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マチルダの結婚  作者: 棚から現ナマ
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11. 魔獣討伐



「野郎ども行くぞっ。気を引き締めろっ。まあ、お前たちに出番は無いとは思うがなっ!」

逞しい使用人達を集め、ウインスター伯爵家の家長が声を張り上げる。華奢な体格に小さめな弓。

今から魔獣を討伐に向かうにしては、あまりにも場違いな様相だ。

それなのに伯爵の周りを囲む使用人達の士気は、盛り上がりを見せている


「旦那様、俺達にも少しは魔獣を回して下さいよ。せっかく来たんですから、暇なのは嫌です」

「そうっすよ。こう見えても俺は、鍛錬を欠かしたことはないんすからっ」

「ガハハハ、嘘をいえっ。この前、彼女の所へ訓練をサボって行っていたじゃないかっ」

「違うつす、あれは彼女がぁっ」

周りから大きな笑い声が溢れている。

今から魔獣の討伐へ出ようとしているのに、皆が明るい。殺伐とした雰囲気など、欠片も無い。


どういうことだ?

魔獣を討伐することを生業とする当主が後衛の弓使いなど、ありえないだろう。それに見回してみると、後継ぎであるガイザックどころか、伯爵家の者たちは、マチルダを除いた、ほぼ全ての者たちが弓使いのようだ。



皆で一斉に森へと足を踏み入れる。

偵察隊からの報告を受け、魔獣が繁殖している場所を目指す。

小1時間ほど歩いていくと、魔獣の姿が見えてきた、子を産み増えているようで、大きさはバラバラだが、狼の魔獣のようだ。

数が多い、10、いや20頭はいそうだ。


森の魔獣を初めてみたシモンだったが、その大きさと、禍々しさに驚いた。

海の魔獣よりも森の魔獣の方が、簡単に討伐できると思ってしまっていた。大間違いだ。

海の魔獣は身体こそ森の魔獣よりは大きいが、単独で陸へと上がってくる。しかし、森の魔獣は違う。群れだ。何頭、何十頭と群れを成し、襲い掛かってくる。


「ギャン」

いきなり一番手前にいた魔獣が悲鳴を上げ吹き飛んだ。

魔獣の身体には矢が刺さっているが、本来魔獣は獣よりも身体が大きく、非常に頑強だ。矢が1本刺さったくらいでは、どうということは無いはずだ。

それに魔獣の体毛は、普通の矢なら弾いてしまうといっていた。それなのに魔獣は起き上がることができないのか、横たわったまま、もがいている。


次々と魔獣たちは矢に撃たれて倒れていく。倒れた魔獣たちに前衛たちが止めを刺していく。

これがウインスター伯爵家の魔獣の討伐のやり方。後衛である弓使いが魔獣を仕留めていくのだ。


こんなことがあるのだろうか。弓で魔獣を仕留めることができるなど、シモンは今まで知らなかったし、見たことも聞いたこともなかった。

矢で打たれた魔獣は、ほとんどが起き上がれなくなるが、中にはこちらに攻撃してこようとする個体もいる。そんな時は、いくつもの矢が魔獣に突き刺さり、起き上がるどころか、命さえも奪ってしまう。


シモンは身体が震える。

恐れや不安などではない。歓喜が身体の奥底から湧き出てくるのだ。

今までコンプレックスでしかなかった脆弱な身体でも、魔獣を仕留めることが出来る。魔獣の討伐に貢献することができる。


ガイザックに見惚れる。

自分と同じような体格をしたガイザックは次々と矢を魔獣に打ち込んでいる。

その矢じりは光を帯び、魔獣に突き刺さると、小さな爆発を起こしているように見える。


「あと少しだっ、気を引き締めろっ」

ウインスター伯爵の檄が飛ぶ。

使用人たちは、口々に応えを返している。


シモンは森の魔獣の討伐は初めてであり不慣れであった。それでも、魔獣の討伐をする現場において、気を抜くことがあってはならない。


「シモンさまっ!」

マチルダの悲鳴が聞こえた。

いつのまにか目の前には大きな魔獣が迫って来ていた。

前方で繰り広げられる魔獣の討伐に気を取られ、後方から忍び寄ってきた魔獣に気づかなかった。こんな討伐の場にいながら、シモンの意識はガイザックに向けられていたのだ。

シモンの手には、剣が握られているが、大型の魔獣にどこまで通用するか。まるで歯が立たないことは明白だった。


周りの者たちが、シモンを守ろうと一斉に動いたが、シモンはガイザックと共に後衛にいた。前衛の者たちが駆けつけるには間に合わない。

後衛を護る役割の者達も配置されていたが、シモンはガイザックが弓を放つ邪魔にならないようにと、少し離れていたから、それが仇になってしまった。


シモンには、魔獣が飛び掛かってくるのが、まるでスローモーションのように見えた。目の前の魔獣によって、自分の命が尽きるのが分かったから。

シモンは戦闘時にあってはならないことだが、思わず目を閉じてしまった。


ザシュッ。

魔獣が鋭利な牙でシモンに襲いかかる。シモンの華奢な身体は、衝撃に耐えきれず吹き飛ばされ、近くの木にぶつかるようにして止まる。

衝撃を受けるが痛みが無い。無事だ。

驚きに目を開き、魔獣の方へと視線を向けると、そこにはマチルダがいた。


マチルダは、その驚異の瞬発力をもってシモンの元へとやってきていた。もともとマチルダはシモンを気にかけており、いち早くシモンの近くに魔獣がいることに気づき、駆け付けたのだ。

マチルダは魔獣を討伐するよりも、シモンを助けることを優先した。魔獣に剣を向けるよりも、シモンを突き飛ばし、魔獣の牙から救ったのだ。


魔獣の攻撃はマチルダへと向かった。

シモンを突き飛ばすために魔獣の前に、無防備に飛び出したマチルダに、魔獣の爪が直撃した。

それでも、シモンに向けていた牙で噛みつかれなかったことだけは、少しはましだったかもしれない。


すぐに魔獣は駆け付けた者達により討伐された。

ぐったりと気を失ったマチルダは応急処置を施された後、すぐに屋敷へと運ばれた。

ただただ涙を流すシモンと共に。


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