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『恋しくて 思い馳せるは こがねいろ』

※平安時代を詳しくは知らない人間が書いたものです。あくまでも歴史小説ではないので、着物を着ている時代の日本とでも思いながら読みすすめてください。

※全てのタイトルを変えました。中身は変わっていません。


 いまの世は、いったいいつの頃だっただろう。

 毎日が平穏で素朴で不自由がないことが、ただただつまらない日々と言えなくもない時代の…そんなお話なのであります。


 私は、いわゆるお金持ちの家に生まれ育ち、身の回りのことの全てを使用人がしてくれていて、物心がつく頃には良い家に嫁ぐはずだったのに………

 けれど、気づけば父を早くに亡くし、それによって気が狂ってしまった母は後を追うように自殺し、自分が思い描いてたような人生は自分に訪れないことを知ってしまった。

 気づけば、歳は25才を軽くすぎており、結婚するにはとうに生き遅れてしまっていて、縁談などという言葉すら久しく聞かなくなってしまっていた。

 父の遺産で生活は出来るものの、優雅な暮らしをしているわけではなく、いまだに使用人を連れてはいるが、おおよそお金持ちの才女というにはかけ離れた生活を送っている日々だ。

 もはや、自分に起こった不運を開き直ることでしか埋められないのだと、閉じこもり気味な心を少しでも明るく前向きに生きようと、頑張ってみせている日々だった。


 昼を回って小腹がすいてきた頃、私は自室から起き上がると町へいく準備を始めた。

「あぁ、芋!芋が食べたいわ」

 季節は、紅葉が美しく山を染める頃であった。

「…お嬢様。もう少し品の良い言い方が出来ないものでしょうか………そんなでは、良い御縁に出逢えませんよ」

「25歳をすぎていて、良い縁もなにもないわよっ私を満たしてくれるのは、食欲だけ!」

 私の心は、赤く染まった葉っぱよりも食欲のほうが勝っていた。それは自然の摂理ではないだろうか。とさえ、思った。

「こないだは睡眠だけ!と言っていたような…」

 少し前はいきなり寒くなってきた頃で、布団からでるのが嫌な日だったのだろう。乙女の心とは、一分一秒で気持ちなど変化してしまうものなのだ。

「細かいことはいいのよ。梓、すぐに出かけるわよ!」

 使用人に自分の身支度を整えさせると、細かな金額が入った財布を持って出掛けることにした。


「焼き芋もいいけど、やっぱり干芋よね!寒い時期に七輪で炙って、チビチビやるのが1番だわ!」

 お昼ご飯を食べた後に家で小腹が空いた時ように、なにかつまみになるような物を買って屋敷に帰ろうとしていた。

「そんな…スルメ片手に日本酒みたいな言い方は、おやめくださいまし………」

 私は、そんなにお酒は飲む方ではない。お芋のセットは緑茶で全然構わないのだけれど、私の物言いに梓が呆れている。

 念願の干芋を購入すると、紙袋にそれを1キロ分入れてもらった。紙袋を受け取ってお店を出ると、小躍りしたいような気持ちを抑えながら、帰り道を歩く。あまり足元を見ていなかった私は、ちょっとした小石に躓いてしまった。

「わっ!!」

ドテッ

と、見事な音がして気づくと今受け取ったばかりの干芋が紙袋から2つ、3つとこぼれ落ちてしまっていた。

「あ゛あ゛!!」

 すぐさまそれを拾って土を払う。

「お嬢様!おやめくださいっ」

「大丈夫!3秒以内に拾ったやつだからぁ」

 あまりに大好物すぎて買ったばかりの物を諦めるという選択肢が見えてこなかった私に、使用人が叱責の声をあげる。おめおめと泣き出しそうな私の後ろから、使用人とは別の人から声をかけられた。

「大丈夫ですか?怒る前に、まず怪我の確認をするべきではありませんか?」

 小走りにやってきた線が細い華奢な男の人が、私の真横までくるとしゃがみこんで目線を合わせてきた。

「え、あ、はい。大丈夫…です」

 どんな顔した奴が話し掛けてきたのかと顔をあげると、自分よりも髪の毛が長い青年が綺麗な声でこちらに微笑みかけていて、びっくりしてしまった。

「怪我がないようでよかったです。」

「でも……干芋が……」

 私が落ちてしまった干芋を悲しそうに見つめていると

「ここの干芋は絶品ですもんね。買い直してはいかがですか?」

「え、いや…でも…」

 干芋は焼き芋よりも高級品だ。それは、もちろん出来上がるまでに手間暇がかかっているからだ。私の家は、使用人こそおれどもそこまで裕福ではない。

「もし、よければ僕が奢りましょうか?」

 願ってもない相手からの発言に私は目を輝かせてしまった。けれども、それを使用人が断ってしまった。

「いえ、さすがに見ず知らずの方にそこまでしていただくわけには…」

 使用人に、ていよく断られてしまった青年は、少し考えるような素振りを見せると、また口を開いた。

「それでは、こうしてはどうでしょう!僕がいま購入した干芋と落としてしまった干芋を交換するのではいかがですか?」

 そう言うと、彼は私が右手に持っていた床に一度落ちた干芋と自分が持っていた紙袋をささっと交換してしまった。

「ありがとうございます!!」

 私は新しい干芋を手に入れると、息を吹き返したように勢いよく立ち上がった。

「……………お嬢様…」

 梓が私の隣で頭をかかえながら、ため息をはいているのがわかる。

 彼も立ち上がると、そっと微笑みながら会釈をすると去っていってしまった。

 私は2つ分になった紙袋を胸に抱えながら、嬉しさを押し殺すことが出来ないままに家路についた。






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