの話。夕日が泣く理由だよ」

「……そんなの、知らない。聞きたくない」

「昔からね、夕日の赤ってずっと変わってないんだっよ」


昔、という言葉が私の中で響く。


「今まで生きてきた人たちがずっと見てきたんだよ。この赤を。長い長い時をかけて積み重ねられた赤が、この夕日の色なんだ」

「……何を言ってるの?」

「わからない?」


そこでぐっと手を引かれた。私は思わず立ち上がる。


「あっ」


エニカの姿は、沈む夕日の中にあった。


「私たちの人生も、そんな人類積み重ねの一部に過ぎないってことだよ!」


そして引っ張られるままに、砂浜を走った。

海に向かって、夕日に向かって、走っていく。

ビーチサンダルが脱げた。熱い砂が足に絡む。


「出会いも別れも、46億年の中のひとつさ!」


前を走るエニカが振り向いて、笑う。

夕日の中で輝く幼馴染に、また涙が出る。

でも、なんだか急に、何もかも大丈夫な気がした。

なぜかはわからない。エニカがアメリカに行くことも変わらないし、これから会えなくなることも。

でも、何事もうまくいく。

人類は、地球は。

何億年も、この夕日を見続けてきたのだから。


「ねぇ!」


私は思わず声を上げた。


「私たち、これからもずっと友達でいられるかな!?」


エニカは、大きな口を開けて、笑った。


「46億年――あたしたちはずっと友達だよ!」



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