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《ユジェティの種……いせかい…楽しそう……いいなぁ……いいなぁ…》
適当にごまかそうと思ったけど、残念ながら無理だった。妖精(不明)は楽しそうにチカチカと心臓の位置で点滅している。
ーーもう人間社会に帰れるかどうかすら怪しいなぁおい?ーー
『黄昏』もどこか呆れているような声だ。
たしかに、このまま点滅するコイツを体に持ってると、ローブから光が透けて見えるかもしれんな…。
だが、あのまま放っておくのもかわいそうだし、仕方ないだろ?
そう言うと『黄昏』はため息をついて、
ーーいつか絶対に後悔するぞ、その精神性。特に、妖精相手にはなーー
その言葉に即座に妖精(?)が噛みつく。
《妖精、悪く…言わないで……》
ーーダマラッシャー!テメェらのそのカチカチ頭のせいであの時、どんだけ苦労したと思ってやがんだ!ーー
《カチカチ…違う…!》
ーーカチカチ以外のなんだってんだ!それだとアレがー、だの、それだとこっちがー、だの、延々と意味の無い邪魔ばっかしくさって!ーー
《むぅ……!》
ーーおぉ?テメェ如きの三流以下の雑魚妖精がオレに敵うとでもーー
やめんか!頭の中がウルセェ!
一喝してやると双方が不満の意思を垂れ流しながら、黙り込む。
ふぅ、これでよし。
いやあんまり良く無いが、今は良しとしよう。
静かになった頭の中で、一昨日見た世界地図を思い出す。この街を西方に進んだ先、この国の首都アルゼイムに行くためには結構な距離を歩く必要がある。
地図と感覚を照らし合わせた結果、リーン達はその場所だと思う。多分。
まぁ、いなくても指標にはなる。
道中は森、山、街道と面倒な場所があり、昼夜関係なく歩き続けても、1ヶ月はかかるだろう。
特に街道だよ!人間から隠れないと、血みどろ謎の発光スケルトンなんて討伐対象まっしぐらだよ!
とりあえず、山はくまなく歩いて山賊狩りするべきだ。ある意味幸いなことにこちらはアンデッド。やりようはいくらでもある。
《アンデッド…デッデッドー……》
えーと、その前に森…また森か。太陽の向きで測ってるんだから見えなくなるのは勘弁して欲しいんだが。
《デーデン…デーデッ…》
ウルセェ!
種族名をもじって歌っている精霊に一喝した後、指針をまとめる。
今度こそ、服を手に入れる。
人間及び高度な社会形態を持ってる種族に見つからない。
あと……困ってる人は助けよう。こっそりと。
いないなら良いが、見捨てるのもアレだ。
ーーお人よしかーー
《デッデッー…デーデッ…》
喧しい!
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とまぁ、先程の暗い気持ちを根こそぎ薙ぎ倒す妖精が仲間に加わって、頭の中が賑やかになったわけだが。
頭の中が賑やかって、ただの頭おかしい奴じゃ考えるのはよそう。
今現在、俺は森の中を進んでいる。振り返ってみれば、松明がわりの街は遠くになり朝日が差している。
ここまで遠くに来ると、さすがに虫の声や鳥のさえずりが聞こえるようになる。
茂みを払いながら前へ、前へ。肌に傷を作ることや毒の心配をする必要がない点は、アンデッドとしての長所の一つだろうな。
《デッチー……暇…》
ーーだそうだぞ、デッチー。ーー
いつのまにか意気投合している二人が、何やら言っている。と言われても、特段話すネタも無し、どうしようも……。
そう言ってやると、妖精は、
《デッチーの…話…聞きたい…》
などと言った。
俺の話……ねぇ。話すような事は何も無いんだが。
《いせかい……知らない…知りたい…》
どうしたもんかね。まぁ、暇つぶしに少しだけ話すかぁ。
じゃあ、少しだけな。
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俺は孤児だ。うん、親のいない子供だな。
んで、森に捨てられてたって親代わりの狩人のじじいは言ってた。
ちょっとしたことでよく殴られてたよ。
ちょいといたずらしただけで、頭にタンコブを作られたりしてたなぁ。他には食事の礼儀…と言っても心構えみたいなのを叩き込まれたな。
自分で飯も取れんくせして、感謝もせんとはなんじゃ!ってんでやっぱり殴られてたな。
…まぁその爺さん、俺がなんとか一人で食ってける頃に、病にかかって死んじまったけどな。
嫌いじゃなかったから、泣いてたのは覚えてるよ。
んで、そこから俺は冒険者組合を頼って生活してたってわけだが……残念ながら、ヘボな俺はいつまで経っても階級は上がらないし、生活は苦しくて、あぁなんで生きてんだろってよく思ってたな。
でも俺にゃこれぐらいしか出来なくて、ほかの冒険者の人達なんかにコツとか教えてもらったりしてさ。何とか生活に余裕ができ始めた。その時の達成感とか安堵感とか凄かったなぁ…。
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《いせかい……どこ…?》
ーー異世界関係無いな。ただの苦労話じゃないかーー
知らんな。俺の話を聞きたいと言ったのはそっちだろうに。
そもそも語れるようなものがない。世界を巡ってたわけでは無いし、魔物がやたらと多すぎてろくに遠出も出来ないし、弱いから冒険者が護衛を雇うとかいうアホみたいな事が起きるから、一部の例外を除き諦めてたよ。
そう愚痴ると、妖精()はどこか落胆したような思念を垂れ流した。
というかそろそろコイツの名前を教えてもらいたい。
そう伝えると、どこか困惑したような声で
《名前……無い…よ?》
と言った。
名前無いのか……そうか。
なら、名前つけて良いか?そろそろ名前が無いと、めんどくさい。
そう言うと妖精はチカチカと嬉しそうに輝いた。
《名前…!ちょうだい…!》
ほう、ここまで望まれるとやりがいもあると言うものだな。
ーー妖精に名前……ねぇーー
何か言いたいのならはっきり言って欲しい。
そう伝えると、思念の中で口笛を吹くという無駄に器用な事をする『黄昏』。
とりあえず、危ない事では無さそうだが……まぁ良い。何か起きてから考えようか。
うーむ………トゥティなんてのはどうだ?
《トゥティ……?》
不思議そうな声だ。どんな意味か分からず困惑してるのかもな。
ちなみに意味は漂う光、だ。
本当はもっと長いが、略して名前にした。
邪魔な茂みを切り払いつつ、トゥティの様子を伺う。
胸の中でふよふよしながら思案していたようだが、ぴかりと輝くと、
《トゥティ!》
と嬉しそうに声を上げた。
まぁ、嬉しいなら良かったよ。
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そんなこんなで時間もさらに過ぎ、森深くに入ったぐらいだろう。
からん……からん……
どこかから何かの音が聞こえてきた。
何の音だ?
この近くに何か鳴らすような場所があるのか?
ーー……魔力反応があるな。だが……これは……ーー
《からんからーん》
ふうむ、残念ながら分からないようだ。
なら見に行こう。そうしよう。
ーーまぁ、危なそうに無いし大丈夫かねぇーー
《からんからーん》




