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…うへぇ、話したくねぇ…。
ニッコニコの笑顔の眼鏡の男。
多分、話さないといけないんだろうが、できれば話したくない。
いや、初対面なのにも関わらず俺に対して普通に接してるから、どちらかといえば心証は良いんだが…。
まぁ、現状わがまま言える立場でなし、やるんだけどな。
俺は眼鏡の男に頷く。
男はこっちにきて、と言い、俺をリーンが座っていたと思われる椅子に座らせ、自分は四脚の卓の向こうの椅子に座った。
そういや、部屋の中をよく見ていないな。
部屋は狭く、部屋の中心に四脚卓と、今俺が座っている椅子、眼鏡の男の座っている椅子、それと誰も座っていない椅子が、俺と眼鏡の男の横に一つずつあり、誰も座っていない椅子は卓に引かれてある。
四脚卓と壁との間隔は、人一人分あまりぐらい空いていて、通るのには相当太っていない限り、難儀する事は無いだろう。
窓は一つ、四角いのがあるぐらいだろうか。
そこまで見てから、俺は男に向き直った。
「じゃあ、まずは自己紹介をしよう。私の名前はシャーペ。シャーペ・ソンディだ。よろしく」
と、男は手を差し出してきた。
…おい、『黄昏』。今度は何も無いだろうな?
そう問いかける俺。
ーー………特に問題はない、はずだ。こいつがオレの感知を超えて隠匿していなければの話だがなーー
…若干不安が残る回答だ。だが、俺では見抜けないし、ここは『黄昏』を信じるべきだろう。
俺は手を取り握手する。
…特に何も問題ないようで、よかった。
…リーンの不意打ちのせいだな…握手を素直に出来なくなったんだが…。
まぁ、いいか。握手する前に警戒してれば良いんだから。
握手は気をつける。二度同じ轍は踏まない。
そう決意する俺に、男は質問してきた。
「早速だけど、君どうやって声を出してるんだい?」
え、そっち?
従魔の認定とかする為の話じゃねえの?
どうやらそのはずだったようで、
「シャーペ先生、まずは従魔としての登録についての話をお願いします」
「あぁ、ごめんごめん!いやぁ従魔のスケルトンなんて初めて見たものだから、ついつい興味の方を優先しちゃってさ!でも、正直言ってもう判別はしてるんだよね」
というリーンの言葉に、シャーペは軽い口調で謝りながらも判別は終わっていると言い出した。
…俺は従魔士じゃないから知らないんだが、こんなに軽い感じで終わってしまっても良いんだろうか。
多分ダメな気がするんだが…。
ーー……あの眼鏡か。あれ魔道具だぞ。多分あれで判別してんだろうなーー
ん?そういう魔道具があるのか?
ーーいや知らんが、何か魔力の流れを見ている気がするーー
魔力の流れ、ね。
従魔士と従魔は繋がっていると聞いたが、魔力線の事なのだろうか。
などと考えていると、シャーペはスッと一枚の紙を差し出してきた。
「これは?」
「これは従魔証明書だよ。リーンさんと、君の魔力を込めて、そして名前の記入をお願いします」
ふーん、そういうのもあるんだな。まぁ、当たり前か。…しかし、本当にサクサク進みすぎる気が。
シャーぺを見る。ニコニコとしていて、掴みどころがない。何があるのか、何も無いのかも。
……………うーん。
「本当に、こんなに簡単に認めて良いんですか?他にも色々と…」
「大丈夫、もう判別済って言ったでしょ?死霊術の気配は無いし、魔力線は繋がってるし、暴れる様子もない。何も問題は無いよ」
リーンの問いにも、何かはぐらかしているような気がする回答を返す。
…うへぇ、信用しづらいんだが。
簡単に認めてくれるというのは、こっちとしては嬉しい限りだ。
だが、後々面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなんだよな。
リーンも同じようなことを思ったのか、眉根が寄っている。
ふむ、ここはどうするべきか。
ーーってもよ、現状できる事なんてあるのか?ーー
まぁ、『黄昏』の言うことも間違いじゃないが、他にも方法はある。
この場での回答は控えて、認定する場所…なんて言ったか、そう、従魔士組合だったか。
そこで改めて申請という手も無いではない。
速さこそ落ちるだろうが、その結果の面倒が避けられる可能性も十分にある。
だが、この考えをどうリーンに伝える?
話せない、文字も書けない俺にどうやって伝えることが……。
リーンを見る。こちらの意思が伝わるとは思えないが、何か言いたそうにしていれば、何か伝わることもあるかも知れない。
リーンもこちらを見る。
眉根が寄っていても美少女は美少女ということが分かる。
以上。
いや、冗談だが。
そうやって見つめあっていると。
「……あの、なにか君達、すごく私の事を警戒していないかい?さっきからどう断ってやろうか、みたいな雰囲気が出てるんだけど」
大正解だ。
リーンは知らないが、俺はそう考えている。
「……失礼を承知で言いますが、正直言って信用が出来ません。アンデッドという前例の無い従魔に対して、あまりにも話が早すぎます。裏が無いかどうかを心配するのは当たり前だと思いますが…」
リーンが口を開く。ふむ、向こうも信用できないという結論に至っていたという訳か。
「…たしかにね。そうだね、君たちが信用できないのも無理はないか。私はどうもこの手の類の話には慣れてなくてね、君たちに不信感を抱かせた事を謝罪するよ」
口元に笑みを浮かべたまま、シャーぺは謝罪する。本当にそう思っているかはともかく、そう言うのなら、事情の説明をして欲しい。
「じゃあ、何故こんなにも簡単に従魔として認めるかだけれどーーー」




