『秘密事 文届くたびに 募る想い』
それからというもの、気がつくと私が書いた手紙がなくなり、相手からの手紙が届くようになった。
向こうは、私があまり外に出られない現状にあることを悟ったのか、手紙に紅葉やイチョウなど、季節の葉っぱや花びらを一緒に付けてくれるようになった。
「(とても、マメな方なんだわ」
何通かのやり取りをし始めた頃には、私の心の中で詐欺師かもしれないという疑いは無くなってきてしまっていた。そうかもしれないと思うよりも今は、ただ文通が楽しかった。
内容は、今日は何をしていた。とか、小さい頃のお話とか、もちろん和歌が一句添えられている日もあった。すべてが他愛もない話なのに、次はいつ手紙が返ってくるのかと、私は待ちわびしてしまっている。
「お嬢様?最近、ふみを書いておられますが、一体どなたに…?」
「え?!違うわよ。これは……その、字をキレイにしたくて練習してるだけなのよ」
もしかして、梓には手紙を書いていることがバレてしまっているのだろうか。その相手が、詐欺師だと分かってしまったら、間違いなく怒られてしまうのだろう…でも、筆を持つ手は止められない。と思った。
私は、小さな頃からお嬢様お嬢様と育てられたから、あまり外に出ることが叶わず、小さな頃も同じように屋敷の外に出ることが出来ず退屈で仕方がなかった。
許されていたことと言えば本を読むことくらいだろうか。だから、文字の読み書きや和歌、教養を持ち合わせている才女と言われていたはずなのに、物語のような恋も出来ないまま家は落ちぶれてしまった。
お見合いで出会ってきた人達が素敵でなかったわけではない。…ただ、時がたつにつれて、私はどんどんこじらせてしまっているのだと思う。こんな私が幸せになどなれるわけもない。と、心のどこかで感じてしまっているのだ。
いや、そうではない。どちらかと言うと、こじらせてさえいれば、相手が自分に深追いはしてこないだろうと思っているのだ。
恋が始まりさえしなければ、傷付くこともないだろうと考えたのだ。
私みたいな生き遅れた人間がそれでも生きるために考え出した方法なのである。
…それなのに、恋はしてはいけないって頭では分かっているはずなのに、明日もまた手紙が届けられる事を、私は望んでしまっているのだ。