満月と失恋
お題小説になります。
お題は「満月」でした。
うちの子は満月になるとじっと月を見上げていた。
いい歳をした主人が恋の一つも知らないというのに、きみはずいぶん重たい恋をしているようだね。
あの月で餅つきをしているどちらがきみの想い人(?) なのだろう。そしてずいぶん遠距離恋愛だし・・・。
叶いっこないよ。
でもその瞳は、そんな障害を考えもしないような、一途な目。
もしかしてそれは叶う必要のないものなのかもしれない。
人間たちとは違う。手に入れたとか失ったとか、そういうものとは違うのかもしれない。
「人間て汚いからなあ」
私はわかったようなことを言ってみる。
あれから何年か経ち、あの子はいなくなり、私は一つの恋を失っていた。
「失恋おめでとーーー」
「忘れちゃえ、忘れちゃえ~。次があるさ!」
友人が二人来てくれて、励ましてくれる。
私もそのノリにあわせる。
「ま、なんだかんだ言って私にはふさわしくない男でしたよ」
「おっ! 言うね。いいぞ、もっとやれ」
二人は大いに騒いでくれた。さみしさが癒されていく。
「やっぱ友だな! 友情最高! 出会いに感謝」
そして、三人で涙にくれる。もはや何の涙なのかわからない、それ。
騒ぎに騒いで二人は帰っていく。
私の心は穏やかだった。後片付けの残りをすまし、ふと外を見る。
満月だった。
しばらく眺めた後、ふと横を見る。当然いるはずもない影を求めるが、それはとうに失われていたもの。
「あの子に会いたいなあ」
私はぽつりとつぶやいた。