004 本当には無かった話-03
「言葉の通りだよ。あえて、そういう本にする事によって、その話は、無かった事に出来る。」
「無かった事にはならないんじゃないかい?現にこうして、話はこの本の中にある。」
表紙を撫でながら、栞は言う。血のように赤いその表紙には、黒いタイトルだけが見える。
作者名などの類は無いようだ。
読者投稿型の小説のようだから、そういうものなのかもしれない。
「……確かに、少し言い方は悪かったかもしれない。でも栞、僕の言いたい事は分かるだろ?」
「は。分かる訳ないだろう?君の貧弱な思考なんて。」
本に視線を落としたまま栞は答える。
「ぐ。悪かったな、貧弱で。……確かに、無かった事、というのは少し言い方が悪かったかもな。例え本当の話だとしても、嘘の話に出来るってとこ、かな。」
「君はもう少し語彙力を増やした方が良さそうだね。」
「………伝われば問題ないだろ?」
「伝われば、ね。」
ぺらり、とページを捲りつつ、栞。
「………なんというか、そうだな、信じられたらやばい話が混じっているんじゃないか?」
僕がそういうと、ようやく栞は目線を上げた。
「ま、大体そんなところだろうね。最初からそういう風に言えばいいんだよ。変に言葉で装飾しようとせず、君の思ったままを、言葉にすればそれで。」
「装飾……ねぇ……………。」
別に装飾しようとした覚えはないのだが。
栞がぱたん、と本を閉じる。
「本当にはなかったという形を取る事によって、その話は嘘の鎧を纏う事が出来る。」
…………その例えもどうかと思うけどね。
再び僕へと本を差し出しながら栞は続けた。
「下手に信じられると困る、本当に【ヤバイ】話が載ってるよ。これには。」
「う、嘘でしょ?」
そんな物を渡そうとしないで欲しい。
「ふふふ、どうだろうね。」
「………だって、そんな危険な話を載せる意味がないじゃないか!!」
「誰かに聞いて欲しかったんじゃないかな?一人で抱え込むには辛すぎたのかもしれない。………ま、その辺は、君が実際に読んで判断すればいい。」
「……………」
何となく受け取ってはみたものの、僕はまたしても、どうやって返事すればいいのか、分からなくなってしまった。