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とりあえず、手でコンコンと叩いてみる。
「あ、あの…?」
扉の向こうから困惑した声が聞こえる。だが、姿を見せるわけにはいかない。くっ、こんなことなら出てくるんじゃ無かった!
退屈なのは無くなったけど、人間だった頃なら冷や汗が出てる。
俺一人だけならともかく、シャーペとか、リーンとかに迷惑が及ぶしな…
ーー今更そこに言及するのか…ーー
呆れた声を出しているが、お前も外に出たがってただろ!
ーーしらねーなぁ?ーー
こいつ…!
と、言い合っていると向こうの女生徒は少し怒ったような声で、
「あの!いたずらならやめてください!私、この部屋に用事があるんです!」
ガチャガチャ!
そう言いながら、女生徒は扉を開けようとする。
それを押さえつけながら考える。
よし、緊急事態を装うか。
コンコンコンコンコンコンッ!!!
何回も連続で扉を叩く。それと同時に、こちらからも扉を開けるようにガチャガチャと握り玉を回す!
「え、何!?」
困惑した声で扉を開けようとする事を止める女生徒。
よし、上手くいけ!
「あ、あのどうしましたか?何かあったんですか?」
心配そうな声で呼びかけてくる女生徒。
ふむ、言葉遣いが丁寧だから、優しい類の奴と当たりをつけてはみたが、どうやら当たっているようだ。
なら、何とかなるかもしれん。
コンと一回だけ叩く。
「え、えっと…それは、はいって意味でいいんでしょうか?」
コン。
「……何で声を出さないんですか?」
………
「声を出せないとか?」
コン。
「……先生呼んできましょうか?」
…コン。
「わ、分かりました…」
そう言って女生徒は立ち去ったようで、彼女の気配が遠のいていくのを感じる。
ふぅ、何とかなったか。
ーー……よし、どっか行ったぞ。おつかれーー
……『黄昏』。
ーーなんだ?ーー
もう、外出るの諦めよう。
ーー……まぁ、仕方ないかぁーー
とりあえず、さっきの部屋に戻るとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇だ。
ーー暇だなーー
部屋に戻って少しすると、さっきいた部屋の方から騒ぎが起きているのが聞こえてきた。女生徒の困惑した声と男性の…教師とかいうのかな、それの声が聞こえていた。が、少し経つと居なくなったようだ。
まぁ、いたずらと思われたのだろう。女生徒には悪いが、姿を見られるわけにもいかない。勝手に出歩いてるなんて見られたら事だ。
暇を持て余すと人というのは余計な事をしやすくなるとは言うが、まったくその通りだな。反省しなくては。
とりあえず面倒な事態は避けたが、結局何もできないという点については何も解決していない。どうにかしなければ、気が狂いそうになる。
んーーーーーーー。
足をぶらぶらさせながら机に大の字で寝っ転がり、天井を見上げるしかできない。あー、退屈だー。これがなー、依頼とかならなー、暇じゃないんだけどなー。
そう思いながら、折角だし本でも読もうかと体を起こした瞬間。
ギチリ。
魂の奥で、嫌な音が聞こえた。
はぁ……暇とか言ってられなくなった。
とりあえず、行くか。
体の全感覚を放棄して、己の内側に意識を回す。
死後初めての作業の時間だ。気合を入れるか。
ーーーーーーーーーーーーーーー
一方その頃、リーンは。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…であるからして、この魔術式は『炎』の意味を拡大解釈を行い、燃やすという効果に特化させていることが分かる。このように拡大解釈を行えば、現象の一部分のみ強くする事も可能であり、拡大解釈は魔術を使う上で必須の概念となっていることが分かる。教科書三十二頁を読めば分かるがーーーーーーー」
ふぁ〜〜あ。眠い。
教師が講義をしているのをうとうとしながら聞く。もうこの学校で得られる知識は大体得たのに、いつまでこんな初歩的な授業ばかりしなくちゃならないんだろうか。
そう思いながら、一応目を開けて授業に集中しているフリをする。こういう小細工はバレているとは思う。だって最初の頃は教師全員が注意してきたからだ。だけどそれを改めてようとしない私に呆れたのか、もうなにかを言うつもりもないようだ。
まぁ、学年一位を何回も取っていれば黙らざるを得ないというのもあるのだろうけど。
「では、リーンさん教科書の術式解釈について説明してください」
と、教師が私に当ててきた。
しょうがない。
「術式解釈とは魔術の根底に属するものであり、今までの魔術をより深く理解するために必要な事です。また術式解釈には何通りかのやり方があり、実際に術式を展開して行う展開法、術式を魔術陣に書き出しその一つ一つの意味のまとまりから魔術を紐解く方陣法、他者に魔術を展開してもらい、その魔術を解析する提術法などが存在しています。中でも提術法は難易度が高く、特殊な魔術を解析するために使われていますが、実際に解析するのは至難の業とされーーーー」
「はい、そこまで。リーンさんありがとうございます。ーーーーあと、教科書ぐらいは開いてくださいね」
そういって教師に、話の途中でぶった切られる。少し話しすぎたか。
「えぇ、リーンさんの言うとおり術式解釈は魔術を理解するために必要なものです。ですが実習は来年となります。その時にまた詳しい説明をしましょう」
りーんごーん。
「ーーーでは、授業を終わります」
そう言って教師が教室から出て行くのを見送った後、窓から外をみる。街と壁のさらに向こうに森が見える。
あぁ、まったく。外はあんなに広いのに、いつになったら私はより遠くに行けるのだろうか。
はぁ、とため息をこぼす。
そういえば、あのスケルトンはどうなっただろうか。
ふと思う。昨日字を教えたばかりではあるけれど妙に気になる。これがテイマーの性とでもいうのだろうか。自分のテイムした魔獣が気にかかるとか。
…分からない。今までテイムする事なんて考えた事も無かった。完全に私の知識の範疇外だ。
どうしようかな。会いに行こうか?
うーん……。
メモ帳を開いて今日の予定を確認する。今日の授業はこれでおしまい。魔術以外の授業は取っていないから時間割には余裕がある。いつもなら図書館で勉強するけど、まぁどうせ必要な知識は大体覚えたし今日はいいかな。
よし、会いに行こう。




