07
(ゆうしゃ?)
自分に向けられた言葉とは思えず、後ろを振り返ってみるがもちろん誰もいない。どうやら子供はリーズを勇者と勘違いしているらしい。許さないと言われてもリーズは勇者でないので何をどう許さないのかが分からない。
『リーズって勇者なの?』
「そんなわけないでしょ」
勘違いで憎悪を向けられるなんて堪ったものではないし、大体なぜこの子供は勇者に対してこんなにも分かり易く憎悪を向けているのだろうか。魔王を倒し世界に平和をもたらした人物を憎む者なんて。
(そんなの倒された魔王自身くらいじゃ……)
まさか、お墓の下に眠っていたのは。
「もしかして魔王?」
「はっ、今更なにを」
リーズの呟きを子供が鼻で笑う。当たり前の事を言うなと睨んでくるのはどう見ても子供だというのに。これが本当に世界を恐怖に陥れた魔王なのか。
「こんな子供が魔王?」
「えっ?」
「裸のくせに本当に魔王なの?」
「はっ?」
信じられないリーズの言葉に子供が過剰に反応する。子供の姿である事も、裸だという事も、リーズから指摘されて初めて気付いたらしい。自分の置かれた状況に慌てふためく子供を見ていると、リーズの中でこれがあの魔王なのかという疑問が強くなっていく。それはメルも同じだったようで『これが魔王なの?』という困惑の声が聞こえる。
そもそも魔王は勇者によって倒されているはずだ。だというのになぜ魔王だという子供が目の前にいるのか。子供の妄想だと片付けるには、この状況も人間ではないだろう子供の見た目も一般的とはいえない。
冷静に今の出来事を思い返してみる。この子供が魔王であると仮定した場合【あれはただのお墓ではなく魔王が封印されている魔法石で、なにかの拍子に封印が解け魔王が復活した】というのが一番しっくりくる答えだった。
勇者が魔王を倒したと言われているが、魔王が死んだ、消滅したとは言われていない。倒したイコール封印という可能性は大いにある。
(嘘でしょ……)
リーズの頭の中に浮かんだのは魔王復活の文字。
それは五十年前、勇者によって魔王が倒され訪れた平和が壊れてしまったという事に他ならない。
信じたくないリーズは頭を抱えた。だが、可能性が高いだけで確定したわけではないし、もしこの子供が本当に魔王だったとしても勇者でもないリーズには手に余る。
とにかく今はどうすればいいのか思考をフル回転させて考える。そんなリーズの意識を現実に引き戻したのは、元凶である子供の物騒な叫び声だった。