08
「おいオレを無視するな! 貴様には死んでもらうぞっ」
『リーズ気をつけてっ』
「えっ、やだ」
「ギャンッ」
リーズは飛びかかってくる魔王(仮)をまるで集ってくる小虫を払うように片手で払う。力を入れたつもりはなかったが、それはもう簡単に魔王(仮)は地面に叩きつけられた。
(え、そんなに強くしたつもりはなかったんだけど)
地面に顔をめり込ませた魔王(仮)を見下ろしながら少しの罪悪感が生まれるが、見た目が子供だというだけでその正体が魔王だというなら問題ない。動かなくなった魔王(仮)は、どうやら今の衝撃で気絶してしまったらしい。
「…………帰ろう」
そんな魔王(仮)をしばし見つめた後リーズはぽつりと呟いた。一度に色々なことが起きすぎて何から考えていけばいいのか分からない。頭の中を整理する時間が欲しかった。
ところが気絶したはずの魔王(仮)はすぐに目覚めたらしく、どこから持ってきたのか身体に布をぐるぐると巻き付けた魔王(仮)がリーズに食ってかかってくる。
「貴様、よくも殴ってくれたな」
「殴ったんじゃなくて手で払っただけよ」
「手で払っただけで地面にめり込むわけないだろうが」
「それは、あなたが弱いだけなんじゃ」
「なっ、オレは魔王だぞ! 弱いわけないっ」
「そうなると私が強いという事になるけど」
「貴様は勇者なんだから強いに決まってる」
さっきからずっとこの魔王(仮)はリーズを勇者だと勘違いしている。魔王を封印した勇者は男だったはず。もしやリーズが男に見えているのだろうか。
「ひとつ聞いて欲しいんだけど」
「なんだ」
「私は勇者ではありません」
「は?」
リーズの言葉を聞いた魔王(仮)は、ただでさえ大きな目を落ちそうなくらい見開く。じっとリーズを観察するように見つめたあと首を傾げた。
「嘘をつくな」
「嘘じゃありません」
「だって私、女だし」
「えっ」
「疑うなら触ってみる?」
「さわっ? き、貴様なにを、破廉恥な」
「はぁ」
慌て始める魔王(仮)と、溜め息をつくリーズ。
リーズにしてみれば自分が勇者でないと分かってくれるなら少しくらいいいだろうと思ってしまう。見た目が子供なので、そんな言葉が出てきたのかも知れない。
「とにかく私は勇者じゃないの」
「でも、なんで」
「キミを倒した勇者はもう死んでいないわよ。それより君って本当に」
魔王なんだよね? と続けようとしたが不穏な空気を感じたリーズは言葉を止めた。少し離れた場所にある茂みが気になって視線を向けると、魔王(仮)もそれを感じ取ったようで、リーズと同じ方向を見つめる。
『何かいるの?』
「ええ」