『親心 子を思うゆえ 牢獄の姫』
屋敷に帰ってくると、梓にあれこれと話を聞かれた。
「え?もう一度、詳しく説明してください」
「だから、かんざしを探していたら昼間の人にぶつかって、一緒に探してくれる事になって、家まで送ってもらっただけ」
私の話を聞きながら、途中途中で頷いた梓が頭を抱え込んだ。
「それだけ聞くと普通なんですけど、お母様からのかんざしを取り戻すのに高そうなかんざしが懐から出てきたってなんなんですか?」
「…私もそこは疑問なんだけどね」
居間で喋る二人の会話がいったん静かになる。
「お嬢様……あまり、その言いたくはないのですが…それは詐欺師では?」
「あんなに優しい人が詐欺師なわけないでしょ!」
干芋は自分が買った分を私に全部譲渡してくれて、かんざしのために出した髪飾りだって宝石がはまっているような高そうなものだったもの!と言おうとして、私は梓が言いたい事を理解してしまった。
つまり、何を言いたいのかっていうと全部が見合っていないのだ。床に一度落とした干芋と新品の干芋。本数こそ同じかもしれないが状態は最悪だ。かんざしだって、七五三の玉簪を宝石が入ったものと取り替えるなんて…普通に考えたら有り得ない事だ。だからこそ、自分の心の中には相手への申し訳無さがあることは確かだった。
「詐欺師なんて者は、そういう者です!初めに優しくした分、どこかで取り返しにやってくるものです」
「でも………」
もしこれが詐欺師だと言うなら、私のかんざしを初めから一緒に探そうとするだろうか?それこそ女を騙すために懐にかんざしを忍ばせていたというのなら、探す前から私に諦めさせたのではないだろうか?
「それに他にも気になることがございます。」
「他って?」
「お顔が整いすぎているという事です。」
梓に言われて、相手の顔を思い出す。確かに、男というには汗や力仕事が似合う感じではない。どちらかというと、髪の毛が長くて女形の芸事をしているのでは?と言われたほうがしっくりきそうなほど、中性的な顔立ちではあるものの声の低さや着ている物からして男の人であることは間違いないのだ。
「それは、たしかに…」
「あんなに綺麗な顔をした男の人など、この町で見たことがございません。町の外からやってきた方だとするなら、得体が知れなさすぎます」
梓は、だから詐欺師であると決め込んでしまっているかのようだ。
「旅の一座の方かもしれないじゃない」
「旅の一座だというのなら、なおさら町の人達が知らないわけありませんよ。いいですか、お嬢様!旦那さまからのお金があるとはいえ、最近無駄遣いも多いですし、あの男がお嬢様に何かしようものなら、旦那さまと奥さまに申し訳ありません。ですから、明日より町に遊びに行かれるのは禁止とします」
梓がいつにない真剣なまなざしで怒っている。
「えぇ…買い物とか二人で行ったほうが楽じゃない?」
どうにか梓に私がいたほうがいい条件を提示しようと試みようとはしたのだが、あっけなく失敗に終わった。
「これから、寒くなる時期です。お嬢様は、部屋で布団と一緒にごろごろとしていただければ結構です!」
こうして私は、自分の屋敷に囚われの身となってしまったのだった。