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「ッ!」
狼は一瞬のうちに横っ飛びで俺の奇襲を無効化する。
振り下ろされた『黄昏』は標的を失い、地面に叩きつけられる。
ゴッ!
鈍い音を立て、地面に付いた『黄昏』を急いで体の前に構える。
………結局やっちまったかぁ。
目の前に立つ狼を見ながら、俺は心の中でため息をつく。
駄目だな、うん。自分の目的のためとはいえ、目の前で喰われそうになってる奴を見捨てるなんて無理だった。
ーー結局、こうするんだったらもっと早くに行きゃあいいものをなー。ーー
『黄昏』の呆れた声に、今度は何も言い返せない。
そりゃそうだ、俺もそう思ってる。
こんな事になるんなら、最初から乱入しても良かった!
後悔も反省も山積みだ。
アンデッドだからなんだってんだ、まだ人間としての意思がある限り、俺の心の通りに助けるべきだった。
余計な自分の利益だけをごちゃごちゃ考えて、いつまで生きるかも知らない命を長々と嫌な気分で生きたくもないんだよこっちは!
「グゥルルルル……」
大魔狼はどうやら食事の邪魔をされて大変ご立腹のようだ。まぁ、当たり前の話だよな!
まぁ、いい。この女の子が逃げられるようになるまでの間、俺がこいつを引きつければそれでいい話だ。そのあとは……まぁ、成るように成るさ。
そう思い、ちらりと少女を見る。
「…………………………」
あれ?
気絶してない?
少女はなぜか白目を剥いて気絶していた。
何で!?
そう混乱する俺を『黄昏』の警告が一瞬で引き戻す。
ーーおい、来るぞ!ーー
考えるのはあとだ、今はこいつを何とかしないと…………!
目を戻した時にはすでに狼の足は俺の目の前だった。
ボキボキボキボキッ!
凄まじい音を響かせながら、直撃を喰らった俺の体は吹っ飛ぶ。
こんな音を立てながらも痛みはほぼ無いんだから、アンデッドは中々おかしな体をしているんだなと考えながら木に止まって停止する。
ボグッ!
変な音が出たが、何の問題もない。
いや、歩行、握り、体の向きとかのあらゆるものに支障はあるが、わかる。
この程度なら問題ない、と。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』
叫びながら魔力を全身に回す。それだけで遠くに転がった骨が体に接合され、行動に支障が無いようになる。
内蔵魔力残り三割程度か!
回復に回した分だけ魔力が減ることを、回復と同時に理解する。それもそうか、そうじゃなきゃおかしいもんな!
『黄昏』が勝手に使った魔力が、俺の使える魔力の半分程だったからな……。まぁ、あの状況だ、気にしてもしょうがない!
接合完了すると同時に、脚に魔力を込め突撃する。
ーーおい、無策で突っ込むな!もうちょい考えてから行動しろや!ーー
『黄昏』の喚きももっともだ。
だけど、どうするんだよ!
さっきの少女然り、狼然り、こっちにとっちゃ格上だ。どうする事も基本はできない。
ーーだったら、自分の特性を理解しろ!
お前は骨だけな分、他の連中よか軽いんだから速さをもっと増すとかな!ーー
俺がついていけないんだよ!
叱責に言い返しながら、狼の足元まで肉薄する。
それに続くようにして俺の体に障壁のようなものが張られるのを感じた。
ーーだったら、せめて障壁ぐらいはつけてやる!勝ちはしなくて良いから負けるなよ!ーー
おう、分かった!
返事を返しながら俺は剣を振るう。
横なぎの一撃は軽く後ろ跳びで避けられた。
お返しとばかりに右足の叩きつけが迫る。
が、それと同時に無理やり魔力で増強した腕力で剣を跳ね上げ、叩きつけて軌道を反らせる。
ピシッと無理な動きに抗議するように腕の骨にヒビが入る。
その抗議を魔力で治療しつつ宥めながら、ようやくまともな形で相対する。
少女は未だに気絶しているのだろうか。
大魔狼に注意を向けざるを得ない状況故に、そちらを見ることはできない。
そうだ、さっきのトレントの戦いの時のアレを……!
なんか生命力っぽい何かを感知してたアレなら居場所が分かるかもしれない。
だが、反応しない。
と言うよりもそんなものなかったとでも言わんばかりに何も分からない。
ちっ、何でだよ!?
融通の効かない体に不満の一つでも言いたくなるが、後だ後!
「グルゥオオオオオオオオオオォォォォン!!!」
邪魔をする俺に苛立ちを隠せないのか、狼は大きく吠える。それと同時に、全身から隠せないほどの魔力が放出される。
その大きな魔力からか、狼の全身が陽炎のように揺らいで見える。
「ッ!」
今度は大魔狼から仕掛けてきた。
凄まじい勢いで体当たりを仕掛けてくる。
それを足元に魔力を爆発させることで強引に回避をしながら、四つん這いになって着地する。
どこかに隙は生まれるはずだ。
そう、どこかに…!
こいつは単体に過ぎない。四方八方から飛びかかってくるなんて手法は取れない。
速さと対応を間違えないように…!
だが、そんな風に考えている俺を嘲笑うかのように、回避に徹しようとする俺に対して奴は新しい攻撃を仕掛けてきた。
「グルゥ…」
奴が一声唸ると同時に、風が奴を取り巻くかのように渦を巻き始めた。
おいおい、まさか魔術まで使ってくるのかこいつ!
俺が慌てて立ち上がると同時に、空気の塊が俺のところに飛んでくる。
どうせ爆発するんだろ!
その本能の叫びを上げながら全力で横っ跳ぶ。
そして俺のさっきまでいた場所に空気の塊が着弾する。そして、
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
着弾した場所がめくれ上がり、その場所の近くに生えていた木を根こそぎひっくり返したのを見た。
…うわぁ…。
あれ、これ行くべきではなかったんだろうか。
そう思いたくなる程の威力だ。
うん、正攻法は不可能と改めて認識した。
あんなのに当たったら、残り魔力が少ない俺は、確実にもう一度あの暗い場所に叩き返されてしまう。
それ自体は怖くはないが、だからといって当たってやる気にはなれないな!
ならどうするかだ。
狼は先ほどの空気の塊を放った事により少し怒りが解けたのか、先ほどより少し冷静になったようだ。
…まぁ、こちらに対する殺意は微塵も消えていないのは目を見りゃよく分かるんだが。
『黄昏』!
ーーなんだ!ーー
『黄昏』の声が響く。
次で何とかしてみる!合図したら思いっきり光れ!
ーー光るんだな!?分かった!ーー
その返しに安堵する。これでできないとか言われたら、おしまいだったからな。
光量が強ければ、あいつもこっちを見失う筈だ。あとは鼻と耳を何とかしないとな…!
もう、全力で逃げる事にする。
奴の追跡能力を一時的にでも断ち、その間にとんずらこかせてもらおう!




