5.現状整理
…目が覚めた。
ここは……?
見知らぬ天井だ。
…というより、久しぶりの人工的な天井だな。
俺は体を起こす。
どうやら、俺は台に寝かされていたようだ。
手枷はすでに無い。
周りを見回してみる。
…暗いな。
アンデッドの視界であれば問題は無いが、普通の人間なら足をとられて転ぶ暗さだ。
…ここがリーンの言っていた学園の中なのかどうなのかはわからないか。
『黄昏』は…まだ戻ってきていないか。
台から降りる。
歩行に問題はなし。
手もあるのは確認済みだ。
頭は……あるな。
よし、五体満足のようだ。
改めて周りを見る。
部屋中に本が積まれている。
本棚もあるが、その中にもぎっしりと詰まっている。というか、台以外全部の家具が本棚じゃないか。
近くに置かれていた本を手に取る。
…読めないな。当たり前か。
パラパラとめくり、それを確認してから本を閉じ、同じ場所へと戻す。
…地図とか無いだろうか。
まぁ全方位本棚だし、あってもおかしくは無いだろうが…。
…この部屋の本を調べるだけでも、運が悪ければ半日はかかるだろう。
扉は…右か。
扉に近づき、そうっと開ける。
……また、暗いな。
開けた先は通路だった。
俺の前には窓があり、外はすっかり夜になっているのがわかる。
月が、綺麗だ。
まんまるい、薄青い月。
………月って、あんな色だっただろうか。
…それはともかく、窓に近づき外を見てみる。
どうやら俺が今いるこの場所は、高台に位置するようで、見ることの出来なかった街を見下ろすことができる。
街にはもう光もなく、今が夜遅い時間ということが分かる。
…どれくらい、気絶していたのだろうか。
…分からないな。分からないことが多すぎる。
…あまり勝手に出歩けば、危ないかもしれないな。だが、状況ぐらいは把握しておきたい。
考えよう。
まず、手枷が外されて台に置かれていた。
という事は、俺の動きを拘束する必要が無い場所、という事になるか。
今一番の候補としてあげられるのは、やはりリーンの言っていた学園…。
次、何故気絶したのか。
『黄昏』が渡される前に警告を発したという事は、『黄昏』は渡される直前まで分からなかったという事、そしてそうなることを知っていたという事が分かる。
アイツのことだ、一応貴重な使い手である俺が今消えるのは、勘弁して欲しい所だろう。道具は使われてこそ、だそうだからな。
となると、まぁあの手枷に何か細工がされていたんだろうな。
まぁ、現状じゃこれが限界だな。
思考を止める。
とりあえず、学園って事にしておこう。となれば、明日にはリーンも来るはず…だ。
多分な。
一応、部屋に戻るか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
台に寝転がる。
部屋に戻ったは良いものの、どうしたものか。
まったく眠くない。
…アンデッドに睡眠は、存在しないのかもな。
…仕方ない、色々と実験してみたい事があったんだ。
ここでやれる分はやっておこうか。
とりあえず、まず右腕に魔力を込めてみる。
ぼんやりと輝く右腕。この右腕で、ゴブリンをスパっと首刎ねしてしまった訳だ。
俺は左腕を枕にしながら、右腕を顔の前に持ってくる。
正直な話、そこらの鉄剣より威力はあるだろう。
素人の手刀一つで首を綺麗に刎られるんだ。
恐ろしい威力が篭っているのは、想像に難くない。
トレントの幹を打ち抜いた時もそうだ。
あの幹自体は、おそらく魔力強化で硬化していたと考えられる。
敵と戦うにしろ、捕食するにしろ、攻撃される可能性があったならそれぐらいはする。
それを打ち抜いたんだ。腕というより、俺の保有する魔力量が生前とは比べ物にならないと考えるべきだろう。
…と考えて、喰ったときの味を思い出す。
うむ、また食べたいな。
まぁ、これがアンデッドたる己という事なんだろうが。
……というか、そんな俺の魔力ですら半分持っていった『黄昏』って…。
魔剣の銘は伊達じゃないというところか。
…あぁ、なんか無駄に色々あったなぁ…。
転生して、スケルトンになって、森に入ったら追いかけられて、迷った挙句に魔剣を引っこ抜いて、で、リーンを助けるために割って入ったら潰されて、見逃されて、運んで治療して、意思疎通を頑張って、従魔にされて………。
多すぎるわ!
密度が濃すぎる一日だった。
……いや、後一つあったか。
死んだ俺の、おそらく魂を引っ張った奴。
そいつが俺をスケルトンにしたのだろう。
…一体誰だ?神だろうか。
…いや、あの時もう一つ光があった。
みていると意識が消滅しそうになるあの光。
不思議と、消えていくのに恐怖はなかったあの光…。
アレが神のような気がする。
少なくとも、あのまま消えていたらスケルトンにはなっていないと確信できる。
となると、アレは神ではないという事になるんだが…。
神の領域にちょっかいかけられる奴が、なんで俺なんかにこんな事をしたのだろうか。
…………………分からない。
まったく、振り回されてばかりだな。
だが、今のところはそれも悪くはない。
なんだかんだで、俺は楽しいからな。




