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『ウ゛ウ゛…』
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか。お疲れ様でした」
そう言って立ち去るリーンの後ろ姿を見送りながら、机に突っ伏す。
昨日より、覚えることが多くて疲れた……
もう夕暮れか。早いな。
体をゆっくりと起こし、伸びをする。まぁ、筋肉が無いから意味は無いが。気持ち良くもない。
ーー本日二回目の、おつかれ、だーー
『黄昏』が労ってくれるのに礼を言いながら立ち上がる。
今日は随分と進んだ。もう文章も書けるようになった。これで意思疎通は『黄昏』を持ってる限り、筆談でいけるな。
ーーおう、あとは聞き取りと会話だなーー
あぁ。そうなればもしもお前がいなくなる事態があったとしても、何とかなるだろう。
俺がそう言うと、微妙に拗ねたような空気を出す『黄昏』。
ーーなんか、ちっと寂しいな。もっと働きたいんだけどなーー
心配しなくても、必ず仕事はあるさ。このさきにきっとな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜になった。真っ暗な部屋がもっと暗くなる。深い深い闇の中。
魔力を右手に通すと、ぼんやりと手が光り始める。そこにさらに左手に魔力を込める。こちらもぼんやりと光り始めたのを確認した後、軽く右手と左手を打ち合わせる。
パァン!
破裂音が鳴り響き、衝撃が部屋全体に広がる。
本棚の本がバラバラと落ちてくるのを確認したのち、また自分自身に対する実験を考える。
魔力と魔力をぶつけた際の現象に変わりは無い。体が変わっただけで出力方法は変わってないか。
異世界なはずなのに、魔術の展開自体はあちらと対して変わらないというのは、やはり違和感はある。
だが、まぁ世界同士は見えないだけで繋がり合っているものだというのは知っている。変わらないこと自体は何もおかしくないのかもしれない。根底は変わらないということだろうか。
まぁいいか。世界渡りは俺じゃできないからな。少なくとも今は。
よし、次は精霊と交信してみるか。
俺の魔術は精霊魔術。本来なら精霊と交信して行う魔術らしい。というか、俺の元の世界では魔術と呼ばれるものはほぼ全て精霊魔術だ。かつてはそうでは無かったらしいが、今では精霊魔術ばかりとなっている。
まぁ、仕方ない事ではあるけども。
とまぁそんなことは良いんだが、さてちゃんと交信出来るか?環境が違うからな、今までは普通に行使していたからいなくなってはいないようだけど…。
指を軽く振ると、リィーーーー…………ンと涼やかな音色が辺りに響き、俺の体から土色のもやが広がる。
どうしたの?
どしたー?
どっかしたー?
どうかしましたか?
どうかしたか?
広がったもやから何処からともなく声が響く。
俺は居住まいを正す。精霊は特にそういうのは気にしないが、気持ちの問題だ。
いや異世界に飛ばされたから、調子は大丈夫か確認したくて。
まぁこういうのは、分かったその日にやるべき事なんだが、あまりにも普通に使えすぎたせいで忘れてた。
忘れてたでしょー
本来ならすぐにやるべきだよー?
そうだそうだー
いつでもいるとは言えど確認は大事だ
……すまない。あんまりにも自然に魔術が使えたから確認を怠ってしまった。本当に、申し訳ない。
頭を下げる。完全に、俺の失態だからな。
いいよーべつにー
気にしないでー
場所に関わらずっていうのが私たちの
長所だもんね
私は許そう。だが
へびー、異界ネタ禁止ー
わいわい言いながら、許してくれる精霊に再度頭を下げる。
そんな俺を優しく包みこむもや。
君が無事で何よりー
異界だもんね
でも、死んじゃったか
姿は所詮影にすぎぬ
辛い?
あったかい。
精霊に包まれながら、そう思う。この精霊たちは俺と一緒に生きてきた精霊達だ。俺の全てを知る存在でもある。だから、俺がどうなってるのか一番よく知っている。
がんばってね
まけないでね
いっそわすれてもいいんだよ
おいそれは
へびー、無粋ー
優しい言葉達。だが、受け取る訳にはいかない。
いえ、忘れません。決して。そのためにきっと俺はこうして存在しているんですから。
手を握りしめる。あぁ、そうだ。必ずや…!
私たちが出てきたから…
どうなってもついて行くよ
私たちはあなたの味方
また落ち着いたら私たちを呼ぶと良い
今のあなたなら教えられる事たくさんあるからー
そう言いながら、もやは俺の体に戻って行く。そして完全に見えなくなった。
…ふぅ。落ち着こう。




