表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/50

05 "好きだから":小野寺陽葵

まずは、このページに飛んできて下さり、誠にありがとうございます。

新たにブックマーク登録して頂いた方、既にブックマーク登録をして頂いた方、本当に、本当にありがとうございます。

最後まで読んでいただけたら幸いです!


 今頃、翔は一人でうなぎを頬張っているのだろうか。

 良ければ一切れだけ貰いたかったのだが、生憎と碧斗はそれどころの状況では無かった。


「――やっほ、碧斗」

「……」


 碧斗に声をかけたのは、元カノである小野寺陽葵だ。

 元カノによる、初めての接触に碧斗は言葉を失った。


「ちょと、無視しないでくれる!?」


 若干頬を赤らめながら、陽葵は性格の如く元気に振舞っている。

 そんな陽葵に答えるように、碧斗も「あ……ごめん」と返事をした。


「んや、でもまだわかんないから最終確認タイムにする!」

「え?」

「流川碧斗くんですか?君は」

「え、うん。そうだけど」

「本物の?」

「偽物だったら怖いだろ……」


 全く気まずさなども無く、知り合いのように会話を進めていく。

 周りに人がいないことを確認した陽葵は、若干前に踏み出ながら言った。


「――私の元カレの!?」


 恥ずかしさを声で誤魔化す陽葵。


「そ、そうだって!」

「やっぱりそうだったんだ……。もう、こんなとこで会えるなんてね」

「俺だってびっくりだよ……」

「なんで話しかけてくれないの!陽葵ちゃんはずっと待ってたんですけど!?」

「いや、さすがにレベル高すぎるそれは」

 

 トイレの前で、話す男女二人。

 しかし、周りに人はおらず、誰にも聞かれていない。

 すると、陽葵はある提案をした。


「んもう。てか碧斗、このあと時間空いてたりする?」


 昼休みは、他の授業間の休み時間とは違い、一時間程ある。

 まだ残り50分程残っているので、碧斗は「あるよ」と答えた。

 翔には、後で謝っておこう。


「じゃあちょっと私についてきて! 行くよ!」

「んえ、どこ行くんだよ」

「いいから! いちにーいちに!」


 言われるがままに、陽葵に手を引っ張られる。

 到着した先は、人の気配が全く無い教室だった。


「何する気?」

「なんでしょー。勝手に消えてったからビンタとかしちゃおうかなー」


 自然消滅した関係に対して言及する陽葵。

 やはり、陽葵もそれに対しては少しだけ思う所があったようだ。

 

「ちょっと本気っぽいの怖いな」

「えへへ、うそうそ。そんな怖い女の子じゃないもん私」

「そうだよな、いつも通りの陽葵で良かったよ」


 中学校の頃から、陽葵は明るくて、周りを笑顔にしていた。

 それは人を選ばず、本当に誰とでも仲良しで、太陽のような存在だった。


「てか、碧斗自己紹介の時緊張しすぎでしょ」

「そりゃーするだろ!」

「私たちがいたから?えー?」

「……まあ、それもある」

「えへへ、でも碧斗らしくていいと思うよ。自分らしさが一番だし!」


 否定のしようが無い事実を叩きつける陽葵。

 私たちとは、間違いなく元カノ達のことだろう。


「にしても、久しぶりに見る顔だなあ」

「こっちのセリフでもあるぞそれ」

「何年振り……って言ってもそこまでかな?」

「ん、まあ。中学校で会ってたしな」

「全然話しかけてくれないんだもん」

「いや、それはまじでごめん」


 陽葵とは、中学一年生の頃に付き合っていた。

 同じクラスになり、校外学習で一緒の班になってから距離が近くなり、仲良くなった。

 それから、連絡を取るのも、"たまに"から"常に"になって、付き合ったのだ。

 だが、中学二年生の終わりの頃、お互いに本格的に受験勉強を始めた影響で、一切連絡を取らなくなってしまった。

 そのせいか、会うことも、遊ぶことも無くなり、気付けば、学校で会っても会話すら交わさなかった。


「……私たち、別れてる、よね?」


 普段、元気な陽葵が見せないような顔で、碧斗に問う。

 だが、曖昧にしてはいけない。


「……そう、だな」


 碧斗は、そう答えるしか無かった。

「付き合ってる」なんて答えれば、それこそ最低だ。

 だが、若干重くなりかけた空気を、陽葵は持ち前の性格で軌道修正した。


「ん、だよねー! 仕方ないことなんだけどさ!」

「そ、そうだな」

「てか聞いて、その時碧斗のことばっかり考えてたから第一志望校落ちたの」

「え、そうなの?」

「そうだよ! 全然勉強手につかなかったんだから!」

「いやー、ほんとにごめん」

「全然いいよ。実際この学校も楽しいし!」


 二人きりの教室で、二人だけの声が響く。

 普通なら気まずくなる空間、関係なのだが、やはり陽葵は「妖精」のように空気を明るくしていた。

 それは、碧斗との間だけでなく、二人だけの教室全体の空気を変えるように。


「――でも、あの二人がいると思わなかったなあ」


 陽葵は、碧斗の元カノの存在を知っていた。

 そのせいで、仲が悪くなっているという訳なのだが。


「ほんとな、俺もびっくりしたよ」

「話したの?乃愛と小春とは」

「いーや。さすがに話せてない。というか怖い」

「やっぱ陽葵ちゃんは雰囲気が明るいから接しやすいですよねー?」

「まあ、それはそうかもね」

「えへへー、ありがと〜」

「まだあの二人とは仲悪い、の?」


 若干聞き辛そうにしながら、碧斗はそう質問をした。


「うん、元々バッチバチだったけど、碧斗が来たからもっとバッチバチのメッタメタになるっぽい!」


 何故か少し嬉しそうな陽葵。

 とはいえ、本当は三人とも幼なじみなのだ。

 幼稚園の頃から一緒であり、小学校、中学校は義務教育的に同じ学校に通った。

 だからこそ、お互いが元カノであることも知っているし、昔は仲だって良かった。

 

 が――、それが変わったのは、小学校の頃。

 今でも、完璧美少女の小春は、小学生の頃からその風貌があった。

 何をするにもお手本のような存在だった小春。

 そんな小春が、碧斗と付き合ったと知り、乃愛の嫉妬心が我慢できなくなってしまった。

 その影響で小春とは仲が悪くなり、会話も最低限のものに。

 この時はまだ、陽葵は中立的な立場であり、二人のどちらとも仲良くしていた。

 

 が、それは中学校の頃から変わり始めてしまう。

 実は裏で碧斗に惚れていた陽葵は、小春が自然消滅したことを知り、告白した。

 その結果、付き合ったのだが、案の定、乃愛と小春とは仲が悪くなってしまったのだ。

 三人のトークグループも、消えてはいないが、暫く稼働だってしていない。

 そして、今に至るのだ。


「そうか。余計に罪悪感が増すな」

「いいのいいの、女の子の喧嘩なんてこんなもんだから」

「喧嘩にしては長すぎる気が……」


 ただ、碧斗自身がはっきりと振らなかったからこそ、こうなっている部分もある。

 そんな自分に、碧斗は罪悪感を覚えた。


「んまあ、気にしないで? ――忘れてもらっていいから!」


 何となく切なさを孕んだ陽葵の顔。

 その顔が、より一層に罪悪感を生んでしまう。

 そんな陽葵に、碧斗は何も言えなかった。


「……本題、入ってもいい?」

「あ、いいよ」


 わざわざ人目のつかない場所へ連れて来た理由。

 それを明かすように、陽葵は口を開く。


「さっき忘れていいって言ったけど、それは乃愛と小春の事だから」

「と言うと?」

「……私のことは忘れないで」


 視線を逸らした陽葵の顔は、紅潮している。


「うん?」


 そして、その発言の真意を、陽葵は言った。


「私、まだ碧斗のこと――好きだから!大好きだし、全然忘れてない!だから、絶対負けない」


 陽葵が口にしたのは、「愛情」だった。

 大好きだった彼氏と、自然消滅してしまったもどかしさ。

 それを全て晴らすように、陽葵は声を大きくして碧斗に伝えた。

 そして、――二人に負けないと、そんな誓いも込めて。


「……」

「じゃ、私お腹空いたから帰るね! ばいばい碧斗!」


 唐突すぎた言葉に黙り込む碧斗を傍目に、陽葵は軽い足取りで教室を後にした。

 言いたいことを全て伝えて、まだ好きだと言った陽葵の顔には、何一つ悔いは無い。

 そこに気まずさなんてものも無く、あるのは、確かな希望だけだった。


 一人取り残された教室。

 陽葵からの発言を、冷静になって考える。


「……どうしたらいいんだ」


 考えても、答えは出てこなかった。

 元カノが三人いる状況、それも全て自然消滅で終わった。

 そう考えれば考えるほどに、碧斗の頭はパンクしていく。

 もう答えは出ないと確信した碧斗は、考えることをやめて、教室を後にした。


 昼休みの時間は、残り30分程。

 自分の席へと戻った碧斗に、翔は「おかえりー」と声をかける。


「どこ行ってたんだよ」

「トイレ」

「いや長すぎんだろ!まさか……」

「それ以上は言わせない」


 翔の言葉を制止するように、言い切る前に口を挟んだ碧斗。

 うなぎは、まだ残っていた。


「いいなー、俺の卵焼きあげるからうなぎ一つちょうだいよ」

「いやいや、対価になってなさすぎだろ」

「転校記念ってことでさ」

「……仕方ねーな」

「うお、ありがとう翔様」


 見てるだけでお腹が空くうなぎを、自分の弁当の白米の上に乗せた碧斗。

 そんな碧斗を見て、翔は負けじと卵焼きを箸でとる。


「……うますぎだろ、この卵焼き」

「ね? 俺のお母さんうまいでしょ?」


 想像以上の味に、翔は「うん」と返事をした。


「てか、なんか疲れた顔してんな碧斗」

「え、そ、そう?」


 急に、翔がそんなことを言ってきた。

 あまりにもタイムリーすぎる言葉に、碧斗は露骨に動揺を見せる。


「トイレで、長時間で、疲れる……ってお前、まさか」

「うなぎいただきまーす」


 またしても、良からぬ想像をしている翔を、制止するように言葉を挟む。

 短絡的に考える男で良かったと思いながら。

 ちなみにうなぎの味は、疲れを吹っ飛ばすくらいに美味しかった。

 それからは、普通の時間を過ごし、五限と六限も消化した。


「はい、さようなら」


 帰りのホームルームを終え、帰路に着く。

 歩いて10分程の場所にある自宅は、そう遠くない。


 ――まだ碧斗のこと、好きだから


 陽葵に言われた言葉。

 どうすればいいのかは全く分からない。

 多分、答えを求めようとすればするほど、分からなくなっていく。

 だから、碧斗はこれからの流れに任せて、自分の気持ちにも任せることにした。

 

 校門から見える夕焼け。

 街をオレンジ色に照らすその光は、碧斗の背中を押すように輝いている。

 ――それはまるで、帰路の途中に起こる、ある出来事の前兆のように。

 

面白い、面白くなりそうだな、と思っていただけた方は、よければブックマーク登録と評価の方をお願いします!

明日は小春ちゃんのお話です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ