『恋しくて 貴女の夢で 逢えたなら』
彼が、私に会いに来てくれた日の昼頃には、また彼からの手紙が届いていた。
あの後、私は眠ることが出来ずに、朝方までゴロゴロと布団の中で悶えていたというのに、いったい彼はいつの間に手紙を届けにきたのだろうか?郵便屋を使っていないのだから、夜にもやってきて、昼にもやってきたのだろうか?
梓が言うように、本当に得体の知れない人だとは思いながらも、今日の手紙をひろげてみる。
『昼間にお会いする事が出来ないのなら、
せめて、夢の中の貴女に逢いに行けたならいいのに…と、思わずにはいられぬ日々です。』
今日は、あまり夜にちゃんと眠れなかったし、こんなに彼のことを考えていたら、本当に自分の夢の中にさえ出て来てしまいそうなくらいの心がこもった手紙に熱が出てきそうだった。
私は、相手の名前を知らなければ、職業もなにもかも知らないのに、こんなにも焦がれてしまっている。
毎日、室内にいるからと生け花や縫い物を始めてみたけれど、全然集中することができない。
「何をしていたら、彼のことを考えないでいられるのかしら…」
こうも毎日、手紙が送られてこられては、頭の端の方に追いやろうにも無理がある気がするわ。
「かくなる上は………写経でもしよう!」
もはや、これは煩悩?とさえ思えなくもない事態に、私は無心になるべくサラサラと書き始めた。そうよ、写経をしたなら字も上手くなって一石二鳥じゃないの!と、自分自身を戒めるかのように写経に没頭した。
それを梓がどこからか見ていたのか、屋敷に閉じ籠もりっぱなしのお嬢様がついに参ってしまったのではないかと勘違いしたのか、その日の夕飯は自分の好物ばかりが並んでいた。
好きなものでお腹がいっぱいになると、私は昨日の睡眠を取り返すかのように、今日はぐっすりと眠りについてしまった。