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『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!』
相変わらず喧しい叫びを上げながら俺は狼に何回目かの突撃を仕掛ける。
その声が耳障りなのか、大魔狼はギュッとその眉根を寄せて俺を睨みつける。
その顔は冒険者か兵士なんかのこういった連中に慣れている奴らでもない限り、震えが来そうな恐ろしい顔だったが、今の俺も似たような状態な上、こういった顔自体はゴブリンどもだってするわけだし、問題は特段無い!
グルゥオオオオオオンと叫びをあげる狼。
それと同時にあの恐ろしい威力の空気の塊が次々と連射される。
当たれば即死。
だが、そう距離も遠くない!
頭を掠めて飛んでいく風弾。
首あたりからコキュッと変な音が鳴り、頭の角度が歪む。だが、関係なく視界は維持されている。
目で見ているわけではないのがよく分かるな。
そんなことをこんな状態になっても考えられるあたり、俺の精神はやっぱりアンデッドになった関係で……いや、考えるのは後だ。
俺は跳躍する。
狙うは一点、狼の顔だ。
思い切り魔力を込めた影響から、足首あたりが砕け散ったが、跳躍自体は高さも速度も文句ない程だ。
当たり前だが、向こうだってそれを簡単に許す事はない。
顔に飛びつこうとする俺に対して確実に何らかの行動を取るだろう。それが後ろ跳びなのか、前足による払い退けなのか、体を振り回すことなのかは構わない。
要はこちらを見ると言うことだ。
その瞬間なら、確実に光を目に焼き付けさせることができる………はずだ!
奴の顔へと『黄昏』を向ける。
奴は右前足による払い除けを選択したようだ。奴の右足が持ち上がるのが見える。
今だ!!『黄昏』!!!
ーーあいよ!最大光量で行くぜ!ーー
その瞬間、光が溢れ俺の視界を真っ白に染め上げる。
「ワゥゥゥゥゥ!?」
直接見たと思われる狼の悲鳴が響き、振り上げられた右足は地につき、頭を下げてブルブルと顔を振っている。
大成功ってところだな!
で、問題が一つ。
こいつ今頭を下げました。
私は下げてない時の頭に飛びつこうとしました。
さて、では俺はどこに飛んでいくでしょうか?
答えは見当違いの方向に飛んでいくんですよ!
ーーおいちょっと、待て何も考えて無いのかよ!?ーー
何も考えて無いぜ!
馬鹿野郎がぁぁという『黄昏』の叫びを聞きながら俺は魔力を体の垂直方向に爆発させ、無理やり軌道変化させる。
そのまま狼の背の上に叩きつけられる。
「ギャインッ!?」
痛いところに入ったのか、情けない悲鳴と共に一瞬の硬直が大魔狼に発生する。
ここが最後の踏ん張りどころか!
そう自分を鼓舞しながら、ぐわしと毛を握りしめる。
そしてぐわしぐわしと奴の頭目掛けて進んでいく。
当然背中に衝撃を感じた大魔狼は、何かが張り付いているのを察知して、体を揺さぶり俺を落とそうとする。
ええい、暴れるんじゃぁないよ!
残り魔力も下手に魔力をバカスカ使いすぎたせいで残りはそう多くないんだからな!
そのせいか妙な寒気までするし、さっさと終わらせてどっかで休憩したいんだよ!
そんな八つ当たりそのものの思考をしながら、狼の眉間あたりまで辿り着く。
後は仕上げだ!
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!』
大絶叫。
残りの魔力を贅沢に使って俺の美声()を耳にたっぷりと流し込んでやる。
『ーーーーーーーーーーーゥ』
あ、狼が固まった。
というか白目剥いてるな。
そう考えている間にゆっくりと狼は倒れ込み………
ドスン!
と鈍い音を立てて地面に体を落とした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
勝った………って言っていいのか?
狼の体から落下するように降りた俺は半ば放心状態で考える。
まぁ、まだ息はあるが。
………あるよな?
一応心配になって後ろを振り向くと、白目を剥き、泡を吐きながらも上下に動いているようだ。
………まぁ、よかった。
ここまでやっておいて心配するのもどうかとは思うが、この狼自身はそう悪いわけではない。ただ自分の縄張りに入ってきた獲物を狩ろうとしただけだ。それは生物として当たり前で、そしてこんな風に返り討ちにあったとしてもおかしくなくてーーーーー
あぁ、なんか疲労のせいか変なこと考えちまうな。耳やっちまったし、この先大丈夫なんだろうか、この狼。
どうしても心配の方が上に立とうとする自分自身を宥めながら、一呼吸つく。
………呼吸はしてないけど。
ーー………はぁ、何とかってとこだなーー
『黄昏』の声が頭に響く。
おう、何とか勝ったな。まったく、お前がいなかったら負けてたぞコレは………。
そう言う俺に『黄昏』から、
ーー………勝ったのはいいんだが、もうちょっと考えてから行動しろや。お前が死んだらオレを誰が持って行ってくれるんだ?ーー
サクッとお小言をいただいた。
でしょうね。
さぁ、さっさとこの場からおさらばしようか。いつまでも寝てくれるとは限らない。
あの女の子を別の場所に避難させないといけないし、ついでにローブをさっさと強奪しないと、あっちもあっちで起きたら厄介そうだし……。
そして立ち上がるために足に治療しようと、魔力を込めた次の瞬間。
ズガンッ!
………は?
俺は恐る恐る後ろを振り向く。
そこには、目を真っ赤に光らせた大魔狼が、怒りに燃えた瞳でこちらを凝視していた。
ーー………………これは、まずいなーー
ぽつりと『黄昏』の言葉が響く。俺はすぐさまこの場を離れようとし
ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!
森に轟音が響き渡った。




