03 一人の"元カレ"
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この話はヒロイン視点の話になりますので、是非是非読んでみてください!
時計は8時ちょうどを指している。
朝の登校時間は8時30分までなのだが、いつも通り、夜桜小春は早めに登校していた。
黒く、上品な髪の毛を靡かせながら、教室のドアへ辿り着くと、まるで専用の作法があるかのように、品のある動作でドアを開ける。
「おはよー!こはる!」
「おはようございます」
優しい、優しすぎる笑顔を浮かべながら、小春は挨拶を返す。
「今日も可愛いね、こはるは」
嫌味でも、皮肉でも何でもない純粋な感想を、クラスメイトは小春に向けた。
とにかく小春の見た目は完璧で、まさに「和」と言った見た目と雰囲気だ。
その端正すぎる顔立ちと、均整の取れたスタイル、艶の出た黒い髪の毛は、さながら「人形」が実在しているほどに美しかった。
「いえいえ、そんなことないですよ」
「ほんっとにかわいいよ!?」
「ふふ、ありがとうございます」
この性格も、雰囲気を上乗せするポイントの一つだ。
誰が見ても可愛い、綺麗と言うような容姿の持ち主だが、決して驕らず、態度を大きくせず、あくまで謙虚でいるその性格と姿勢は、好感を上げている。
クラスメイトと軽く会話を交わした後、自分の席へと着いた小春。
座る姿勢もやはり完璧で、「模範」そのものだ。
小春が登校して15分程立った頃、学校へ到着した生徒が続々と教室へと入ってくる。
「こはる、おはよ〜」
「こはるちゃんおは〜!」
「おはよ、こはる」
その容姿端麗すぎる見た目と、やわらかい「和」の雰囲気を持つ小春は、クラスの人気者だ。
すれ違えば女子はほとんどが挨拶をするし、暇があれば小春へと話しかける。
それは強制的、とか義務的、なんて下らないものではない。
全て小春の好感と、聞き上手な部分によるものだ。
――一人の、金髪ポニーテール美少女を除いて。
「――」
今日も、その美少女は小春を気にせずに自分の席へとつく。
だが、別に傷付くことなど何も無い。
なぜなら、小春自身もその美少女にはあまり良い印象を抱いておらず、むしろ無視してほしいくらいだった。
「千佳ちゃん、今日って先生はお休みですか?」
隣に座るクラスメイトに、小春は言葉をかけた。
いつもなら、この時間には先生は教室に居て、朝のホームルームの為の準備を進めている。
だが、今日はまだ先生の姿は無く、来る気配すらなかった。
「今日は遅くなると思う!」
「あ、そうなんですね」
「そうそう。ていうか、こはるちゃん聞いた?」
「何をですか?」
クラスメイトからの唐突な質問に、小春は困惑する。
そして、その答え合わせをするように、クラスメイトは口を開いた。
「今日から転校生がこのクラスに来るんだって」
「え、そうなんですか?」
「そうそう、噂になってたから昨日先生に聞いてみたら、そうだよって言ってた」
「それは嬉しいですね、仲間が増えるってことですもんね」
聖母のような微笑みを、小春は浮かべる。
「相変わらずこはるは優しいんだから。その転校生もすぐこはるのこと好きになっちゃうんじゃない?」
「そんなことないですよ」
優しい微笑みを混ぜながら、小春はクラスメイトと会話をした。
今日は転校生が来る為、先生は遅くなるらしい。
会話が終わると、小春はそのクラスメイトに「教えてくれてありがとうございます」と、小さな声で優しすぎる微笑みを浮かべながら伝えた。
8時30分、定時通りに朝のホームルームを告げるチャイムが鳴る。
すると、間もなくして小川先生は教室に入ってきた。
「みんなおはよ〜」
転校生の関係で、今日は朝から教室にはおらず、いつもよりも多めの仕事に追われていたはず。
それなのに、疲れを見せず、いつもの顔で教室に入る小川先生には見習うものがあった。
「はい、号令よろしくね」
「起立、気をつけ、おはようございます」
「おはようございます」
クラスメイトの合図で、朝の挨拶をする。
そうして、定型通りに朝のホームルームを進めると、朝のホームルームも終わりを迎えた。
いつもならここで号令をかけるのだが、今日は違う。
転校生が来る日だ。
「朝のホームルーム終わります。と言いたいところなんですけど、今日はみんなにお知らせがあるよ」
予想通り、今日は追加の項目があるようだ。
優しさ故に、仲間が増えることが密かに楽しみだった小春は、心の中で、らしからぬ口調で「よしゃ」とガッツポーズをした。
「今日からクラスの一員になる子です。はい、自己紹介をどーぞ」
先生が合図を出し、教室に入ってきた転校生。
そんな転校生を見て、小春はある事を思った。
――どこかで見たことある顔をしている、
と。
ただ、まだそれには確信がない。
まだ「好き」という気持ちから来るただの勘違いかもしれない。
だが、そんな小春の気持ちは、一瞬で覆された。
「……今日からお世話になります、流川碧斗って言います。分からないことだらけですが、よろしくお願いします」
やっぱり、そうだった。
小学生の頃、大好きで、本当に大好きで、仕方がなかった男の子、流川碧斗だ。
――本当ですか?
思いがけなさすぎる再会と、久しぶりすぎるその雰囲気。
そんな男の子が同じクラスに在籍すると知った小春は、絶対に人には見せない程に、頬を赤らめた。
それと同時に、あの二人の女の子とはやっぱり仲直り出来ないという気持ちが、心の中に増した。
――――――――――――――――――――――
時は、8時15分まで遡る。
「ん、おはよ」
クラスメイトから声をかけられ、そう返事をするのは如月乃愛だ。
金色の髪と、高めの巻き髪ポニーテールを頭に作っている乃愛は、さながらモデルのような見た目をしていた。
教室に入り、自分の席へと向かう途中のこと。
小春の席では、いつも通り人が集まり、わざわざ止まって「おはよ」と言い合っているようだ。
「――」
そんな小春が、乃愛にとっては邪魔でしかなく、今日もいつもの如く、無視して行った。
席に着くと、隣のクラスメイトから話しかけられた。
「乃愛、なんか今日は可愛い」
「今日はって何よ。いつもでしょ」
「えへ、ちょっとからかいたくなっちゃった」
「なにそれ、うざ」
少々棘のある言い方をする乃愛だが、それは顔で相殺される。
自分で「いつもでしょ」とは言ったが、それは全く過言では無かった。
小春に負けず劣らず(というか、全く負けているとは思っていないのだが)の容姿とスタイルをしており、本当に「モデル」が居るようだ。
勿論、そんな可愛さを持つ乃愛にも、友達は多い。
性格自体が少しツンツンしている為、中には苦手なタイプも居るのだが、根は優しいので本格的に嫌われることは無い。
むしろ、好かれるくらいだ。
「先生いないの?今日」
奇しくも、小春と同じタイミングでクラスメイトに質問をする乃愛。
席は離れてる為、それに気がつくことは無かったが、もしも同じ人に質問していたらと考えるだけで鳥肌モノだ。
「んー、分かんない。でも転校生が来るらしいよ?」
「は、え? まじ?」
「うん、小春ちゃんの席から聞こえてきた」
「じゃあ信じない」
小春関連の話題が出ると、露骨に嫌悪感を示す乃愛。
「で、いつ来るの? 転校生」
「信じてるじゃん……」
「うるさい、小春のことは信じない。優花のことは信じてるから聞いただけ」
「可愛いなあ」
「いいから早く教えて」
「でも、私もよくわかんない」
「なにそれ」
実は信じていた小春と、そこに可愛さを感じるクラスメイト。
サバサバしていても、時折見せるこのデレが、乃愛が好かれる理由でもあった。
「転校生、乃愛のこと好きになっちゃったりして」
「ふん、どうでもいい別に」
「怖いなあ、可愛いけど」
「うっさい」
時刻は8時30分。
朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。
いつも通りに朝のホームルームが進み、いつも通りに終わっていく。
が、その終わりを迎えようとした頃だった。
「朝のホームルーム終わります。と言いたいところなんですけど、今日はみんなにお知らせがあるよ」
担任の小川先生がそう言った。
どうやら本当に転校生が来るらしい。
表面上、信じてはいたが、素直に小春を信じるのも嫌だったので心の中では信じていなかった。否、信じたくなかった。プライド的に。
とはいえ、先生が言うなら事実だ。
そうして、小川先生が合図を出すと、その転校生が教室に入った。
あまり興味を持っていない乃愛は、その転校生の顔は見ず、窓の外を眺めていた。
誰でもいい、というより、どうでもいいが正解だ。
正直、女の子が来たって仲良くしたい訳では無い。
――男の子なんて、もっと要らない。
乃愛には、ずっと忘れられない人物が心の中に住んでいるのだ。
だから、本当に、どうでもよかった。
――数秒後、窓の外を眺める乃愛の心は、一瞬にして砕け散った。
「……今日からお世話になります、流川碧斗って言います。分からないことだらけですが、よろしくお願いします」
聞き覚えのある声と、心の中に住み込む名前。
まさかと思い、窓の外に向けていた顔を転校生へと向け、顔を確認する。
――やっぱりそうだった。
それは、心の中にずっと住み込んで、いつまで経っても忘れさせてくれない、あの男の子だ。
――うそ、でしょ?
唐突すぎる再会と、懐かしすぎるその雰囲気に、乃愛の頬は見る見るうちに紅潮していった。
それと比例するように、二人の恋敵への対抗心も上昇していった。
――――――――――――――――――――――
8時25分を指す時計。
「やばいやばいやばい!!」
ギリギリ登校常習犯の小野寺陽葵は、今日も今日とてギリギリに登校していた。
「おっはよー!」
勢いよく教室のドアを開け、中に入ると既に大半の生徒は登校済みだ。
というか、欠席者以外は登校完了しているので、陽葵が最後の一人という訳なのだが。
それなのに、こんなにも元気で、堂々としている陽葵。
その性格故に、遠くからでも陽葵に「おはよー」と返すクラスメイトは多く存在している。
そんな陽葵を、怪訝な表情を浮かべながら小春と乃愛は見つめていた。
「って、先生いなくてよかった〜」
そんな二人の表情などお構い無しに、陽葵は露骨に安堵の表情を見せた。
いつも、「遅いよ」と注意してくる小川先生が、幸いなことに今日は不在だ。
まあ、いつも怒られているので、居たところで流しているだけだが。
ルーティンの如く、ルンルン気分で歩きながら自分の席へと向かう陽葵。
歩きながら鼻歌を歌っており、いかにも気分が良さそうだ。
多分、理由はない。
「陽葵、なんでそんなにハイテンションなの?」
「私はいつも通り! ふんふーん」
「うん、まあ、そうだね」
元気すぎるが故に、友達をたまに困らせてしまう陽葵は、案の定、今日も隣の友達を困らせている。
だが、そんなことは簡単に許せる程に、陽葵は可愛いのだ。
端正な顔立ちは勿論のことだが、陽葵は少し小柄で、守りたくなるような可愛さがある。
綺麗なブラウンの髪色と、似合いすぎているショートボブの髪型は、さながら「妖精」のようだった。
「てゆーか、今日は小川先生いないの?」
いつも通り、ギリギリに登校してきたのだが、注意されなかった違和感から、陽葵は疑問を抱いた。
無論、怒られたい訳では無いが。
「多分転校生来るから?」
「え!? まじで!?」
「そうだよ、陽葵知らなかったの?」
「聞いてないけど知らなかった!」
謎すぎる言い回しを披露する陽葵だが、本人は至って真面目。
元気な上にそんな愛嬌があるのが、陽葵が好かれる理由だ。
男女分け隔てなく人気な陽葵は、容姿も十分ながら性格も十分だった。
小春と乃愛とは、違うベクトルの人気と言ったところ。
「どんな人が来るのかなー? わくわくすぎる」
「私も楽しみ。陽葵のこと好きになっちゃったりして?」
「えー? 今日の私そんな可愛い?」
「可愛いよ〜」
「えへへー、ありがと〜」
満更でも無い顔をしながら、陽葵は笑顔を浮かべた。
勿論、その笑顔にも愛嬌はたっぷり含まれていて、見れば幸せな気持ちになれる程に可愛い笑顔だ。
まるで妖精の魔法にかけられたかの如く、気持ちが上向きになるような笑顔。
「うぉっ!? びっくりした」
笑顔の陽葵が驚いたのは、いつも聞いているはずの音に対してだ。
スピーカーから、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴り響いた。
数秒後、小川先生が入ってくると、定型通りに朝のホームルームは続いていく。
勿論、陽葵も定型通りであり、「おはようございます」は誰よりも元気で、周りを明るくしていた。
そんな、定型通りの朝のホームルームが終わりを迎えようとした頃、いつもは存在しないコーナーへと入っていく。
「朝のホームルーム終わります。と言いたいところなんですけど、今日はみんなにお知らせがあるよ」
案の定、転校生についての話だった。
とにかく楽しみで仕方がない陽葵は、朝のホームルームが始まった時点からほとんど先生の話を聞いておらず、この時間の事を考えていた。
――どんな人かな、どんな見た目かな。
とにかくそれしか頭に無い陽葵だが、一つだけ、たった一つだけ思うことがあった。
それは、
――男の子じゃありませんように
ということ。
陽葵には、中学校時代に初めて好きになった男の子がいる。
その男の子とは見事に付き合ったのだが、時期も時期で、受験勉強に追われてしまい、自然消滅という形になってしまった。
別れたのかどうかもよく分からないのだが、確実に付き合ってはいない。
連絡も取ってないし、会ってもいない。
むしろ、受験が終わった後の中学校生活では、一言も話していない位だった。
気まずいとかそんな事ではなくて、本当に自然すぎる消滅だった故に、そんな気持ちも生まれなかったのだろう。
だが、自然消滅だったからこそ、生まれてしまう気持ちもある。
それは、"忘れられない"ということだ。
とりあえず、元気な女の子が来て欲しい。
いっぱい喋って、いっぱい笑いあって、いっぱい遊びたい。
そんな陽葵の願いは――小川先生の合図で入ってきた転校生によって、一瞬にして溶けてしまった。
その転校生の顔は、明らかに流川碧斗の顔だ。
初めて好きになった男の子で、初めての彼氏で。
中学校時代だし、忘れている訳が無い。
そんな彼の顔を、間違えるはずも無い。
改めて見ても、転校生の顔は、正真正銘の流川碧斗の顔で。
――え、えぇ!?
「……今日からお世話になります、流川碧斗って言います。分からないことだらけですが、よろしくお願いします」
全ての辻褄が合うように、転校生はそう名乗った。
まだ記憶に新しい思い出と、これから一緒のクラスという期待感に襲われ、陽葵の顔は一気に赤らめた。
いつも元気な為、体温は高めの陽葵ですら、赤すぎる程に。
それと同時に、胸に宿っていた静かな恋心も一気に解放されて、比例するように、二人の女の子への敵対心も一気に解放された。
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