表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3人目の対象者 美桜 p.3

「そういう事でしたら、お気遣いなく! むしろ、ワクワクします! 私、尾行とか、一度やってみたいと思っていたので!」


 美桜は、何故だか、小さくガッツポーズをしている。やる気満々という事だろうか。


 そして、暫しの間、片頬に人差し指を当てて何かを考える素振りを見せたかと思うと、またもや、突飛な事を言い出した。


「先輩! そのままでは、姿を見られるかも知れません。着ぐるみを着ましょう!」

「ええ? 着ぐるみ?」

「処分する物が1体あるんです。取ってきますから、先輩は、尾行を続けてください。すぐに、連絡入れます」


 美桜は、唖然とする俺を残し、遊園地の奥へと駆けて行った。


 数十分後、戻ってきた美桜に段ボールを押しつけられた俺は、建物の陰に隠れて、薄汚れたパンダへと変身を遂げた。


 この遊園地の経営者の孫娘だという美桜は、たまに園内でアルバイトがてら、手伝いをしているようで、着ぐるみの1体をくすねて来るくらい、わけ無いという話を、着替えている間に聞かされた。


 俺は、美桜の素性など全く知らなかったが、自分の素性を知っていたからこその、今回の抜擢なのだろうと推察する美桜に、それとなく話を合わせておいた。


 変身した後は、美桜の誘導で、あいつの付近を付かず離れずウロチョロとする。パンダ好きのあいつは、俺のことが気になるのか、チラチラと視線を寄越す。しかし、子供っぽく駆け寄ってこないあたり、かなり自制しているようだ。


 太陽は頭上高く登り、もう、そろそろ正午。気を引き締めなくては。どこで、どんなことが起こるか分からない。分かっていることは、あいつの身に危険が及ぶということだけだ。


 美桜のキスによるタイムリープは、期待できない。なんとか、ここで食い止めなくては。


 そう思った矢先、甲高い悲鳴が、周囲に響く。素早く視線を送ると、思った通り、あいつの周りで騒ぎが起きた。


 ナイフを振り回しながら、あいつを威嚇する女。アレは、美穂か?


 チクショウ。あいつを危険な目に合わせるのは、結局俺なのか。


 ギリッと下唇を噛みながら、俺は、あいつと美穂の元へ走る。不恰好な着ぐるみのせいで走りにくい。


 美穂が狂気の沙汰で、あいつにナイフで襲いかかる。その間へ俺は必死で飛び込んだ。


 ズン!


 鈍く重い衝撃が、体に伝わる。


「イヤーーーー!」


 誰かの悲鳴を聞きながら、俺は思う。


 誰でもいい。誰か、俺にキスをしてくれ! 本気のキスを。


 そんな事を思いながら、俺は、その場に崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ