47 "一番でいさせてね"
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「ねえ! すごいよ乃愛!」
「んね!! ちょー綺麗なんだけど!」
二大イケメンを振り切り、仕切り直しの花火大会。
それを見守る観衆の元へ、二人の美女は無邪気な笑顔で駆け込んでいく。
どんどんと小さくなっていく愛おしい背中に、車内から見守っていた紫月も微笑んだ。
「ここらへん座ろー、陽葵ちゃん疲れた!」
「ん、そうしよっか。私もヘトヘト」
群れの少し手前に位置する芝生に、二人は腰を下ろす。
その間も、花火は上空で鳴り響いており、夜空は綺麗に彩られていた。
「……すごいねー、ほんとに」
「……うんうん」
公園から見る花火とは格段に違う事を感じ、二人は感嘆の声を漏らす。
お互いの横顔をたまに眺めると、本当に美しく、綺麗だ。
が、そもそも自分の方が可愛いと思う二人なので、そんなことは言えない。
――ただ、今日だけは違った。
「……めっちゃ可愛い、乃愛」
意外にも、陽葵から言葉が発せられる。
ただただ素直に感心して、ただただ素直に思う言葉が。
「……んなの当たり前でしょ。陽葵も可愛いよ」
「えへへ、ピン留めだけ?」
「んーん。やっぱり全部……って言っといてあげる、仕方ないから」
「ふん。もー、素直になればいいのにさー!」
「言わせないで」と言外で伝えるように、乃愛はそっぽを向く。
そんな乃愛に、陽葵も「私は素直に言ってあげたのに!」と伝えるように、頬を膨らませた。
「じゃあ私も髪留めだけ? 他も可愛い?」
「んーん、全部可愛い……かもしれない!」
「……って、陽葵も素直に言えないじゃん」
「えへへ」
「ふん、ばーか」
結局、聞かれたら素直に答えられない陽葵。
それに対し、乃愛も不満そうに頬を膨らませた。
――が、どちらも頬はしっかりと紅潮していて、照れ臭そうな表情であることも確かだった。
心地よい沈黙と、それを遮る花火の音。
美しき二人には、"夏の夜"が本当によく似合っている。
無駄な人物は誰も邪魔をせず、嫌な雑音は何も入らない。少し、小春に対して嫉妬してるけど。
二人の、二人による、二人だけの時間だ。
「懐かしいね、この感じ」
花火を見上げ、体操座りをしながら、ポツンと乃愛が呟く。
夜でも遜色がない美しい金髪を、風に靡かせて。
「んね、小さい頃は三人で来てたもんね」
体操座りをする乃愛の横、芝生に手を付き、足を伸ばしながら花火を見上げる陽葵。
――感慨に浸るには、十分すぎる環境だった。
「覚えてる? 陽葵が花火大会で迷子になって泣き喚いてたの」
「え? そんなことあったっけ?」
「そーやってまたとぼけて。私が見つけた時に『のあ〜』って大泣きして抱きついてきたの、ちゃんと覚えてるんだから」
「覚えてるってことは嬉しかったってことだよね?」
「……うるさい」
マウントを取りに行くも、結局自分が照れる結末になるのが乃愛だ。
まあ、そんな所が可愛いのだが。
「てか、乃愛もアイス落として『ひまりのちょーだーい』って泣き叫んでた気がするんだけど!?」
「はあ!? そんなことしてないし……いや、したかも……」
「えへへ、やっぱりー! 陽葵ちゃんの優しさに甘えてばっかだったもんねー!」
「まあね……って、陽葵も嬉しいんじゃん」
「……あ」
とはいえ、陽葵もそれは同じ。
結局、大切な人にされる事は、不仲になろうが、時間が経とうが、心の中に存在し続けるのだ。
それが"思い出"の良いところで、不仲を親密へと近付ける一つの方法でもあった。
「ぷぷ、かわいー」
「もう!!」
完全にバカにするシフトの『かわいい』に、陽葵も頬を赤らめて反論する。
そんな陽葵を見て、乃愛は改めて微笑むと、口を開いた。
「――ねえ、今日は楽しかった?」
次の花火が打ち上がるまでの静寂、狙った訳では無いが、運命的にそのタイミングになったのだ。
「……んぇ?」
唐突すぎる質問と内容に、陽葵は目を丸くする。
周りに雑音は無く、聞こえてはいるのだが。
「だーかーら、楽しかった? 私と夏祭りに来れたこと」
「……来れたこと、ね。逆に陽葵ちゃんと行けたことに感謝して欲しいくらいですけど」
「ふん。で、答えはどうなの」
またも下らないマウント合戦になりかけるも、ここは何とか乃愛が大人になる。
そして――陽葵の答えなど決まっている。
「――すっごく楽しかったよ」
「……え」
「え? 私変なこと言った?」
「……あ、いやいや、全然。陽葵の答えが意外すぎたから」
正直、またバカにされるか、からかわれることを覚悟していたのだが、意外すぎる答えが返ってきたことに乃愛は驚いた。
「じゃ、じゃあどんくらい楽しかったの?」
「どんくらい……?」
「そうよ。何かに例えて」
愛情をもらう時は、出来るだけ詳しく細かく。
それが乃愛の性格なのだ。
まあ、今日は夏祭りということもあり、その性格が少し重めに出ている気がするが。
「――そりゃあ、一番?」
「……え、ええ!?」
「何、また私変なこと言ってる!?」
「い、いやいや言ってない! ……と思う!」
何の躊躇いも無く「一番」と口にする陽葵に、乃愛はドキドキして目線を逸らす。
無論、恋人目線のドキドキではなく、嬉しすぎての方だ。
「乃愛はどーだった? 陽葵ちゃんと行けて楽しかったですか?」
とはいえ、そんなことを聞かれたら陽葵だって気になる。
若干マウント思考が入っているが。まあ許容範囲だろう。
何故か照れている乃愛を不思議に思いながら見つめると、乃愛は花火を見上げながら口を開いた。
「――うん、めっちゃ楽しかった。陽葵と来れてよかったよ」
乃愛の答えを聞いた瞬間、陽葵は「変なことを言っていた」ことに気付からせた。
ありえない程に嬉しくて仕方が無かったからだ。
そんな陽葵に言及はせず、乃愛は言葉を続けた。
「まあ、碧斗と来たかったけどねー」
「ちぇ、陽葵ちゃんだってそうですけど!」
「私の方が碧斗と来たかったし!」
「んなわけ! 絶対絶対私だから!!」
「ふん」
「ばーか」
いつもの下らない口喧嘩。
が、今日だけは、逆に心地良かった。
どんな関係になっても、一緒に居て一番楽しい人、一緒に居て一番安心する人、一緒に居て一番嬉しい人は変わらない。否、人達。
『誰にも取られたくない』と、碧斗に抱く気持ちとは別ベクトルの気持ちで想う。
しかしそれを悟られないように、花火を見上げた。
勿論、愛する碧斗を独り占めしている夜桜小春という存在も大切な一人。
だから今だけは心の中に思い浮かべて。否、勝手に浮かんだ。
――「ずっと、あなた達の一番でいさせてね」
そんな想いを、打ち上がる花火に乗せて。
◇◇◇◇◇
それからはしばらく、居心地の良い空気感で花火を観賞していた。
たまーに陽葵のあくびが聞こえたり、乃愛のくしゃみが聞こえたりするが、花火が綺麗すぎてそんなことはどうでも良くなる。(ちょっと言い合いしかけたけど)
そうして、ただただ感嘆の思いで花火を見ていると、後ろから声がかかった。
「まま! ぬいぐるみくれたお姉ちゃん達がいる!」
母親と手を繋ぎ、無邪気な声で陽葵と乃愛を呼ぶのは、くじ引きの時に景品をあげた男の子だ。
声に気付いた陽葵と乃愛は、驚いた表情で視線を向けた。
「こんばんは。すいません、うちの子が邪魔してしまって」
二人を見て、隣にいる母親が申し訳無さそうに頭を下げる。
が、特に迷惑でもなんでもないし、むしろ自分たちがあげたぬいぐるみを大事そうに抱える可愛い子供に、目を癒されている。
「いえいえ! 全然大丈夫です!」
「そうですそうです! むしろ私たちの目の保養っていうか、お子さんの可愛さにやられてるっていうか!」
乃愛が笑顔で反応すると、陽葵もそれに続き笑顔を向ける。
三大美女の権能は年齢を問わないらしく、可愛すぎる笑顔を向けられた母親は肩の力を抜いた。
「まま、僕あの人たちとも一緒に見たい! 優しいから!」
すると、子供も三大美女の笑顔にやられていたらしく、そんなことを口にした。
それを聞いた母親は、再び「さすがにそれは……」と言わんばかりに申し訳なさそうな顔をする。
――そんな親子を見て、二人は微笑んだ。
「えへへ、お母さん、私たちは全然大丈夫です! むしろ、この隣のお姉ちゃんが一緒に見たいって言ってますから!」
優しい笑顔を向け、乃愛の腕を取りながら陽葵は言う。
すると、それに負けじと乃愛も口を開く。
「その通りです! 私も一緒に見たいですし、隣のお姉ちゃんはもーっと一緒に見たいって言ってます!」
ちょっと失礼だろ、と言いたくなるものの、二人の愛嬌と笑顔でそれは相殺される。
そして何より、二人の優しさが響いたのは、子供でもなく、母親の方だった。
「そ、そうですか。本当にお世話ばかりすみません。なら、お言葉に甘えさせていただきますね。ほら、"ありがとう"は?」
「ありがとー!」
母親と共に、無邪気な声で頭を下げる子供。
何となく、昔の自分達と重なったことに、陽葵と乃愛は嬉しくなった。
そうして、親子と陽葵と乃愛の四人で、花火を見始めた。
そしてここで、もう一つの勝負が発生する。
「乃愛お姉ちゃんのここおいで! 空いてるよ〜」
足を伸ばし、太ももあたりをトントンとしながら乃愛が笑顔でそう言うと、陽葵が「む」と声を出した。
「陽葵お姉ちゃんの方がいいよ、マッサージ付きだから!」
乃愛に負けないよう、陽葵は特典付きで自分の太ももへと招待する。
が、多分それが刺さるのは母親の方だと思う。
美女二人から夢のお誘いが来ているが、まだ歳が少ない男の子には、そんな下心は無い。
「んー……」と、首を傾げながら純粋に迷っている。
「可愛いお姉ちゃん達がおいでって言ってくれてるよ。どうするの?」
子供を見ながら、幸せそうに母親が笑顔を向けた。
「んー……こっち!」
瞬間、子供は指を差す。
差されたのは――乃愛だ。
「やったー! おいでおいで〜」
「うんうん!」
満面の笑みで乃愛が手を広げると、子供は勢い良くその体へ飛び込み、太ももの上へと座った。
「んもう……じゃあ、お母さんが私の方来ますか?」
「うふふ、大丈夫ですよ。私が子供でしたら行ってましたね」
やはり、陽葵のマッサージ特典は母親に刺さっていたらしい。
子供を育てるというのは、それほどに大変だ。
それは、唯一姉妹がいる陽葵だからこそ、乃愛よりも分かっている。
「えへへ、嬉しいです。……あ! マッサージしますよ。陽葵ちゃん、日本で一番マッサージが上手い高校生って言われてますから!」
「あら……本当ですか。整体についてお勉強しているのですか?」
「普通科です!」
「……うふふ。そうなんですね」
一秒で嘘が発覚する陽葵に愛嬌を感じ、母親は思わず微笑んだ。
そうして、「じゃあお言葉に甘えさせてください」と遠慮がちに言うと、陽葵は「らじゃー!」と、母親の肩を揉める位置に。
「力抜いてくださいね! 今日は私たちが面倒見ますから!」
「うふふ、ありがとうございます」
頭を撫で、楽しそうに会話をする乃愛と子供を前に、母親は心底安心した様子で微笑む。
意外にも、陽葵のマッサージは本当に上手だった。
「――私の子供も、あなた達のように優しい子に育ってくれたら幸せです」
紛うことなき本心、そして願望を、母親はポツンと呟く。
どんな人にでも愛される雰囲気、どんな人にでも好かれる性格。
直感的にそれを感じ、思わず口に出てしまったのだ。
「んぇ、なんか言いましたか?」
「いえいえ、なんでもないですよ」
「そうですか! にしても、肩がカチカチですね。頑張るママは本当にかっこいいです!」
「うふふ、ありがとうございます」
そんな会話を挟みつつ二人は、否、四人は、花火大会を満喫した。
終わった頃には、夜空だけでなく、心も綺麗になった気がした。
◇◇◇◇◇
花火大会を満喫した二人は、人混みに飲まれないよう、早めに小野寺家の車へと向かった。
路上駐車をしていること、そして目立つ赤い軽自動車なので、すぐに分かった。
「おかえりー! ちょー綺麗じゃなかった!?」
運転席で見ていた紫月が、窓を開けて二人を出迎える。
陽葵が「うんうんうん!」と目を輝かせて反応すると、紫月も思わず笑顔になった。
「しかもね、めーっちゃ可愛い親子と一緒に見たの!」
「え、そうなの!?」
「そうだよ紫月お姉ちゃん。私の膝の上でね〜」
陽葵が返事をする前に、乃愛が胸を張って割り込んだ。
陽葵が「ぐぬぬ」と言うような視線を送っている気がするが、まあいつも通りだ。
「いいなぁ……私なんか一人だよ……」
「んもう、お姉ちゃんも一緒に来ればよかったのに!」
「いーの。一人になりたい理由があったんだから」
「ふーん、ならいいけどさー」
「えへへ、じゃあ帰るよ、乗って!」
そう言うと、陽葵と乃愛は車へと乗り込んだ。
「……」
車を走らせること三分、運転していた紫月は、車内がやけに静かなことに気付く。
いつもの言い合いが無いのは良い事なのだが、逆に一言も話さないことはそれはそれで心配だ。
「ひま……えへへ、そういうことね」
バックミラーを見て、二人呼ぼうとした所で紫月の声が止まる。
――浴衣姿の二人、否、幼なじみの二人は、互いに身を寄せ合って、気持ち良さそうに眠っていた。
陽葵が乃愛の肩に頭を置いて、その陽葵の頭に乃愛が自分の頭を乗せて。
言われてみれば、「スー」と、可愛い寝息が聞こえてたことを思い出し、紫月は微笑んだ。
◇◇◇◇◇
碧斗との夢の時間を終え、自分の家へと帰宅した小春。
身の整理や、購入した物の整理を済ませると、スマホを見た。
「……紫月お姉ちゃん?」
通知には、『紫月』の文字。
久しぶりに聞く名前と、久しぶりの連絡だ。
そうして、小春は表示された通知をタップし、内容へと目を通す。
「――なるほど、さすが紫月お姉ちゃんです」
その内容を見た夜桜小春は、ポツンと呟く。
――自分のやるべきこと、そして何より、大切な幼なじみを傷付けた二大イケメン達への、最初で最後のアクションを起こすことに決めた。
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