002 本当には無かった話-01
「どちらか、といえば、信じていない。いや、いなかった。」
僕は、心霊現象などは、基本的に信じる。
信じている、のではなく、信じる。
信じさせられる、といった方が、さらに正確か。
「お前は騙しやすい」と言われた。
誰に言われたのかは忘れたが。
「だから、悪い奴に気をつけろよ。」
とも言われた。
栞は、本棚に本―――心霊スポットがどうとかいう、さっきまで読んでいたもの―――を戻し、つつつ、と人差し指を横に動かし、同じ列の本の背表紙をなぞりながら、本を物色している。さっきの本は、もう読み終わったのだろうか、付箋を挟んでいたようだけど。
「ふぅん。意外と、リアリストなんだね。君なんかは、眠れない夜を幾つも超えているもんだと思ったんだが。」
ふふ、と薄く笑い、動かしていた指を止めた。
本棚から新たに一冊を取り出し、それを僕に渡しながら、栞は続ける。
「ほら、コレを読んでみるといいよ。」
差し出された本には、【本当には無かった怖い話】と書かれている。
誰が読むんだよ、これ。どういう層の読者を狙ってるんだ。本当には「無かった」って。
「いや、面白いの?これ。」
「それなりにね。最初から作り話と分かっている分、興ざめだが。」
「なんだか面白く無さそうなんだけど。」
「何故?」
「だって、作り話なんだろ?どうせだったら、【本当にあった怖い話】の方をくれよ。」
一冊だけ抜かれて、何だか不恰好になってしまった本棚。
その歯抜けの部分の隣りにあるタイトルを、僕は読みあげた。
「それは違うよ、茉莉君。だいたいね、【本当にあった怖い話】が【本当にあった】保障がどこにあるんだい?」
「どこにって、そういうタイトルなんだから。」
「馬鹿だね、君は。そう銘打った方が売れるから、そういう名前なんじゃないか。」