19 体育倉庫にて
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後片付けの為、陽葵と碧斗は体育倉庫へと出向いていた。
「埃達が陽葵ちゃんを歓迎していますね〜」
「絶対嬉しくないだろそれ」
「やだ、私は何でも嬉しいよ? みんなと仲良くしたいし?」
「埃は人間じゃなくて汚れだぞ」
相変わらずメルヘンすぎる考えをしている陽葵だが、本人が嬉しいならそれでいいだろう。
「……って、電気ないのかよここ」
「んね、確かに言われてみれば暗いね」
元々暗めの体育倉庫と、埃が舞っていることもあり、視界は少しだけ見えづらくなっていた。
陽葵のメルヘンな力で明るくしてほしいとは思ったが、言えば本当にやりそうなのでやめておく。
「あ! 碧斗あそこに電気みたいなのあるよ」
そう言って、指を差す陽葵。
「ん……どれだ」
その指を頼りに、碧斗は暗い体育倉庫の中の電気を探していく。
そうして、碧斗が完全に後ろを向いて、電気をつけようとした時だった。
「――」
「ひ、陽葵?」
驚いたような声を出す碧斗。
――それもそのはず、碧斗が自分の背中に感じるのは、後ろから自分を抱き締める陽葵の小さな体だ。
「ど、どうした?」
「言ったでしょー、疲れたって」
「え、でもあんなに元気そ……」
「いーの。陽葵ちゃんは疲れてるからこうしたいの」
途端に落ち着いた口調に変わる陽葵。
元気なフリをして体育倉庫に来たのも、あえて碧斗に電気をつけさせようとしたのも、全てはこの為。
「いや、でも早く片付けて行かないと……」
「だいじょーぶ。ちょっとくらい何も言われないよ、ね?」
「ね? じゃなくてだな……」
「んもう。もっと甘えるぅ……」
そう言うと、陽葵は碧斗の背中へと顔を埋める。
香水なのか、元々の匂いなのか、陽葵の花のような良い匂いを背中から感じる。
そして、刹那の沈黙の後、陽葵は破壊力抜群の妖艶な声色で言葉を続けた。
「碧斗と二人になりたかったから……」
体育祭ということもあり、満足に会話も出来なかった。
近くにいることすらも、難しかった。
他の生徒に紛れて、同じように応援するしか無かった。
――いつもより特別扱いを、出来なかった。
「……大玉転がしも、借り人競走も、乃愛と小春ばっかりずるいもん。教室にいた時だって庇ってたし……」
妖艶な声色と、小柄な体を碧斗に預けて甘え続ける陽葵。
そんな陽葵に、碧斗は黙るしかなかった。
「陽葵ちゃんだって……好きな人には嫉妬くらいするんだよ?」
普段は明るく、陽気に振舞っている陽葵。
それでも、恋する男の子には、特別に思ってほしい。
それが陽葵の性。
「わかる……?」
尚も妖艶な声色で話す陽葵に、碧斗は頭が真っ白になる。
――とはいえ、嬉しみの感情からでは無かった。
誰もいない体育倉庫で、三大美女とハグをしているこの状況。
普通の男子ならば歓喜の瞬間でしか無いのだが、碧斗の心の中には、少しだけ霧のように隠れている感情があった。
「私は……碧斗が好きで仕方ないの。今すぐにでも押し倒しちゃいたいくらいに……。埃なんてどうでもいいくらいに好きなの……」
茶髪ショートボブからの、妖艶すぎる誘惑は止まらない。
普段の性格も相まって、色気には倍の磨きがかかっていた。
「ま、まて陽葵……分かった。ご褒美的なのあげるからとりあえず離れてくれ」
「ん! 分かった! 離れる!」
何とか振り絞った「ご褒美」のワードに、見事に陽葵は釣られ、元通りの声色へと戻る。
あのまま居られたら、碧斗の理性も明後日の方向へ間違いなく行っていた。
「ご褒美は! なに! ほっぺにちゅー?」
「バカなこと言うな」
「えー」
正直、キス以外にさっきのハグ以上のご褒美が見つからない。
出来れば、ご褒美の言葉を取り消したいくらいに困惑している。
「そうだ、みんなから見えないところまで、おんぶして連れてってあげるってのはどうだ。疲れてるんだろ?」
とにかく自分の体に触れさせないと陽葵は満足しないので、命を削る覚悟で碧斗は提案した。
疲労死、なんて言葉があれば今日がその日かもしれない。
「え、いいの!? ほんとに!?」
「お、おう。いいぞ」
「やったー!」
予想以上に効いていた陽葵に、碧斗は驚きつつも「よかった」と安堵した。
「軽いなー」
「重いなんて言ったら顔面パンチだよ」
「こわ……」
夕焼け空の下、小柄な三大美女の一人を背中に乗せて、重い足取りで歩く碧斗。
まあ、自分で言ったことなので仕方ないのだが。
「いけいけごーごー!」
本当に疲れてるのかと疑う程に元気な陽葵は、碧斗の背中を飛行機のように楽しんでいた。
そんな無邪気な陽葵を背中に乗せながら、碧斗は口を開いた。
「てか、乃愛と小春とは仲直りしないのか?」
「誰のせいでこーなってるんですかね!」
乃愛と小春と同じような返答をする陽葵。
そういう部分は、運命的に仲良しな気がする。
まさに"幼なじみ"だ。
「そ、そうなんだけどさ。あんなリレー見せられたら早く仲直りしてほしいって思うよそりゃ」
「んまー、みんなの前では仲良くしてるけどね」
「俺の前でも仲良くしてくれ」
「じゃあ私の事好きになって! 早く!」
「それは、うん、何も言えない」
「ちぇ……このこのこの!」
「いた! いたいってば!」
「このこのこのこのー!」
はぐらかす碧斗の背中に、陽葵の百裂猫パンチが飛ぶ。
そんな可愛らしいパンチを背中で受けていると、いつの間にか死角が途切れる前の場所へとついていた。
「……ほら、降りて」
「んえー、もう?」
「これ以上行ったら見えちゃうから」
「はーい」
若干不満そうにしているが、意外と素直に降りる陽葵。
「んあー、重かった……」
「はあー!? まじで顔面パンチ飛ばすよごらー!」
「あ、陽葵じゃなくて! 足取りがね!? ごめんなさい!」
うっかりどころか最悪な言い方をしてしまった碧斗に、陽葵は頬を膨らませている。
まあ、陽葵が本気で怒った時は、テンションが低くなり全く喋らなくなるので、本気で怒っている訳ではないだろう。
「ちょーっと遅かったね、何してたの?」
色々あって遅かった二人は、先生から詰められてしまった。
無論、「陽葵にハグされてました!」なんて言えるわけが無いので、碧斗は言い訳を考える。
が、そこへ、陽葵の悪魔の口が。
「あのー、この子が遊んでいましておりましてー、少し付き合ってあげた後に注意しましたー!」
「(こいつ……また俺のせいにしやがった)」
「そう、なんか"遊んで"から後が聞き取りづらかったけど、まあいいわ」
「(だからなんで先生も納得!?)」
悪夢の再来かの如く、再び碧斗のせいにする陽葵。
だが、またしても三大美女の権能を濫用する陽葵は、「てへ」と可愛すぎる笑顔で碧斗を黙らせる。
その後は、特に陽葵が先生を怒らせることも無く(周りの生徒は少々困惑させたが)、後片付けは終了した。
実行委員として残っていた二人は、共に帰路についていた。
勿論、陽葵が「一人で帰るのは危ないなー!」と、わざとらしいアピールをかまして。
「うっ……この坂きっつ……」
「え? 走りたいって言った?」
「言ってねーよ!」
いつもなら何とも思わずに歩く坂。
今日は疲労度が桁違いな為、その坂も脅威に感じてしまう。
「ほら頑張るよー!」
「……ああ死ぬ」
「なんでそんなに疲れた顔してんの!」
「いや、その顔とペースで言われても……」
からかっている陽葵だが、歩くペースは碧斗と一緒だ。
むしろ、流石の陽葵でも顔に疲れが見えており、なんなら少し眠そうにしている。
「もーすこし! いちにいちに!」
「気合いだ気合いだー!」
軽くやる気を滾らせながら、なんとか坂を登り終えた。
陽葵の額には、ほんの少しだけ汗が見えていた。
「ふぅー。疲れたあ」
「さすがの陽葵も疲れるよなこれは……」
「てか、なんで碧斗はそんな疲れてるの?」
「うん、君のせいだよ? おんぶさせた君のせいでもあるよ?」
「え?」と、視線を逸らしてとぼける陽葵。
夕日に照らされるその顔とショートボブは、いつ見ても子供らしく、愛嬌がある。
「えへへ、そう言えばそーだった」
「そう言わなくてもそうです」
体育祭終わりは、なんとなく清々しい気分だ。
その感情に身を任せ、碧斗は気になっていることを聞いた。
「てかさ、陽葵たちは"三大美女"って言われてること、知ってんの?」
「まあねー。嫌でも耳に入ってくるし? 陽葵ちゃんは可愛いから合ってるけど?」
「自信満々だな……。じゃあさ、男子にはいないのか? そういう立ち位置の人達は」
「えー、居るんじゃない? なんか廊下とか歩いてたらたまに聞くかも」
「やっぱそうなんだな」
三大美女がいれば、男子側にもそういう存在がいてもおかしくないだろう。
――そして、三大美女を好きになっていても、おかしくない。
そんな会話を挟みつつ、帰路を歩く二人。
すると、陽葵が口を開いた。
「ねー碧斗ー」
「ん?」
「小春と乃愛のことなんだけどさー」
意外な話題を振る陽葵。
「ん、どうした?」
「なんかさ、んー」
なんとなく言葉にしづらいことなのか、陽葵は歩きながら悩むような素振りを見せている。
「なんだ、言えないこと?」
「んーん! そんなんじゃなくってね」
元気な性格とは裏腹に、落ち着いた雰囲気を出す陽葵。
そして、探していた言葉を見つけた陽葵は、そのまま話し続けた。
「"あの二人からしか取れないものがある"っていうかさ、そんな感じがするんだよねー。ま、体育祭で興奮してただけなのかもしんないけど!」
陽葵が口にしたのは、意外にも蔑む言葉では無かった。
体育祭を通じて、リレーを通じて、乃愛と小春だからこそ感じるものがある、と。
「まあ、幼なじみだもんな。俺が幼稚園で出会うよりもずっと前から一緒にいるんだろ?」
「そうそう。家も近くてね」
なんとなく哀愁を感じる陽葵の顔。
碧斗が事情で幼稚園に転入する前から、ずっとずっと一緒に居た三人。
「そんな二人だからさー、余計に碧斗を取られたくないって言うか、そんな感じがしちゃって!」
小さい頃から一緒に居たからこそ、好きな男の子を取られれば悔しい。
お互いの性格も、雰囲気も知り尽くしている三人。
その上で、"碧斗には私しかいない"とそれぞれが思っているのだ。
「でも、今日のリレーで分かったんだけど、やっぱり二人にくっつかれるのが一番安心するんだよー。二人には絶対言えないけどね」
懐かしむように言葉を発する陽葵。
そんな陽葵に、碧斗は疑問を抱いた。
「何ヶ月ぶりなんだ? ああいうスキンシップ的なのって」
「えー……覚えてないけど、あんなにがっつり三人でハグしたのは超久しぶり!」
陽葵は中学生からあの二人と仲が悪くなったのだが、小春と乃愛は小学生からだ。
「なんか、嬉しそうだな」
「え!? ま、まあ? 乃愛みたいに言うなら『嬉しくなんか無いわよ』って感じ?」
「じゃあ嬉しいんだな」
さすがは陽葵だ。
完璧な乃愛のものまねで、実は嬉しかったことを告白した。
その完成度の高さに、碧斗は微笑む。
そして、そんな陽葵の考えを聞いて、碧斗は思ったことを口にした。
「その感じなら、仲直りもできるんじゃ?」
体育祭の流れで、仲直りすればいい、と。
自分が原因で仲が悪くなっているのは百も承知なのだが、ずっとそのままではさすがに碧斗自身も罪悪感で死にそうになってしまう。
半分ダメ元ではあるのだが、半分期待を込めて――。
「――まあ、ね。したいよ、正直」
夕焼け空を見上げ、陽葵は哀愁を込めながらポツンと本音を呟く。
体育倉庫からの帰り道で聞いた答えとは、全く違う声色、そして、嘘偽りない、純粋な思いを。
陽葵も乃愛も、心の内では"仲直りしたい"と思っているのだ。
この二人が思っているなら、小春もきっと、というか必然的に、仲直りしたいと思っているのだろう。
それでも、仲直り出来ない理由。
その答えを、陽葵は口にした。
「したいんだけどね。どうしても碧斗のことになるとイライラしちゃうって言うか、敵目線で見ちゃうって言うか」
一番信頼している二人だからこそ、同じ男の子を狙う敵になれば一番怖い存在になってしまう。
だからどうしても仲直りとまではいけない、と陽葵は言う。
でもそれは、二人のことを「可愛い」と認めているということでもあって。
「まあ、そうだよな。男だけど分かるかもしれない」
「あの、陽葵ちゃん達はあなたを奪い合ってるんですけどね?」
「はい、調子乗りましたすいません」
少しだけ調子に乗った碧斗を、陽葵は微笑みながら注意した。
そして、再び陽葵は、思っていた本心を口にする。
「乃愛と小春はさ、すごく可愛いから。まあ、陽葵ちゃん程じゃないけど」
本当に乃愛に似てきたような言い方をする陽葵。
やはり、二人の事は可愛いと思っているようで。
「幼なじみの陽葵が言うなら本物だろうな」
「うん、ぜっったい二人の前じゃ言わないけどね。小春みたいに言うなら『私が一番可愛いのですけどね』って感じ?」
「そうだな、まんま小春がいるみたいだ」
また、完成度の高すぎるものまねを披露する陽葵に、碧斗も笑う。
完全に仲直りできるのはまだまだ先になるかもしれないが、一歩ずつ、着実に三人の関係は良い方向に向かっているだろう。
――それでも、拭えない何かが、碧斗の心の中にはあって。
若干、しんみりとした雰囲気が舞う帰り道。
そんな雰囲気も、陽葵が居ればお手の物。
「ま、こんな雰囲気は陽葵ちゃんに似合わないからさ! 元気に帰ろ!」
「ん、そうだな。らしくないもんな」
「あ、そうだ! 絶景見に行っちゃいます?」
「なんだよそのサラリーマンの二次会みたいなノリ。今日はさすがに疲れたから行かない」
「んえー、じゃあちょっと遠回りしていい?」
「早く帰りたい」とは思ったが、今日は陽葵も頑張った日なので、碧斗は「いいよ」と言って、いつもより少し遠回りをして帰った。
結局、陽葵に振り回されて、あの絶景を見に行った時くらいには疲れてしまったが、今日に限って大目に見よう。
体育祭の魔法は、夏鈴の気持ちを上向きにするだけでは無かった。
小野寺陽葵の、内に秘めた本音と想いを引き出して、不仲な三人の関係を出来るだけ元通りに近づける。
それが、学校行事の真髄なのだろう。
陽葵との帰り道を過ごし、家に帰った碧斗。
自分の部屋で制服をハンガーにかけていると、電話が鳴っていた。
「もしもし?」
『もしもし、翔だけど』
「いや、分かってるわ」
電話の主は翔だ。
『ちょっと聞きたいことがあるんだけど』
「ん、どうした? 夏鈴のこと?」
『おいおいさすがだな。その通りだよ』
夏鈴のことで碧斗に聞きたいことがあるらしい。
まだ外にいるのか、風の吹く音が聞こえる。
『なんかよ、一緒に帰ろって言われて今帰ってたんだけど……お前なんか言っただろ』
外にいる理由は夏鈴と一緒に帰っていたからだ。
勿論、碧斗はそのことを知っているのだが、ここは誤魔化すことにした。
「え? 全然しらないよ? 何も言ってないよ?」
『お、そうか。ならいいんだけど』
どう考えても怪しすぎる言い方をする碧斗だが、心優しき翔は人を疑わない。
とはいえ、碧斗も悪意のある嘘はつかないため、翔の性格が悪く影響することはない。
そして、本題に入るように、翔は言葉を続けた。
『そんでさ、そのことなんだけど……』
「うん、どうした?」
『やっぱ夏鈴ちゃん可愛すぎねえか!? ずっとリレーのこと褒められて俺死にそうなんだけど!?』
「お、おう。よかったな。隣にいたけどめちゃくちゃ目輝かせてたぞ」
外にいるのにも関わらずクソでかい声を出す翔に少々驚きつつも、微笑ましいので止めることはしない。
『でよ、一つお願いなんだけどさ……』
「うん」
『お前、夏鈴ちゃんと仲良しだろ? だからさ、なんて言うかその』
「なんだよ、そんな恥ずかしそうにして」
『タイミングがあったら、俺と夏鈴ちゃんの遊びの手助けをしてくれ!』
男らしい翔だが、好きな女の子を遊びに誘うのは恥ずかしい。
「いや……ええ」
『たのむ! たのむから!』
これでもかと願う翔。
碧斗は、"うなぎ"に免じて引き受けることにした。
「まあ、わかったよ。その代わり、タイミング無かったら許してくれよ」
『やっぱ最高だなお前は。許す、許す全然許す』
「許しすぎだろ」
『ああーほんと可愛かったなあ夏鈴ちゃん!』
「一応聞くけど……外だよな?」
『おう。外だけど夏鈴ちゃんの可愛さの方が勝つから』
「どういうことだよ……」
いや、その熱量こそ"誘い"に持っていけよとは思うが、外で叫ぶほどに夏鈴のことを好きなことは伝わるのでまあいいだろう。
その場合、周りにいる一般人にも伝わる訳だが。
それからは適当に談笑し、碧斗と翔の電話も終わりを迎えた。
あれから時は経ち、夜。
体育祭があった今日も、三人のグループトークは元気に稼働中。
小春:『やーっと陽葵のボーナスタイムが終わりますね』
乃愛:『そうね。体育祭も終わったし実行委員も解散ってことだもんね』
陽葵:『悲しー。って言いたいとこだけど、陽葵ちゃんは負けないから悲しくないでーす』
乃愛:『ふん、本当は焦ってるくせに』
陽葵:『別に焦ってないもん。焦る理由がないし』
小春:『その余裕そうな感じがムカつきますね』
陽葵:『余裕だよ。だって、ハグしちゃったからねー!!』
乃愛:『はあ!?』
小春:『それは……』
ボーナスタイムで、最大限ボーナスを回収した陽葵は、忘れることなく二人へと自慢をかます。
陽葵:『はあー、最高だったなあ。ちょっと埃が舞ってたけど』
乃愛:『何それ、碧斗を埃人間って言ってるみたい。サイテー』
小春:『碧斗くんは埃じゃないですよばか』
陽葵:『えへ、色々あるんですよ、陽葵ちゃんと碧斗くんのひ・み・つが!』
乃愛:『うっざ……』
小春:『ぶちぎれそうです』
あまりの陽葵のうざさに、さすがの小春も汚い言葉遣いになっている。
乃愛:『んまあ、陽葵が一位になってくれたから今日は許すけど』
小春:『ふふ、言われてみればそうですね』
陽葵:『でも、碧斗は乃愛と小春も頑張ったって言ってたよー』
乃愛:『嬉しいけど陽葵に言われるとなんかムカつく! 嫌だ!』
小春:『私は素直にありがとうって言っておきます。あ、陽葵ではなく碧斗くんにですけどね』
なんだかんだで、三大美女達はお互いを労っていた。
まだまだ先は長いものの、少しずつ少しずつ、関係も修復しているようだ。
この三人が元の関係値に戻れる日は、来るのだろうか。
――――――――――――――
一日の疲れを取る為、入浴していた碧斗は、あることが引っかかっていた。
「なんだかなぁ」
それは、「ありのまま」についてだ。
今日、体育倉庫にて陽葵に大胆な行動をされた。
その影響で、元々心の中にモヤのように存在していた気持ちが完全に浮き彫りになった。
「どうしたらいいんだろうな」
そう嘆くのは、一つの"臆病"から。
「誰かを好きになる」と決めたのはいいものの、立場上は"元カレ"で、自然消滅済み。
そして今日、体育倉庫にて陽葵にハグされた時、「歓喜」よりも「困惑」が勝ってしまったのだ。
――好きになっていいのだろうか、と。
それが乃愛だろうと、小春だろうと、思っていた。
もう一度誰かを好きになってしまえば、また三人の仲は悪化の一途を辿ってしまう。
ならば、現状維持のままでいいのではないか、と。
自分のせいでこうなっている、という罪悪感も相まって、碧斗の心の内は、大きな"臆病"に支配されていた。
それでも、誰も頼る人はいない。
――元カレという立場を公言できない限り、誰にも頼ることは出来ないのだ。
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