005 くだらない話-01
くくくくく、と、急に笑い出す栞。
何を笑っているんだ。別に今おかしい事なんて、何にもなかったぞ。
栞が差し出した本を、僕が受け取った。ただそれだけの事だ。
「何笑ってるんだよ、栞。」
「ふふ、情けない顔してるな、と思ってね。」
くちびるの端をわずかにつり上げ、面白そうに栞は言う。
そんなに情けない顔になっていたのだろうか、僕は。
「何も笑う事はないだろ?」
「いや、私が笑ってるのは、そっちじゃないよ。」
本当かよ。怪しいもんだ。
「そっちじゃなかったら、どっちなのさ?」
「……その返しには、センスのかけらも感じられないね。」
「その話は一回閉じておこう。」
「……………。」
「……………。」
空気が固まった気がした。
やがて静寂を打ち破ったのは、栞だった。
「……………扇子だけに?」
「……………。」
「…………………………扇子だけに?」
「……………。」
答えない。答えられない。答えたくない。
「………………………………………扇子だけに、かい?」
繰り返し問う栞の目が弱冠怖かった。
まぁ、今のは自分でも酷すぎると思う。
「……………やれやれ。ま、いいんだけどね。」
「それで、笑ってた理由は?」
おそるおそる問う僕。
「嘘だからさ。」
しばらく間が空いてしまったので、その嘘というのが何を指しているのか、よく分からない。
だから僕は聞いた。
「えーと、何が?」