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勇者とは引きこもる事と見つけたり

掲載日:2021/03/10

「勇者様!」


炬燵にもたれ掛り、軽く死んでいると、急に扉が乱雑に開け放たれる。

入って来たのは王急に仕える兵士だった。

青い鎧に槍を背負う様は、正にモブそのものだ。


「ノック位しろよ。あと寒いからさっさとドアを閉めろ」


外は冬真っ盛り。

急いでやって来たであろう兵士の肩や頭には雪が降り積もっていた。

つまりくそ寒いという事だ。


「それどころではありません!ドラゴンが現れたのです!今すぐ討伐の準備を!」


兵士は俺の言葉を無視して話を進める。

必死なのはわかるが、ドアは占めても罰は当たらんと思うのだが。


「どこだ?場所をいえ。後、早くドアを閉めろ」


寒風が部屋の中に吹き込んできて、炬燵から出る気にはとてもならない。

もちろんドアを閉めても出る気は更々ないが。


「ですが!」


「し!め!ろ!」


なおも無視しようとする兵士を眼力で黙らせる。

流石にこれは利いたようで、彼は渋々扉を閉じた。


「まああれだ。寒かったろう。鎧を脱いで炬燵に入れ。そしたら話を聞いてやる。あ、ちゃんと靴も脱げよ」


「はぁ……」


彼が渋々炬燵に入った所を狙いすまし、お茶をスッと出す。

勇者ともなればこの手の達人芸(こころづかい)もお手の物よ。


「勇者様!ドラゴンは――」


「まあ食え」


お茶に手を付けようとしないので、今度はミカンを差し出した。

これは諸刃ミカンと呼ばれる高級品だ。

鬼の様に硬く、食べると歯がボロボロになってしまうが、味だけは出鱈目に美味い。


俺はこれを好んで食べていた。

お陰で今は総入れ歯だが、後悔してはいない。


「ドラゴンが現れたのですよ!?勇者様はどうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」


「家とは寛ぐ場所だ。俺はその不文律を徹底しているだけだ。だいたい、焦った所でドラゴンが勝手に死んでくれるわけじゃないしな」


「それはそうかもしれませんが……」


俺はミカンの皮を剥き、口に放り込む。

ガチガチガンガンと、とても食べ物を口にしたとは思えない音が響く。

この歯ごたえも又よしだ。


因みに歯は魔法でその気になれば再生させることも出来る。

しないのは、このオリハルコン製の入れ歯なら歯磨きをしなくて済むからだ。


流石最強の金属だけはある。

ビバオリハルコン!


「それで?どこに現れたんだ?」


ミカンを飲み込み、お茶を啜る。

一息ついた所で、持ってきた話の先を進めさせてやる。


「は!王都より北50キロにあるガンズ平原で目撃されたようです!どうか今すぐ討伐の準備を!」


50キロか。

思ったより近いな。

道理で目の前の兵士君は焦っていたわけだ。

ドラゴンが真っすぐこっちに向かってきた場合、1時間とかからず王都にたどり着くだろう。


「しょうがないな」


体を倒し、炬燵に寝転びながら魔法を唱える。

使うのは2種類だ。

相手の位置を特定する魔法と、攻撃魔法。


「5秒だけ扉を開けてくれ」


「へ?あの?どういう事でしょうか?」


「いいから5秒だけ開けてくれ。さっさとドラゴンを退治したいんだろ?」


「はぁ……」


兵士は渋々と炬燵から出て、扉を開けた。

寒い風が再び流れ込んで来る。


外は地獄だな。

そんな事を考えながら、炬燵の反対側から足を出す。


「アルティメットバスター!」


込めた魔力が爆発し、突き出した足から閃光が放たれる。

それは扉を抜け、上空高くアーチを描いて目標に向かう。


着弾まで、その間わずか3分。


たった3分で50キロ先のドラゴンの頭部を貫き、その命を刈り取る。

恐らく、ドラゴンはその身に何が起こったのかすら分かっていないだろう。


まあそんな事はどうでもいい。

重要なのは――


「早くドア閉めてくれ」


突然の出来事に驚き、呆然としている兵士に声をかけた。

5秒つったのに、ちゃんと仕事しろよな。


「あ、あの……今のは」


「魔法でドラゴンを退治した。もう大丈夫だ。あ、大丈夫ついでに部屋の片づけと買い出しを頼むよ」


炬燵から基本出ないので――大小は転移魔法で体内から飛ばしている――部屋は散らかり放題だ。

自分で片付ける気は更々なかったので、ある意味ドラゴン様様と言えるだろう。


「え!?」


俺の言葉に、兵士の顔が引きつらせる。

だがここに来たのが運の付だ。

彼には頑張って家政婦(ハウスキーパー)を頑張って貰うとしよう。


「ああ、その後便所風呂掃除も頼む」


まあ一切使ってないのだが、そういう所は使ってなくても汚れていくものだ。

大切な我が家だからな。

メンテナンスはきちんとしないと。


誰かが言った。

正義のために戦う勇者には、癒しやプライベートなどないと。


だがそれではいずれダメになってしまうのは目に見えていた。


だから俺の考えは違う。

勇者こそ、プライベートや癒しが必要なのだと。


だから俺はここに誓う。


俺が最もくつろげるこの家。

マイホームからは一歩も出ずに、世界平和を成し遂げる事を。


そう!

俺は世界初の引きこもり勇者になってみせる!

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