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からん…からん……


音が近づいてきた。

辺りの気配を探りながら、茂みをかき分けそっと音の方を覗いてみる。


からん…からん……


音は何も無い空中から聞こえてくるようだ。しばらく観察していると、次第に音の鳴っている場所(と思しき)がぼんやりと光り始めた。


ーー………これ、なんだ?ーー

《さぁ…?》


どうやら誰も分からないようだ。

そして眺めているうちにどんどんと光が強くなり始め、ついには一瞬辺りが昼間のように明るくなり、光が収まった。


その一瞬だけ、気のせいかもしれないがなにか……扉?のようなものを見たような気がした。だが……あんな扉は見た事が無い。


なんというか…引き戸に格子がついてて、格子の間に紙が張ってあるような。


まぁ、そんなことより問題は。


「ぅう…」


その扉から飛び出してきた何者かだ。

呻き声を出しながら地面に倒れ込んでいる何者か。


髪は黒で長め、少しぼさぼさ…だ。

ただ、やたらと艶々しているというか、状態が良い…気がする。

服はなんというか、いかにも庶民の服という素朴な服だ。麻…とかだろうか?

ただこれも変だ。

まるで今日昨日仕立ててもらったかのような、新品同然のような気配が漂ってくる。

しかも、肌が遠くから見てる限りでも綺麗なのだ。

そして、黒髪から覗くぴょこぴょこ元気な獣耳。


総合。

獣人、不審なほど小綺麗。


ーーーーーー厄介事の匂い…。


何も言わんでも、明らかにどこぞから逃げてきた、獣人の良いとこの坊ちゃん、もしくは嬢ちゃんだ。


ただ、怪我が無い所から察するに家出か何か、と言ったところか?

ただこんな森の中に逃げ出すとは、危険な真似をするもんだ。


とりあえず関わりたく無いのが本音だ。

こういうのに関わると、ろくなことにならない。

下手すると誘拐犯に仕立て上げられるんだからたちが悪い。


家出なんてして無いです、こいつのせいなんです、みたいな。


それはそれでどうなんだ。警備ガバガバって言ってるようなもんだろうに。


……読本の知識だけど。


とまぁ、それは良いんだよ。


そんなどうでも良い方向に向かった俺の思考は、その彼だか彼女だかがむくりと起き上がったことで中断された。


「……agmtjm…」


何事かを呟きながら辺りを見る。

顔立ちは…女…か?

なんとも言えない。


…というか、ちょっと前にも似たような事あったな。

しっかし、また女、かぁ…?

男の方がまだマシかも知らんがなぁ。



ーー……ーー

《ん………》



ため息が出せたら出していたぐらい、面倒な気分になる。

まぁ、いいか。どうでも。



「……agpjmtp!!jptndaqgーーー!!」


と見ていたらいきなり手を天に突き上げて叫ぶ少女(?)。

どことなく歓喜の声に聞こえるのは気のせいだろうか。


…家出の確率が上がったな。


と微妙に頭が痛くなってきたが、きっと気のせいだ。痛むものもないはずだしな。

と見ていると、


「agjm!agjm!agjmー!」


同じような言葉を叫びながら森の中に突入して行こうとする何某か。


……正直面倒だが、まぁ見捨てるわけにもいかないか。魔物と戦えるのなら別に見ている必要も無いし、そこまで確認できたら放置でいいだろ。


そう考えながら、俺は『黄昏』を持ち上げ後を追うことにした。





ーーーーーーーーーーーーー



「ギャギャイ゛!グガギャギ!」

「gptmxdjtmfaj!?apjm…dptna!!」


……付いて行って正解だったようだ。


現在の状況から整理しよう。

この少女と思しきどこぞの子は、森の中を無警戒に進んだ挙句、ゴブリンの狩猟隊と思われる奴らと遭遇した。

その結果、一触即発の空気が流れている。 


で、ゴブリン達は粗末な弓矢を引き狙いを定めているのに対し、少女はただ腰を抜かして尻餅をついている、という訳だ。



そういえば、ゴブリンにはちゃんと雌がいるというのはあまり知られていない話だ。

……曰く、アホ程強いらしいが。社会としては、女王を頂点とした社会らしい。

狩猟などは雄が、祭事やゴブリンの領地争いなどの指揮は雌が行うらしい。

日常と非日常を上手く分けている訳だな、多分。


これの逆がオークなのだが…それは良いか。


要するに今この場所にいるのは雄のゴブリンという訳だ。

異界だから、俺の世界の知識が通用するかどうかはさておき、とりあえず、この状況を何とかしていくしか無い。


と、グダグダ考えている間にも威嚇のつもりかゴブリンの内の一匹が弓矢を放つ。


ぴゅぃぃぃい!


鋭い音を立てながら少女の近くの木に矢が突き刺さる。


「………っ!」


こちらは少女(仮定)の後ろにいるから表情は分からない。だが、とても怖がっているのは気配で分かる。


当たり前だ。怖いに決まってる。



…よし、行くか!










ーーーーーーと、言ってもだ。



『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!』


芸も無く、馬鹿の一つ覚えのように、叫びながら乱入するしか無い訳だが。


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