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さて、探索していこう。
俺は辺りを慎重にうかがいながら、先程きた方角へと足を向ける。
さっきの大魔狼なら警戒していても不意打ちしてくるのかもしれないが……、それでもやるしかない。
俺はゴブリン製棍棒を強く握りしめた。
最悪こいつで応戦しなきゃならない。
ピシッ
……強く握りしめすぎたのか、微妙に棍棒にヒビが入ったような音がする。
ちらっと見てみると、本当にヒビが入っていてため息を漏らしたくなった。
……本当に大丈夫か?
……無理なような気がするが、気のせいだろう。
気のせいであってくれ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
………………。
マヨッタ。
だめだ、川が全然見つからない。
というか、周り一帯が緑緑し過ぎなんだよ!
やべえ、来た道が分からん。
深い森がこんなにも迷いやすかったとは……!
こりゃ確かに子供の頃は森の奥まで入るのを止められるわけだ。
……というかあいつ(大魔狼)こないな。
来ないに越したことはないが……。
というか、魔物の気配もしない。
森の中だぞ?
何の気配もしないってのは明らかにおかし
バシュッ
え?
射出音とともに、俺の脚に蔦が絡みついてきた。
そのまま強い力で後ろに引きずられそうになる。
っ!?
俺は慌てて手近にあった木を掴む。だが、次々に蔦が絡みつき、引き摺られる。
くそ、トレントか!?
俺は蔦に抵抗しながら棍棒を足元に落とすと、魔力強化した手刀を蔦どもに叩きつける。
ズバッ!
ザシュッ!
蔦を切り落とすと、俺は蔦が飛んできている方向に体を向ける。
その先には人の顔をしたトレントがいた。
奴はどうやら蔦をぶった切られたのがお気に召さないようで、木のくせにその顔を憤怒に染めていた。
……初めて会ったなこいつ。
話には聞いていたが、本当に人間の顔をしているなんて、驚きだ。
確かトレントの弱点はーーーーーー
その心の声が伝わったかどうかは定かではないが、奴はいきなり大量の蔦を勢いよく伸ばしてきた。
俺はしつこく足を引っ張る蔦を切り落とすと、両足に魔力を込めて勢いよく突撃した。
即座に放たれる蔦。
戦うのは初めてだが、やらなきゃ殺られるだけだ!
上半身を狙う蔦群を横にずれる事によりギリギリ回避する。何本かの当ててくる蔦は斬りはらう。
トレントは近くに来たらどうなるのかを察したのか、ついに地中から根まで繰り出して、攻撃してきた。
だが、当たらない。
完全に体の力だよりだな俺は!
アンデッド故の特殊な視界だからなのか、トレントの根の動きが微妙に見える。
なんというか、根自体が光を発しているように見えるのだ。
もしかしたら、生命力を感知できるのかもしれないな……。
それはともかく、どこから来るのか分かってさえいればそう怖くない!
俺は死角を突くように背後に回り込んで薙ぎ払おうとする根をかがんで躱すと魔力をさらに脚に込め、駆ける。
ドッ!
まるで勢いよく跳躍したかのように鈍い音を立て、足元が爆発し土を跳ね上げる。
それにわずかに遅れて地面から根が俺を串刺しにせんと何本も突き出してくる。
さらには辿り着かせまいと、トレントの枝という枝から触手の如くしなやかな蔦をが俺をからめとろうとしてくる。
俺は手刀のままより魔力を注ぎ込むと、全力でその蔦の群れを斬りはらう。
ザシュッ!
小気味よい音を立てて、蔦が切り落とされる。
案外とやれるもんだな!
俺はトレントの懐深くにもぐりこむ。
トレントの急所は確か……
此処だ!
全力で左足で踏み込むと、俺は忿怒の色を浮かべた顔面に握りしめた拳を全力で叩き込む。
ゴガッ!
顔面が割れ、俺のコブシが内部にあるトレントの本体である、光のような何かを打ち貫く。
ギィィィィィィィイイイィィイ!!!
トレントは耳障りな声をあげ、ただの大穴の空いた老木へと還っていった。
俺を打ち据えようとしていた根はくしゃりとして地面に落ち、絡み付こうと蛇のような動きを見せていた蔦は力なく枝に引っかかるだけとなった。
ふう……、なんとかなったぜ……。
って、結局棍棒使ってないし……。
頼れるのは己の拳だけ、とか言う気は無いんだが、現状使いようがないんだよな。
ズグリ……。
俺の内側が疼く。
あぁ、またか。
俺はトレントの残骸に近寄る。
さて、どうすれば良いんだ?
教えてくれ、俺の体。
俺は本能のままにトレントの本体が入っていた虚に顔を寄せる。
吸えと本能が囁く。
それに逆らうことなく、俺はトレントの何かを吸い込んだ。
おお!
これは何というか頭がシャッキリする感じだな!
思考が晴れ渡る。
魔物ごとに味が違うのかもしれないな。
楽しみの一つになりそうだ。
しばらくたち、俺は顔をトレントの残骸から話すとそのまま残骸に背をもたせかけ、座り込む。
トレントを倒したのはいいが…、どうするのかはまだ決まってないんだよな。
……というかトレントの擬態に気づかなかったってのは結構危険だな。
下手すると此処で終わっていた可能性もあった。
といっても、トレントは捕食活動をしない限り、基本動かないから探知は非常に難しいとの事だった。叩けばキレて殺しにくるらしいが、もたれかかったり、根を踏んでしまっても基本は無害……らしいが。
しかも捕食活動に移る機会も少なく、正直言ってそこまで脅威ではない…らしい。
……いや、生前だったら死んでる気がする。
根っこが真後ろからなぎ払おうとしてたし。
あんなの避けられるわけがないだろ!
うん、多分死んでた。
後ろから来るって分かっていたのなら話も違うが、今回のは完全にアンデッドな自分に助けられた形だな。
…………死んだ後に強くなるってのは複雑な気分だな。
出来るのなら、生きたままこんな事が出来たら良かったんだが……。
贅沢な話だろうか?
……まぁ、気にしてももう意味のない事だけどな。
ま、悪いことだけじゃないだろう。
アンデッドに寿命があるなんて聞いたこともないからな、いろんなところに旅に出かけられるだろうさ!
いやぁ、生前は自分が弱すぎて旅にも出られなかったからな、正直言ってアンデッドではあるが世界を見て回れるというのはとてもそそられるものがある。
なぁに、なんとかなるでしょ!




