表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/50

24 夏鈴の勘

まずは、このページに飛んできて下さり、誠にありがとうございます。

新しくブックマークして下さった方、既にブックマークして下さっている方、本当に、本当に本当にありがとうございます!!

最後まで読んでいただけたら幸いです!


「じゃあ、早速話しちゃうけど」


 夕日が差し込む放課後の教室。

 碧斗と翔の話を陰で聞いていた夏鈴が、二人の前へと姿を現した。


「ちょ、っと待って。どういう類の話なんだ」


 状況が飲み込みきれない碧斗が、神妙な面持ちで夏鈴へ問う。


「ん、三大美女の話だよ。……隠れて聞いてたことは謝ります、ごめんなさい」

「夏鈴ちゃん、全然大丈夫」

「いやお前が言うな」


 翔も同じことをしていたはずなのだが、夏鈴が許しを乞うなら仕方ない。

 好きな女の子には優しくありたいのが、男の性だ。


「……で、なんだ。聞かせてくれ夏鈴」


 夏鈴の話を聞かないことには話も進まないので、碧斗は心を決して聞くことにした。

 碧斗に言われ、夏鈴は「うん」と首を縦に振る。

 そして、話し始めた。


「――夏鈴ね、本当はあの三人とすごく仲良しなの」


 夏鈴から告げられる、紛うことなき真実。

 それでも、高校生ならよくあることだ。

 碧斗の知らない所で仲良くなっていただけかもしれない。


「そうなのか。でも、俺が知らない場所で仲良くなってたんだろ? 全然不思議じゃないんだが……」


 当たり前の感想を、碧斗は抱く。

 三大美女にだって友達はいる。

 その中に夏鈴が居たって何もおかしくはない。


「ううん、違うの。それともう一つ、言わなきゃいけないことがあるの」

「……違う?」


 碧斗と翔の会話を裏で聞いていたはず。

 それならば、三人が碧斗の元カノであることも聞いたはずだ。

 それでも、夏鈴がどこか申し訳なさそうな顔をしている理由。

 それは――


「――碧斗が来た時から、三人の元カノって知ってたの」

「……知ってた?」

「……うん。隠しててごめんなさい」


 夏鈴は、碧斗と三人の関係性を既に知っていた。

 驚愕すぎる事実が、碧斗の感情を襲っていく。

 ――そして、あるひとつのことを思い出す。


「じゃ、じゃあ今までとぼけてたり、たまに疑ってきたりしたのって……」

「全部、わざと。陽葵ちゃんが意地悪したかったって」

「あいつ……どんだけだよ……」


 夏鈴の勘。

 今まで、幾度となく苦しめられてきた。

 不意に核心を突いてきたり、散々怪しまれてきた。

 ――それも全て、陽葵のちょっかいだったということだ。

 性格が良いのか悪いのかよく分からないが、「好きな人に意地悪をしたくなる」の究極版である。

 とはいえ、碧斗に不快感は無い。

 陽葵の性格上、多分悪意は無いだろうし、不本意ながらもこうしてまた、事実を知る人が増えたのだ。

 

「ごめんね、隠してて」

「いや……別に大丈夫だけど、隣の人が……」

「……」


 碧斗の隣にいる翔は、碧斗以上に呆然としていた。


「……夏鈴ちゃんってすげーな」

「す、すごい?」


 その呆然は、失望でも、幻滅でも無い。

 そんな翔からの予想外の言葉に、夏鈴も目を丸くする。


「すげーよ! だって、俺も分かんなかったし! 演技が上手いって言うのかな?」


 心優しき翔は、どんな時でも夏鈴のことは貶さない。短絡的な性格も少しあるけど。

 夏鈴に悪意があったとしたらまた別の話だが、今回は夏鈴に悪意は無い。

 だから、碧斗も必要以上に夏鈴を責めたり、貶したりしないのだ。

 いつしか碧斗には、逆に罪悪感が生まれていた。


「夏鈴、その、俺もごめん。変に誤魔化したりしてて」

「あ、いや、うん。大丈夫!」

「大丈夫、か」

「うん! だってね、三人とも碧斗と話したりしたらすごーく嬉しそうに報告してくれるんだよ? だから私も元気になってたし!」

「そう、なんだな。なんかうれしいな」

「あ、でもね、私から碧斗のことは何も言ってないよ? 三人の話聞いてるだけで幸せだなー的な!」

「そうか、最初の方は喜んでたのとか言われなくて良かった」

「ん、喜んでたの? え?」

「あー、何でもないよ? 忘れてくれ」


 うっかり、最初はハーレムを堪能していたことを口に滑らせる碧斗。

 そんな碧斗を見て、夏鈴は何かを思い出したような顔をしてから、口を開いた。


「あ! 碧斗、陽葵ちゃんが碧斗に伝えてほしいって言ってたんだけど……」

「陽葵が? 悪い予感しかしないな」


「また茶化されるのか」と、碧斗は覚悟したが、それは夏鈴の言葉で覆される。


「――"小春のことを変えてほしい"って」

「……変えてほしい?」


 碧斗には、見当がつかなかった。

 完璧として振る舞う小春に、変わって欲しい部分などあるのだろうか、と。


「変えてほしいって、何を?」

「数学の時間、あったじゃん?」

「ああ、うん」

「その時さ、ずっと分からなそうにしてた、って言うか絶対分かってないのに――周りの人には完璧に見せようとするのが、陽葵は嫌なんだって。だから、それを」


 陽葵が夏鈴に伝言したこと。

 それは、乃愛と同じく、"完璧に拘る小春"に思うことがある、ということ。


「乃愛と一緒だな……」

「うん、乃愛も夏鈴にそう言ってくれたけど、碧斗には伝えたって言ってたから」

「そうか。てか、陽葵は何で夏鈴を経由して?」

「それはわかんない。けど、小春には絶対言いたくないって言ってた。多分恥ずかしい……というかプライドなんだろうけど」

「とことん乃愛に似てんな……」


 陽葵も、小春には直接言えない。

 変わってほしくても、どうしてもプライドが邪魔して、無駄なことを言ってしまうから。

 だから、三人を理解している碧斗に頼む。

 乃愛なりの、陽葵なりの、今の最大限の優しさだ。


「そう。だから、碧斗に変えてほしいって言ってたんだけど……引き受けてくれる? ――夏鈴も、碧斗にしか出来ないと思うから」


 真っ直ぐな瞳で、碧斗を見つめる夏鈴。

 そして、夏鈴に頼まれた時、碧斗は翔の言葉を思い出した。

 

 ――三人を成長させるのは、お前じゃなきゃいけないと。


「――当たり前だ」


 強く、強く言いきる。

 そんな碧斗を見て、翔は微笑んだ。


「えへへ、ありがとう」

 

 もう少しで、日が沈む。

 翔が気付かせてくれた気持ち、夏鈴が、陽葵が、乃愛が、頼ってくれた気持ち。

 そして何より――この学校に来て、最初に出来た友達が、この二人で良かったと、心から思う。


 ◇◇◇◇◇


 今日は、翔と夏鈴と碧斗の三人で帰路についていた。


「なあ、夏鈴と翔に一つお願いがあるんだけど……」

「ん? なーに?」

「やっぱり秘密にしといてほしい……」


 翔にも頼んだ内容を、夏鈴にも頼む。

 ――やっぱり、碧斗にはまだ覚悟は無かった。


「え? まさか裏で優越感に浸ろうとしてる……?」

「してない、全然してない」

「まあー、夏鈴からは言わないけどさ。いつかバレちゃうと思うよ? 絶対、碧斗に嫉妬してる人だっているだろうし」

「俺に嫉妬?」

「うん。三大美女と良い雰囲気って噂になってるの知らない?」

「碧斗、男の俺でもたまに聞くくらいだ」

「そんなかよ……ってまあ、あんなに露骨にアピールされてたらそうなるよな」

「でしょ。だから、三大美女を狙ってる子とかが碧斗に話しかけに来たりさ。もしかしたら喧嘩とかになっちゃうかもしれないじゃん? その時は、隠さない方がいいんじゃない?」


 妬み。それを碧斗にぶつける人は少なからず出てくるのでは無いか、と。

 その際は、公表して理解を得るしかないと夏鈴は言う。

 翔と、同じ考えだ。


「碧斗、俺もそう思うぜ。言葉で黙らせるってのもかっこいいからな。腕っぷしには自信あるのか?」

「いやないよ……。殴り合いの喧嘩なんてしたことない」

「んだよそれ。まあでも、どんなにカッケー奴が来ても三人は渡すなよ?……いや、渡すならお前が信頼出来る奴に渡せ」

「夏鈴もそう思う! イケメンって大体性格悪いからね〜」 

「まあ、うん。陽葵たちの感情だから分からないけど、出来る限りのことはする。……夏鈴、俺は性格良いか?」

「碧斗は良いと思う!」

「……それ、ブ……」

「まあ困ったら俺たちを呼んでくれよ!」


 碧斗が良くない思い込みをしようとした所を、翔が言葉で黙らせる。

 そのまま、談笑を挟みつつ、三人は帰路についた。

 帰路の途中、翔が夏鈴を夏祭りに誘えるように言葉で誘導したものの、恥ずかしすぎて誘えなかったのは秘密にしておこう。

 

面白い、面白くなりそうだな、と思っていただけた方は、よければブックマーク登録と評価の方をお願いします!

2話投稿します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ