表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/50

20 夜桜小春の弱点

まずは、このページに飛んできて下さり、誠にありがとうございます。

新しくブックマークして下さった方、既にブックマークして下さっている方、本当に本当にありがとうございます!

最後まで読んでいただけたら幸いです!


 体育祭も終わり、週も明けた日。

 今日からはまた、いつも通りの日常が始まる。


「え!? 陽葵、一回も遅刻しなかったの!?」

「ん、そーだよ。そんな驚く?」

「当たり前でしょ!? だっていつもギリギリに来るあの陽葵が……」


 クラスメイトと談笑する陽葵。

 体育祭実行委員だった陽葵が、朝の集まりを一回も遅刻せずに出たことに驚いているようだ。


「やる時はやるんですから陽葵ちゃんは! リレーかっこよかったでしょ!」

「ちょーかっこよかった! 特に最後三人で抱きついてた所とかほんと最高だった!」

「あ……うんうん、ありがとー!」


 表面上、クラスの中で三人は仲良しなので、こういう時に誤魔化さなければいけない。

 そしてそれは勿論、陽葵だけではなく――


「あのリレー最高だったよ小春! めっちゃ速かったし!」

「ふふ、ありがとうございます。運動は昔から得意なんです」

「ほーんと何でも出来るよね、小春は」

「いえいえ、出来ないこともありますよ。でも、嬉しいです」

「でも私の推しポイントはね、最後に三人でハグしてた所かなぁー」

「あ……あぁ! そこですか! 嬉しさのあまりに抱きついてしまいました……」

「そういうとこが可愛い!」


 こちらも、悟られないように誤魔化す小春。

 ちなみに、「抱きついてしまいました」は勿論、小春にとって悪い意味である。


「乃愛ー! 体育祭お疲れ!」

「うん! ありがとー」

「あんな足速かったの?」

「まあね。昔からよく走ってたからその名残かな」


 まだ入学して二ヶ月少しということもあり、クラスメイト達は三大美女の想像以上の運動神経に驚いていた。


「てか、三人で抱きついてたのやばすぎた。目の保養って感じ」


 やはり、三大美女達の戯れは破壊力抜群のようで、こちらのクラスメイトも同じ事を口にする。


「え……あ、あれね! ってか、私のこと褒めなさいよ」

「あ、乃愛は当たり前のように可愛かったよ? その上でやっぱ三人がくっつくと最高なんだなーって」

「そ、そう。それならいいけど……」

「定期的に見たいなあ、あの絡み」

「え!? あ……う、うん! タイミングがあったらね! 私からは行かないけど!」


 普段の性格上、少しだけ本音を混ぜてもバレない乃愛。

 その点は、二人よりも若干アドバンテージがあると言ったところだ。


 そうして、各方面で談笑という名の誤魔化しをしていると、小川先生が教室に入ってきた。


「はーいおはよー……って、陽葵ちゃんがいる!?」

「おはよー! なんか実行委員のおかげで早起き得意になったかも!」

「まあ、言っても20分なんだけどね?」


 時刻は8時20分。

 いつも陽葵は25分前後に来ている為、実は5分程しか変わっていない。


「陽葵ちゃんにとっては5分でも成長なのですよ!」

「そうね、褒めないとわざと遅刻しそうだから褒めておきます」

「えへへー、それでよし!」


 お互いに微笑む陽葵と小川先生。

 そんな会話を挟みつつ時間を過ごすと、程なくして朝のチャイムが鳴った。


「はーいじゃあ朝のホームルーム始めるよ!」


 小川先生の言葉を皮切りに、いつも通りのホームルームが始まっていく。

 出欠を取り、今日の予定を伝え、質問コーナーへと。

 特に何事もなく朝のホームルームが終わりかけた時、小川先生から最後の一言が入った。


「じゃ、今日も問題なく過ごすようにね!」

「はーい」

「で、もう一つ伝えておくことがあるんだけど」


 碧斗が転校してきた時のような口ぶりで話す小川先生。


「体育祭が終わった後は何があると思う?」

「夏休みですよねー?」


 クラスメイトの一人が言う。


「いや、まあそれはそうなんだけどさ、その前にあるでしょ?」

「その前?」

「そう、その前に」


 7月の後半からは、待ちに待った夏休み。

 答えとしては合っているが、それは小川先生の求む答えではない。


「え、なんですか?」


 また別のクラスメイトが確認すると、小川先生は意地悪な笑みを浮かべて、答え合わせをした。


「――テスト、だよ」


 小川先生が口にしたのは、全学生が嫌がる行事。

 定期テスト、だ。


「……え? そんな行事あった?」

「あるに決まってるでしょ!」


 やりたくないが為に、とぼけている乃愛に小川先生は言う。

 とはいえ、そんなことでテストが無くなるなら、全生徒がとぼけまくるので、無くなっていないということは逃れられないということだ。


「とにかく! テストがあるからちゃんと勉強もするようにね! 号令!」


 そうして、小川先生の悪魔の宣告を終えると、生徒たちは憂鬱な気分で号令をした。


「テストだってよー……」


 朝のホームルームが終わった後、隣に座る夏鈴は呟く。


「んな。夏鈴は勉強得意なのか?」

「夏鈴の小テストの点数覚えてる?」

「あ、あ……」

「そういうこと」


 自信満々なニッコニコの笑顔で問い詰める夏鈴だが、以前の会話で「100点中のテストで10点を取った」と言っていた。

 その事からも、夏鈴は勉強も苦手なのだろう。


「ま、努力すれば何とかなるんだけどさー。生憎夏鈴には努力する才能がないのですよ」

「それ、ただ単にサボりなんじゃ……」

「えへ、そういうことかも」


 運動は先天的な影響があるので仕方ないものの、勉強に関しては後天的なもので、努力次第で何とかなる部分も多い。

 それを分かっている夏鈴だが、勉強はめんどくさいらしい。

 実に夏鈴らしい、というか学生らしい考え方だ。


「碧斗は出来るの? 勉強」

「まあ、運動よりかは得意だな」


 碧斗は、勉強に関しては出来る方だ。

 とはいっても、平均より若干上くらいのレベルであり、自慢できるほどでは無いのだが。


「へえー、なんか意外かも」

「意外?」

「うん、全然そんなイメージないから」

「まあそうか。ちなみにどんなイメージを持ってるんだ」

「んー……まずは勉強出来なさそう、あとはお弁当美味しそう、それに友達いない、あとは……」

「ごめん、聞いた俺が悪かったから静かにしてください……って "友達いない"だけ言いきってるのなんで!?」


 純粋な瞳で、夏鈴はえげつない事を言う。

 悪意が籠っていない感じが、碧斗には逆に刺さりまくっているようだ。

 そうして、碧斗が若干可哀想になってくる会話を挟みつつ、程なくして一限目のチャイムが鳴った。

 


「それでは、号令を」


 担当の先生の合図で、数学の授業が始まる。

 テスト前ということもあり、その声色にも気合いが入っているようだ。


「テスト前なので、しっかり聞いておくように」


 その気持ちを裏付けするように、数学の先生からの注意が飛んだ。

 朝のホームルームで小川先生から言われていたので分かっているものの、テストが来る事実を再確認させられると、やはり悲しくなる。


「二次関数のグラフは頂点を通り……」


 聞くに堪えない、というかそもそも何を言ってるのか分からない内容を、数学の先生は言っていく。

 頭の良い生徒には理解出来ているのだろうが――この女の子は、何一つ理解出来ていない。


「……なにを……言って……」


 あまりの複雑さに、思わず空漠たる声を、誰にも聞こえないように漏らすのは――夜桜小春だ。

 そう、完璧で知られる夜桜小春、実は勉強が大の苦手なんです。


「だからこのグラフの最大値はこの数値になって……」


 そんな小春などお構い無しに、数学の先生は淡々と説明を続ける。


「……ちょ……え……はい……?」


 どんどんと展開されていく謎の数式、そしてグラフ。

「何かの暗号ですか?」と言ってやりたいのを抑えて、なんとか頭の引き出しへと入れようとしていた。

 だが、全く分からない。

 

 クラスメイト達は、普段の行いからも小春は勉強が出来ると思い込んでいる。

 華月学園では中間テストは無く、期末テストのみとなっているということも相まって、小春の学力をまだ正式に知ることは出来ていないからだ。

 その事が、小春にとってプレッシャーになっているのも確かだった。

 夏鈴が伝説の点数を取った小テストでは、小春の点数も割と伝説級だった。

 が、"完璧"として振る舞っている小春はそんなことを言える訳も無く、「何点だった?」と質問してきたクラスメイトには、「まあまあでした」と答えを誤魔化した。


「じゃあ問1、小野寺答えは何だ?」

「3xの4.3の2乗分の6……?」

「何を言ってるんだお前は」


 小野寺陽葵はこの通り。

 言わずもがなの、おバカさん。

 碧斗のせいで第一志望校に落ちたと言っていたが、本当の理由はもっと下らない。

 その陽気すぎる性格と自分が大好きな性格故に、「もしかしたら受かるかも?」という謎すぎる自信で偏差値高めの高校を受験して、当たり前のように落ちただけなのだ。

 ただ、一応勉強はしていたので、華月学園高等学校には合格できた。

 ちなみに、例の小テストでは、伝説どころか歴史に名を残す点数を取っている。


「じゃあ、如月。お前が答えてみろ」

「えーっと……4x!」

「違うぞ」


 如月乃愛も、この通り。

 小春と陽葵に比べればほんの少しだけ勉強は出来るものの、全く得意ではない。

 むしろ、クラスで見れば出来ない方だ。

 まあ、小春と陽葵が勉強出来ない時点で、乃愛も出来ないのだが。


 そんな訳で、三大美女は勉強が出来ない。

 ――が、クラスメイトがそれを知るのは、乃愛と陽葵だけ。

 乃愛と陽葵は、よく授業中に指名されるので、遺憾無くバカを発揮して間違える。

 一方で小春は、指名されることが無い為、そのバカがバレることは無い。

 運が良いのか悪いのか。

 だが、そんな事実が――小春の中に、弱点として存在していた。

 完璧で振る舞う以上、弱さを見せては行けない。

 "絶対に見せるな"と言うのは大袈裟なものの、小春の完璧な性格故に、それに近い信念があるのだ。

 だから、小テストの点数だって聞かれれば誤魔化すしかなくて。


「それでは、終わります。テストまでしっかり勉強するように」 


 結局、小春は何も分からないまま、数学の授業は終わりを迎えた。


「はぁー、難しいなあ」


 数学の先生が退室すると同時に、小春の隣に座るクラスメイトはそう呟く。


「小春ちゃん、わかった? 最大値がどーたらこーたら」

「まあ、まあです」

「やっぱすごいね小春ちゃんは。私なんて全然わかんなかったよ」

「ふふ、でも難しかったので仕方ないと思いますよ」


 優しく微笑む小春。

 その笑顔には、本当の自分を隠しているという罪悪感がほんの少しだけあって。

 人にガッカリさせたくない、失望させたくない。

 "人の為に"を思う優しい気持ちが、無意識の内に小春を苦しめていた。



「あのさ、本当に何言ってるのか全然分からないんですけど……」


 勉強嫌いな夏鈴は、絶望するように自分の机に突っ伏していた。


「まじであの先生何? どこからきたスパイ? なんであんな暗号みたいなことずっと言ってんの……?」

「どんだけ分からなかったんだよ」


 机に伏しながら、とぼとぼとした口調で絶望する夏鈴に、碧斗は思わずツッコむ。

 そんな碧斗のツッコミに、夏鈴はおもむろに顔を上げて反応した。


「どんだけって言うか、もうね、夏鈴の脳みそ自体が拒否してるレベルだよ……って、碧斗はわかったの?」


 まあまあ勉強が出来る碧斗は、若干「ん?」とはなったものの、頑張れば理解出来た内容だったので「まあまあだな」と答える。

 

「はあー、意味不明。夏鈴が碧斗よりバカな訳ないのに……」

「所々で俺を蔑むよな夏鈴は」

「まあ、友達だからだよ。碧斗以外には言わないからこんなこと。あと翔くん」

「そ、そうか。それはどうも」


 思わぬ所で特別扱いされている碧斗。

 とはいえ、夏鈴の性格的に、下心は無さそうだ。


「てか翔くん、分かったのかな?」

「絶対分かってないだろうな、あいつは」


 思わず倒置法になってしまう程に、碧斗は確信している。

 そうして、翔の机を見ると、机に突っ伏していたので、まんま予想通りだった。

 勿論、隣に座る陽葵も突っ伏していた。



 四限まで終わり、お昼休憩。

 碧斗は、とある人物に呼ばれ、無人の教室へと向かっていた。


「お、いたいた」


 その教室に入ると、中にいたのは――如月乃愛。


 乃愛が呼び出した理由、そして、本当の想いを、この時はまだ、知る由もなく。

面白い、面白くなりそうだな、と思っていただけた方は、よければブックマーク登録と評価の方をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 翔に関しては、主人公の期待が裏切られそうな予感。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ