嘘の日
エイプリルフール。一年に一度嘘がつける日。僕は幼い頃から嘘をついて親や友達を困らせてきた。日頃の行いが悪かったのか、僕はなぜか目の前に現れた神様の力によって猫になってしまった。
1
どうやら、人間には聞こえないが猫も喋るらしい。僕は猫になって一時間後にそれに気付いた。近所の家の塀を上手に歩いていた。向かい側から猫がやってくる。
「やぁ見慣れない顔だね、君は」と目の前の猫が話しかけてきた。人間からは三毛猫と呼ばれる猫で三色の毛がかわいらしい。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕は本当は人間なんだ」
「なんだ、君もか」
「え?まさか君も?」僕は驚く。
「嘘をつく人間はみんな猫にされちゃうんだよ。知らなかったのかい?」三毛猫は目を大きく開いて言う。
「そんなぁ。じゃ君も嘘つきだったんだ?」
「まぁね。俺はインターネットで自分のホームページに嘘を書いて世界中に発信したのさ」
「え、どんな?」僕は今の状況より嘘の内容が気になっていた。
「まぁ立ち話も何だし、俺の家で話そうじゃないか。ついてきてくれ」三毛猫は塀を飛び降りて道路を横切り始めた。僕は塀を飛び降りるのが怖くて、塀に張り付くようにして降りた。
「ははは、さては怖いんだな?それじゃあ猫らしくないぞ」
「僕は猫じゃないから」
「とりあえずジャンプしてみろよ」
僕は飛んだ。体が軽かった。いつもより飛んだ気がした。着地も緩やかだった。
「な?猫はすげぇだろ」
「うん」
2
三毛猫の家に着いた。人間からすればただの草むらにしか見えないだろう。しかし、草と草が重なり合い、上手い具合に屋根になっていた。
「ここが俺の家だ」
「すごいね」
「さて、まずは自己紹介からはじめよう」
「それじゃあ僕から。僕の名前は…」
…………あれ、名前が思い出せない…
「あぁ、やはり君もか」
「え?」
「自分が人間だった頃の名前を忘れてしまっているんだ」
「どうしよう」
「とりあえず、猫の間で通用する名前を決めるといい。ちなみに俺はミケオだ」僕はこの三毛猫のミケオという名前に納得した。
「僕はどの名前がいいかな」
「う〜ん、自分で決めるといいさ。そもそも君は自分がどんな姿か分かるかい?」
「いいや、よく分からないや。でも猫ってことだけは分かる。あと足が白い」
そう言えば、いきなり現れた神様に僕は魔法のようなものをかけられて神様は
「お前みたいな嘘つきは今日から猫になれ」とだけ言われて体が小さくなった。だから自分の毛の色とか、詳しい事は分からなかった。
「よし、それじゃあついてこいよ」
僕はまたミケオについて行く。
3
着いたのは川だった。
「川を覗いてみろよ」
僕は水に映る自分の姿を眺めた。その姿はやはり猫だった。体は黒い色をしているが、足の部分だけが白だ。まるで靴下をはいているようだ。
「靴下」
「え?」
「いや、僕は靴下をはいているようだなぁって」
「それじゃあ君の名前は靴下だ」
「それは極端すぎるよ」
「それじゃあソックスって名前はどうだ」
「う〜ん、靴下でいいや」
「よし、靴下、それじゃあ嘘を見付けに行くぞ」
「嘘を見付けに行く?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ?」
4
再び僕たちはミケオの家に戻ってきた。
「嘘を見付けるってなに?」
「あれ、神様から説明受けなかったの?」ミケオが驚いた顔をする。
「だって、魔法みたいなのをかけられて…それだけだし」
「それじゃあ俺が代わって教えてやろう。俺たちが猫から人間に戻る方法は、嘘を見抜く事だ」
「嘘を見抜く?」
「そうだ。嘘をついて猫にされた俺らは、この世界の嘘を見抜かなければならないらしいんだ」
「なんで…」
「とりあえずそういうルールなんだよ」
「まぁ、仕方ないか」
5
僕らは小さな商店街を歩き出した。午前中の商店街は閑散としている。
「ここに嘘があるわけ?」
「それを探すんだろ。おい、あれ見ろよ」ミケオがコンビニのガラスに貼ってあるポスターを指した。
「あれは…ゲームの…」有名なゲームのポスターだ。
「おそらく発売日が変わるよ。発売日は嘘じゃないか?」
「嘘ではないと思うよ。発売日は延期になるだろうけど」僕もゲームの発売日が変わることはよくあることだと知っているけど、これは嘘ではない。
「おい靴下、あれはどうだ?」ミケオは商店街から少し離れた住宅地を指した。
「なにが?」
「あのポスターだよ」ブロック塀に貼ってある政治家のポスターだ。
「〇〇党、国民の皆さまの為に戦いますって書いてあるだろ。どうせ政治家なんて自分の事しか考えていないんだよ」僕は思う。これも違う。
「それは嘘じゃないよ。嘘でも、嘘じゃない」
「意味が分からんぞ靴下」
「なんというか、政治家になっている時点で少しは国民の事を考えているはずなんだ。嘘だったらもっと違う仕事についているよ」
「そうか?」
「ミケオ、君はちょっと懐疑的になりすぎなんじゃないかな?」
「もしかして」ミケオは何かを悟ったような顔をして言う。
「神様は…嘘ばかりつくと、真実が分からなくなる、というメッセージを俺たちに教えたかったんじゃないのか?そうだ、そうに決まってる!!よし、それが分かったから神様が現れて、俺たちを人間に戻してくれるぞ!!」
6
結局、神様は僕らの前には現れなかった。
「嘘を探すなんてやめようぜ」
「そう言えば、君がホームページで作った嘘って何だっけ?」ふと思い出した。
「ああ、俺の作った嘘?インターネットの嘘ニュース記事で、消費税廃止って書いたんだよ」
「え、それだけ?」
「うん。毎年いろいろな嘘を書いたけど忘れちゃった」
僕も自分が今までついてきた嘘を思い出していた。小学生の頃…赤いインクを腕につけて出血に見せたり…下らない事ばかりしていた…
「あぁ分かったよ」
分かったんだ。
「なに?分かったのか?」ミケオが目を光らせる。
「君も、僕も嘘じゃないか」
「え?」
「この物語が嘘じゃないか。僕たちは最初から猫になんてなってないじゃないか」
END
小説投稿日が4月2日になってしまいました。