46億年の色彩
「夕日ってどうして泣くんだろうね?」
幼馴染のエニカがそう言うと、潮風が吹いた。
真っ赤な太陽は、燃える海に沈んでいくところだった。
「そんなの、知らないし」
私は飲み終わったコーラの缶を、海に投げた。
「あー、環境破壊だー。いけないんだぁ」
「……別にいいじゃん」
「よくないよぉ。海が泣くよ?」
にへへ、と笑うエニカ。
私はうつむいた。
手の甲で目を拭くと、濡れた砂粒が付いていた。
「……」
「……」
潮の香り。
波の音がする。
大きな夕日からも、音が聞こえてくるようだった。
じーんという感じの、音のない音だ。
それは、私が勝手に聴いている音なのかもしれない。
「ミイ、そんなに泣かないでよ」
エニカが後ろからぎゅっと抱きしめてくる。
「一生会えないわけじゃないんだから」
「……なんでそんなに楽観的なの」
結んだ口を開くだけで、また涙が出そうになる。
「アメリカなんて、聞いてない……どうしてそんな、遠いところに行くの」
たったさっき、聞いたこと。
エニカは親の仕事の都合で、アメリカに行くことになった。
帰ってくる見込みはない。私の親がそう言っていた。エニカの親から直接聞いたから、間違いはないらしい。
「私たち……生まれたときからずっといっしょにいたのに」
「ミイ」
「そんな簡単に離れ離れになるなんて……イヤだよ……」
私は俯いて目を閉じた。
夕日も見たくない。エニカも見たくない。
何もかもが、見たくない。
閉じたまぶたから熱い雫が鼻水と一緒になって落ちていく。
波の音がした。夕日の音も。
音だけが、私の中に素直に入ってくる。耳にまぶたはないから。
「あたしさぁ、実は知ってるんだぁ」
立ち上がる音といっしょに、エニカの声が上から降ってきた。
彼女の声も聞きたくない――でも、それはできなかった。
「なんの話」
「さっきの話。夕日が泣く理由だよ」
「……そんなの、知らない。聞きたくない」
「昔からね、夕日の赤ってずっと変わってないんだっよ」
昔、という言葉が私の中で響く。
「今まで生きてきた人たちがずっと見てきたんだよ。この赤を。長い長い時をかけて積み重ねられた赤が、この夕日の色なんだ」
「……何を言ってるの?」
「わからない?」
そこでぐっと手を引かれた。私は思わず立ち上がる。
「あっ」
エニカの姿は、沈む夕日の中にあった。
「私たちの人生も、そんな人類積み重ねの一部に過ぎないってことだよ!」
そして引っ張られるままに、砂浜を走った。
海に向かって、夕日に向かって、走っていく。
ビーチサンダルが脱げた。熱い砂が足に絡む。
「出会いも別れも、46億年の中のひとつさ!」
前を走るエニカが振り向いて、笑う。
夕日の中で輝く幼馴染に、また涙が出る。
でも、なんだか急に、何もかも大丈夫な気がした。
なぜかはわからない。エニカがアメリカに行くことも変わらないし、これから会えなくなることも。
でも、何事もうまくいく。
人類は、地球は。
何億年も、この夕日を見続けてきたのだから。
「ねぇ!」
私は思わず声を上げた。
「私たち、これからもずっと友達でいられるかな!?」
エニカは、大きな口を開けて、笑った。
「46億年――あたしたちはずっと友達だよ!」