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縦、横、斜め、払い、下がってから前に踏み込み振り下ろす。
『黄昏』を手に、教えられた素振りをこなす。いつの間にか空は白み始めていた。
ーー…よし、今日は此処までにしておこう。早く戻らないと面倒な事になるぞ?ーー
了解了解。
俺は『黄昏』を最後にもう一度振ると、鞘に戻そうとしてーーーーーー何も無い事を思い出す。
……ちゃんとした鞘が無いと、微妙に不便かもしれない。
俺は『黄昏』の中ほど辺りを掴むと、中庭に出た窓に向かって跳躍する。
そして窓枠を掴み、自分の体を引き上げて建物内部に入り、窓を閉じる。
よし、これでバレない。
さっさと部屋に戻るとしよう。
ーーーーーーーーーーーー
コンコン
不意に部屋の扉が叩かれ、俺は読んでいた本から目を上げる。
失礼するよ、と言いながら入ってきたのは、眼鏡の男、シャーペだった。
「ああ、おはようスケルトン。調子はどうだい?」
悪くは無いということを伝えるために、首を縦に振る。
「そうかい、それは何よりだ。じゃあ早速で悪いけれど、何点か君に尋ねたいことがあるんだ。……こっちに座っても良いかい?」
そういうと、俺の座っている場所の反対側の椅子を指し示す。
どうぞ。
手で促すと、ありがとうと言って椅子に座る。
…こいつ、なんか腰が低いな。魔物なんだからもうちょい偉そうにしても、おかしくは無いような気もするんだが。
まぁ、悪い気はしない。いいぞ、もっとやれ。
「それで、君に実験に付き合ってもらう話を昨日したと思うんだけど……その前に、色々と聞きたいことがあるんだ」
なんだ?
「君、あの娘…リーンより魔力量多いよね?なのに何故、彼女の、あの契約方法で応じたんだい?」
…………え?
ビキィと固まった俺の様子を見て、シャーペは明らかに困惑したような表情でこう言った。
「……あの、もしかしてだけど、まさか気付いていなかったなんて、そんな事は無い…よね?」
全く気づきませんでしたねェ!
口がきけてたら、間違いなく口走っていた事を考えながら、肩をすくめる。
「……あぁ。喋れないんだったね、君は…。じゃあ文字は書けるかい?本を読んでいるようだし、筆談ぐらいは出来そうじゃないか」
そう言いながらシャーペはスッとこちらに、昨日リーンが使っていたものと同じような…羽筆を差し出した。
しかし、これ金属の筒と三角錐で出来てるのに羽筆って言うのはおかしい気もする…。
羽成分一欠片も無いしな。
まぁ、いいか。名称が分かるまでは羽筆だ。
そう思いつつ羽筆を受け取ろうとして
つるりと机の上に落とす。
あれ?
もう一回取ろうとつまみ上げようとするが、これまたつるりと落としてしまう。
む、難しいな。感覚が鈍くなってるとは言え、羽筆一本満足に使えないなんて…。
四苦八苦しながらも、どうにかこうにか羽筆を掴み取る。
「……結構苦戦していたようだけど、大丈夫かい?」
シャーペは俺が羽筆を掴むのを見てから、声をかけてきた。
大丈夫だという言葉の代わりに首を縦に振る。
「そうかい?なら良いんだけれど。じゃあ早速質問しても良いかい?」
その前に、だ。
俺は手をぷるぷるさせながら、いつの間にか俺の前に差し出されていた紙にこう書いた。
「ちょっと、練習させてください」
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さて、それでは練習も済んだ事なので。
質問へと回答しようか。
「で、なぜ契約に応じたのか教えてくれるかい?」
シャーペが先程した質問を再度聞いてきた。
だが、それに対する回答は練習しながら考えてある。
「契約方法はちょっとアレだが、強大な敵と戦い、最後まで戦意を喪失する事なく戦う姿勢に胸を打たれたからだ」
まぁ、嘘だが。
実際には、そんな事は一欠片だって考えちゃあいない。
不意打ち契約に対する怒りはもう無いが、だからといって、あんなやり方でされて、応じた理由もクソもあるはずも無い。
だが、理由は必要だ。アンデッドである以上、特に。
家に見知らぬ怪しい人物が上がり込んできたも同然だからな。
人は怖い物に対して敏感だ。余計な排斥を避けるためにも、建前は重要なのである。
アンデッドの時点で排斥は避けられないんだけどな!
とりあえず、こんな事にした奴は一度横っ面を殴り飛ばさないと気が済まない。
「ふむふむ、アンデッドにも感動するという感情があるのか…。それとも君だけの特徴なのかな?」
知らね。骨や腐肉のお友達は作った記憶が無い。
そう書いてやると、うなずきながら手帳に何やら書き込んでいる。
…研究熱心な事だ。
「…そうかい。じゃあ君はいつ生まれたんだい?」
続く質問には簡潔に、2日ほど前と答えた。
「2日、2日だって…?随分と最近に生まれたんだね…」
ここでシャーペが微妙な反応を見せる。
……なんかまずいことでも言っただろうか?
「…いや、何でもないよ。質問を続けよう」
この後いくつかの質問に答えたが、結局この時の微妙な反応については、よく分からなかった。




