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シスタームーン 可愛い君を守りたい壊したい

作者: jima

 12歳の誕生日、私は世界の秘密に少しだけ近づいた。

 私と妹以外は街の人々すべてがAIなのかもしれないと。

 つまり私たち姉妹はこの世界に二人っきりだ。





 物心ついた時から私の先生はイナハ(じい)だった。イナハ爺が前の世界の終わりのことやこの街のことを教えてくれた。

 この街は先の世界大戦で生き残った人々の街だ。みんなで助け合い、励まし合ってここまで生き延びてきた。そして生き残りの中で子供は私と妹の(つき)だけだと。

 私と月の両親は月が生まれるとすぐ亡くなったとイナハ爺に聞いた。


 私はこの倉庫街から外に出たことはない。でもこの街には30人以上の人間が暮らしていて、みんな仲がいいし私たち姉妹の面倒をあれこれ見てくれる。私は満足だ。

 私と妹の(つき)は街のだいたい真ん中の倉庫に二人で住んでいるが、ご飯も洗濯も大人がたいがいやってくれる。私の仕事は幼い月の世話と、二人分の朝ご飯の支度、それに自分たちの住む倉庫の掃除をすることぐらいだ。


 毎日午前中はイナハ爺が作った時間割に沿って月と一緒に勉強をし、午後は自由時間だ。

 たいがい月と簡単なボードゲームをしたり、街の通りをかけっこしたり、月に絵本を読んであげたりして遊んでいる。私のほうが7つも歳上だから、どうしても世話を焼いているような感じになってしまうが、月のことが可愛くて可愛くて苦にならない。月が生まれる前は暇な時間をどうやって過ごしていたのか思い出せないくらいだ。

 そういえば両親のことも顔は思い浮かんでも、どんな家族の時間があったのかは思い出せない。




 


 その日、私の誕生パーティにはデトヒ爺が小さなケーキを作ってくれた。

(サン)、おめでとう。大きくなってくれてありがとう」


 私はケーキが本当に嬉しくてデトヒ爺に抱きついた。

「デトヒ爺、ありがとう。私、幸せだよ」


(サン)姉ちゃん、おめでと。よかったね」

 月が私に言うが、大きな眼はじっとケーキを見つめている。


「半分あげるからね。(つき)

 私が月の頭を撫でて微笑むと月も嬉しそうな顔で笑った。

 月は泣き虫で甘えん坊で…でもだからこそ誰からも愛されている。

 私はケーキをひとかけらフォークに刺すと月の口元に持っていった。

「はい、アーン」


「ありがと、お姉ちゃん!」

 月が大きく口を開ける。

 私はその様子が可愛くて、つい意地悪をしてそのひとかけのケーキをUターンさせて自分の口に入れた。


「あー!もうっ!お姉ちゃんの意地悪っ!」

 月が涙目になって抗議するのも可愛い。


「ごめん、ごめん。はい、今度はホントにどうぞ」


 月はすぐ機嫌を直して笑ったが、デトヒ爺は難しい顔をして私を見た。

「傘、そういうのはやめた方がいい」


 急に雰囲気を変えたデヒト爺に私も月も戸惑う。

「デトヒ爺、…ごめんなさい。あんまり月のおねだり顔が可愛かったので」


「爺ちゃん、お姉ちゃんを怒らないで」

 月も私をかばう。


 デトヒ爺はようやく口元を(ゆる)めて私に言った。

(サン)、お前はこんな世界でも(つき)(かさ)をさしかけられる人にならなくっちゃな」


 そんなに許されないようなことをしたのだろうか。私はそれでも素直に返事をする。

「…はい」


「厳しく言い過ぎたな。ごめんよ、(サン)。…あらためて12歳の誕生日、おめでとう」


 ささいな、それきりの出来事だったが、それは楽しい思い出の中に小さな棘のように残った。


 私たちの住む小さな倉庫のシャッター前には大きなテーブルが出され、少しばかりの食べ物や飲み物が用意されている。狭い道路上に近所のおばちゃんやおじちゃんが沢山集まって、ニコニコしながら私を祝ってくれた。


 夜になって雨は止み、綺麗な月が倉庫街の細長い空に見えている。

 この世界、昼間はいつも雨が降り、私の名前「サン:太陽」は見えない。けれど夜は常に美しい月が私たちを照らしている。月の光は私たちの希望の象徴だ。

 今思えば私の最後の幸せな夜だったかもしれない。あのデヒト爺の急で不思議な厳しさを除けば。




「お姉ちゃん、パーティ楽しかったね」

 その夜、二人きりになった部屋で月が眼をキラキラさせて言った。


「うん、月もお祝いしてくれてありがとう」

 私はベッドの月に毛布をかけながら微笑んだ。


「私が生まれたときはどんな感じだったの?」

 

「…今日は疲れたな。月ももうお休み。すごく可愛いい赤ん坊の月のこともまた話してあげる」

 私はそう言ったが、何だろう。赤ん坊の月の顔はしっかり覚えているのに、生まれたその時のこと、月が三歳より前のことが思い出せないのだ。静止画像のように月の生まれたての様子、1歳の誕生日…2歳、3歳とその顔や様子は脳内に浮かんでくるけれど。

 いつの間にかウトウトした。



 深夜、私は倉庫街の裏でイナハ爺達が数人の街の長老達と話すのを聞いた。

 倉庫にある私のベッドの下、そこにある小さな壁の隙間から私は盗み聞きしてしまったのだ。

 パーティの終わり、私がグッスリ眠ったのを見て大人達は油断したのかもしれない。


 私たち姉妹の先生であるイナハ爺が小さな声で言った。その口調と内容に私は怯えた。

「こんにちは。試作体は急激に認識能力などが向上しているので、危険度が高まっていると感じます。今夜のトピックについても例のKA/N×100に関連するものと思われます。①集落における自分の立ち位置の変化 ②集落の機構自体の老朽化それはすなわち摩耗消耗等による欠落がそれをもって試作体に影響すること などです」


「それこそがシステムにおける成長曲線の必然性ともいえるでしょう。大きなあるいは細部の回路調整が必要と判断されることになりました。これからも社会の保全に全力を尽くすなど良いことにしていきます」

 そう答えたのは親代わりともいえるデトヒ(じい)だ。


 二人の声はいつも聞く優しいお爺ちゃんのものではなかった。金属的で平板で感情というモノがまったく感じられない。ひとつずつの言葉は何となく理解できても、何を言っているのか判らない。ただ気持ちが悪かった。


「試作体に付加された情緒に関する『良心回路』が有益であるか、特に本日のトピックに作用したKA/N×100は検証されるべきでべきでべきです。いずれにせよ主保護体への影響は必要最低限にしたいものと調整しては方向でしょう。集積地区全体への認識が更新をされたら良いことになります」

 意味のわからない会話の最後は街の(おさ)の声だ。




 私はそっと倉庫のベッドに戻って、今の会話の意味を考える。

 試作体とかKA/N×100とか、どうにも内容はわからないが言葉の調子や用語の語感には聞き覚えがあった。

 それはデトヒ爺自身が教えてくれた昔のAI同士の会話に近いと思う。

 少なくとも私と月を取り巻く保護者達が別の姿を持っていることは確かだ。

 その後は眠れなかった。長い夜になった。




 翌朝、顔を洗いに外に出る。いつも通りの雨だ。

 私は太陽というものを見たことがない。私の名前は(サン)だけれど。

 ずっと降り続く濃い酸性の雨、どんよりとした重苦しい雲、空はいつもこんなだがそれ以外の空を見たことのない私には「天気が悪い」という言葉の意味もわからない。


 隣に住むデトヒ爺が笑顔で声を掛けてくれた。

「よ、傘。おはよ!今日は12歳と1日だな」

 

 いつもと同じだ。ニコニコと優しいデトヒ爺の言葉に、私は昨夜の会話が夢だったのかと一瞬自分を疑った。でも「ねえ、デトヒ爺。夕べの会話は何だったの」という言葉を口から出すことは出来なかった。何故だか怖かった。


「おはよ、デトヒ爺。昨日はありがと。すごく嬉しかったよ」

 私も笑顔で返して顔を手早く洗うと、倉庫に戻った。

 デトヒ爺が私の顔や戻る姿をじっと見て観察しているような気がした。



 考えろ、考えろ。私は月を守らなくてはいけない。月を酸の雨から守る(かさ)になるのだ。何か恐ろしいことが起こっているのなら気がつかなくては。

 何かが引っかかっている。

 デトヒ爺はいつも通りだったじゃないか。朝のあの場所で何をするわけでもなく、ああやって倉庫の前にいて…

 いつも?


 そういえばいつもあの時間はあそこにいる。そして昨日の朝は「やあ、傘。おはよ!元気かね?」だった。一昨日は「よ、傘。おはよ!明後日は12歳だな」…

 その前が「やあ、傘。おはよ!元気か?」その前は「よ、傘。おはよ!-----」…

 いつも同じ…というか2つか3つのパターンを繰り返していないか。そもそもデトヒ爺はあそこで何をしているのか。


「ねえ、お姉ちゃん。どうしたの?すごく怖い顔だよ」

 ハッとした。月が心配して私の顔を覗き込んでいる。


「ごめんね、月。大丈夫。ちょっと朝ご飯をどうしようかと考えてたの」


「朝ご飯で難しい顔するなんて変なお姉ちゃん」

 月が笑う。


 そうだ。私はこの月の笑顔を守るのだ。

 今のところ私のまとまらない考えがあるだけで、普段の生活からすべて面倒を見てくれているイナハ爺にしても、毎日家庭教師に来てくれるデトヒ爺にしても私たちを育ててくれた保護者には違いないのだ。このままの日々が続くのなら波風を立てる必要はないのかもしれない。



 一旦、月の安全の為に私は考えを止めるよう努めたが、それでも一度自分の頭に浮かんだ『ある考え』を消すことは難しい。

(この街の多くの人、あるいは全員がAI…つまり精巧なロボットだとしたら…私と妹の月を除いて。私たち、たった二人の子供を育てるために協力してプログラムを組んでそれぞれの役割を果たしているのではないか)

 私はまた布団をかぶった。





 翌日の朝のことだ。

 いつものように酸性雨が降る屋外へ洗顔に向かうとデヒト爺がいた。何もしていない。というより私が倉庫から出るまでスイッチが切れた人形のように止まっていた。

「よ、傘。おはよ!今日は12歳と2日だな」

 いつもの格好といつもの笑顔、いつものセリフだ。


 私は返事が出来ない。慌てて倉庫にとって返した。


 そこに月がいて、私を不審の目で見た。

「お姉ちゃん、こないだからおかしいよ。誕生日から」


 まだ5歳の月には余計な不安を与えたくない。私はニコリとして、月の頭に手をおいた。

「フフフ。そうだよ、月。お姉ちゃんは大人だからね。いろいろあるのだよ」


「もう、お姉ちゃんは!心配してるのに!」

 月がふくれる。


「心配してくれてありがとう。でも、ホントに何でもないから」

 私はニコニコ笑ってみせた。

「さ、月も顔洗って身支度整えて。もうじきイナハ爺が洗濯物取りに来るよ」


 少し雨が強くなったのだろうか。倉庫の屋根にあたる酸の雨音が大きくなったように感じた。




「傘、今日は荷物が多いから運ぶのを手伝ってくれないか」

 私たちの倉庫に洗濯物を取りに来たイナハ爺は両手でないと抱えられないくらいの段ボール箱を持ち、その上に大きなバスケットを重ねていた。いつも通りだ。いつもの表情の優しいイナハ爺だ。私は無理にでもそう思い込むことにした。


「バスケットにお前らの洗濯物を入れて、向かい側の(わし)の倉庫まで持ってきてくれ」

 イナハ爺が顎で胸のところのバスケットを示す。

「それから」


「月は洗剤をリコおばさんのところへ貰いに行ってきてくれ」


「はーい」

 月がベッドから飛び降りて、2ブロックほど先の雑貨を管理するオバさんの家に走っていった。


「ちゃんと傘をさして!頭に雨を当てないでね」


「わかってる!」

 外から元気な月の声が聞こえた。


 私は自分と月の洗濯物をイナハ爺のバスケットに入れて両手で抱える。


「よし、じゃあ頼む。ドアを開けてくれ」


「うん。わかった」

 私がイナハ爺の先に立ってドアを開けようとしたら、何か冷たいモノが私の首の裏、後頭部の下に当てられた。

 目の前が暗くなる寸前にイナハ爺の呟きが聞こえる。

「外見や素振りなど変わらないように感じますが、内面の不備や障害は眼球・血流等に現れるものです」


 イナハ爺が何か言ってる?意識が…// into KA/N×100 high 2 SP FP






「どうしたの?お姉ちゃん?」

 月の呼びかけで私の目の前がフッと明るくなる。

 私たちの住む倉庫の中だ。何も異常は無い。


「あれ?私何していたの?」


「お姉ちゃん、イナハ爺とお向かいに洗濯物置きに行って帰ってきただけだよ」

 月が益々不思議そうな顔で私を見る。


 確かにそうだ。そうだった。洗濯物を置きにいったのだ。何も心配はない。気分も悪くない。

「何だかボンヤリしちゃった。お姉ちゃんは大人だからね。いろいろあるのだよ」


 月が笑う。

「お姉ちゃん、さっきと同じこと言ってる」


 そうだったっけ?そうなのかな?そうかも。






 この街で過ごす日々は快適だ。朝の洗顔のために倉庫を出る。


「やあ、傘姉ちゃん。おはよ!元気かい?」

 デヒト爺のいつもと変わらない笑顔だ。元気が出るな。前よりちょっとアップデートしたかも。

 …何だっけ、今の変な感じ。アップデート?アップデート…


「おはよう、デヒト爺。今日の授業は何?」


 私の言葉にデヒト爺も微笑む。

「今日は数学と音楽を学習しよう。月も算数、それから音楽は一緒にピアノだな」


「わかった。月にも伝えておくね」

 私は頭にインプットする。…インプット、インプット?

「でもデヒト爺、何でも出来て、何でも教えられてすごいね」


 デヒト爺がなぜか一瞬動作を止めてからまた笑顔で答える。

「そうだな。何でも出来て、何でも教えられてすごいです」


「変な言い方」

 私は笑って洗面所に向かった。

 顔を洗いながら、急に何か不安な感じがして目線を上げる。

 デヒト爺がこちらをじっと見ていた。





 何かがおかしい。いつから何がおかしいのかもわからないけれど、誕生日のパーティ以降に時々湧き上がる不思議な感触に私は居心地が悪さを味わっていた。

 その夜、ベッドの下に微かな月明かりが差し込んでいるのに気がついた。

(こんなところに隙間が)

 …?私は今気がついたのか?今まで気がつかなかったのだろうか?


 外の気配に私は身を固めた。誰かが、数人の誰かが倉庫の裏で話をしている。私はベッドの下に潜って、外の様子を伺った。


「主保護体の生育は順調といってよいと考えます。身体測定、内科検診等問題はありませんのでこれまで通りの学習を続けるよう考えます」

 デトヒ爺の声…何だろう。こんなしゃべり方聞いたことがない。


「情緒面での成長には何が必要であるのか試行錯誤です。人間の健全な育成に何が必要かさらに研究改善の余地ありということでしょうでし」

 イナハ爺もだ。何だろう、この不安は。私の過ごすこの世界の地面がゆがんでいくような気持ちがする。何を言っているのかわからない。


「我々AIはAIのみで社会を構成することは出来ないですある。いかなる手段方策をもっても最後の人類を失うことは避けます。避けなくてはいけません」

 街の(おさ)の声、『最後の人類』…それは多分私たちのことだ。冷たい汗が背中を伝った。


「人類には情緒的な側面の成長が必須であるという理論から、あえて不安定な回路を装着させましたが」


「はい。それが負の要素を見せていることは否めません。否めないでしょう。否め」


「 KA/N×100の回路など典型です。修正を求めたいであるます」


「次回不安定な側面が疑われた場合、やはり感情回路そのものの除去をせざるを得ないということでしょう」


「個体“月”を安定させるためには一旦停止するのに異論はないでしょう」


「でしょう」


「でしょう」






 翌朝、またも眠れない夜を過ごした私は倉庫に外に出ることが怖かった。

 いつもどおり雨がサラサラと降っている。そして多分いつも通りデトヒ爺が隣の倉庫の前で座っていて…座っているだけで動いていないに違いない。私が外へ出ると作動し、「よっ、傘。おはよ!元気か?」と声を掛ける。その後は私の健康状態や態度、成長具合などを観察するのだ。


 私と月だけが本物の人間で、この街のすべては高性能のロボットだ。AIでそれらしい会話をしているけれど私たちを騙していることに変わりは無い。息が詰まりそうだ。


「お姉ちゃん、また難しい顔してるよ。どうしたの?」

 月がいつの間にか私のベッドの横に座って私の顔を覗き込んだ。


 なぜか私の身体はビクリとする。昨夜の会話、『月を一旦停止』と確かにどっちかの爺ちゃんが言った。

 …どうして気づかなかったのか。月もAIである可能性を。私ひとりを育てるために姉妹として後からくっつけられたに違いない。だから月の誕生した時のことを覚えていないのだ。間違いない。

 よく見れば…私は月の不思議そうな顔をじっと見る…可愛すぎる。こんな陰気な性格の私にこれほど可愛い妹がいるわけはない。私の部屋で私を観察するために作られたAIが月だ。そうだったんだ。


 私は月が憎くてたまらなくなった。キラキラしたこの瞳は人工のレンズで、私をいつも冷たく観察していたなんて…!

「月!あんたなんか!あんたなんか!」


 私は立ち上がって、何事かわからないフリをしている月の形のAIに詰め寄ろうとした。

 その瞬間、私は後頭部の下、首の裏に何か冷たいモノがあてられた。

 私は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!デヒト爺!何したの?お姉ちゃんに何をしたの?!」

 その叫び声だけが聞こえて私は意識を失っ// Function:Add20ArrayElements: KA/N×100


 






 私はベッドの上で目覚めたが身体は動かない。私のベッドの周りには大人達が何人かいて、話している。それはもはや私の知る言語でさえなかった。


「void Add20ArrayElements (F32vec4 *array, float *result)?」

 これはデトヒ爺の声。


「#define SIZE 20// Global variablesfloat result;」

 こちらはイナハ爺。


 それなのに私はこの会話の意味がわかる。以前聞いたAI言語よりもはっきりわかった。


「// Add all elements of the array, 4 elements at a time」

(我々の製作した『良心回路』がこんなふうに発達してしまうとは)

 イナハ爺が私の眼を覗き込む。私は視線を動かすことも出来ない。


(『保護体』月を順調に育てるために“不安定な姉の役”を作成して与えることは有用と考えたのだが)


 私が作成されたモノ?私は人間だ!私には感情がある!


「// Add all elements of SHUFFLE(a,b,i) (F32vec4)」

(予想以上に『試作体』(サン)の精神的な崩壊が早かったです。まあ、最初から(さん)であり(サン)であるとしたす)


 私は太陽(サン)ではなかったの?(ゆうがい)(ゆうえき)


(いずれにしろ『保護体』月は守られなくてはならない。最後の人類であり、最後のクローンだ。我々は保護するモノがなくては作動できなくなる。前世紀のSEが残した呪縛だが、これだけはどうしても解析できないない)


 月が最後の人類?クローン?私は?私は!?


(人類そのものに保護される価値があるかどうかは別問題)


(これから『試作体』傘をどうするか)


 私は?…私は感情を持っている。私がAIなわけがない!


(廃棄処分にする方法もあります)


 やめて!私は笑ったり泣いたり出来る。ロボットなんかじゃない!


(そういうわけにもいかない。『保護体』月が姉として強く認識しています。これを消去するのは月に何らかの情緒的障害をもたらす怖れがあるましょう)


( KA/N×100『可愛い過ぎると100倍ほど憎くなる』を含む『良心回路』…感情のすべてを消去するしかない)


(何度聞いても理解不可能です。できるだけ人間の感情を解析して再現しようと前世紀の様々な文献を参考にしたのですが)


(やはり一切合切をデリートの方向に)


(『保護体』月に危害を加えるよりはマシでする。『試作体』傘は我々と同様のAIにバージョンを変えてプログラム通りの言動を演じるロボットとして再起動することにするでする)


 誰かの手が私の首の後ろに差し込まれた。カチカチと何かを操作する音が聞こえた。


 いやだ!消えたくない!私は人間だ!感情のある人間だ!勝手に消すな!

 ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ!

 ワタシハニンゲンダニンゲンニン

// Include Streaming SIMD Extension Class Definitions#include <fvec.h>

// Shuffle any 2 single precision floating point from a

// into low 2 SP FP and shuffle any 2 SP FP from b

// into high 2 SP FP of destination

#define SHUFFLE(a,b,i) (F32vec4)_mm_shuffle_ps(a,b,i)

#include <stdio.h>

#define SIZE 20

// Global variables

float result;

_MM_ALIGN16 float array[SIZE];

//*****************************************************

vec0 += array[1]; // Add elements 5-8

vec0 += array[2]; // Add elements 9-12







// Function: Add20ArrayElements

// Add all the elements of a 20 element array

//*****************************************************

void Add20ArrayElements (F32vec4 *array, float *result)

「おはよう、月」


F32vec4 vec0, vec1;

vec0 = _mm_load_ps ((float *) array); // Load array's first 4 //*****************************************************

// Add all elements of the array, 4 elements at a time

//****************************************************

「大丈夫だよ。昨日は少し気分が悪くなっちゃただけ。心配かけてごめんね」


vec0 += array[1]; // Add elements 5-8

vec0 += array[2]; // Add elements 9-12

vec0 += array[3]; // Add elements 13-16

「お姉ちゃんは大人だからね。いろいろあるのでます」






読んでいただきありがとうございました。

ディストピアもの、一度やってみたかったので挑戦しました。

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