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リーン、狼と遭遇する

長いゾ、スマンナ

スケッチをしながら、ぼうっと考え込む。

…こんな事、なんの役に立つのだろう。

分かっている。私が通う学園は魔薬士になる道があり、その為に通う子もいるという事を。

だけど、私は魔術師になって冒険者になりたいんだ!

私のこの考えは結構異端らしく、冒険者になるくらいなら他の職を目指せと言う先生もいる。

だけど、私の故郷を助けてくれた…


考え込む私に、深赤色の女の子が声をかけてきた。


「あ、リーンさん上手!私はぜーんぜん出来ないから羨ましいなぁ!」

ん、と自分の手元にあるスケッチブックをみる。

考えている間も手が止まっていなかったのか、どうやら大体描き終えたらしい。

「そう?私のなんて雑に描いてるだけだけど…」

そう言う私に、ニコニコの笑顔で

「じゃ、見てよこれ!ヘンテコだよねー!あはははは!」

そう見せられたスケッチブックは……うん、かなり独創的な植物らしき何かが描かれていた。


「…う、うん、味があって良いんじゃないかしら?」

そう、無難に濁す私。

「えー、ホントにー?怪しーなー?」

ニコニコ笑って言ってくる深赤色の子。


…誤魔化しきれなさそうね。

ここは矛先を違う方向に向けてもらいましょう。

「ほ、ほら、アネンさんなんか凄いわよ?そっちも見たほうが良いと思うわ?」

ごめんね、アネンさん…。

「そうだね!アッちゃん見せてー!」

そう言う私に素直に誘導されてくれる深赤色の子。

ふぅ、危機は去った。

でも、アネンさんのスケッチはすごい。

スケッチブックに描いてる対象を飲み込ませたらこうなるんじゃないかって思うぐらいに精密なスケッチを取るのだ。

…まぁ先生曰く、そこまで精密に描く必要は無いらしいのだけれど。

すごいものはすごいのだ。

実際見た時に、おおって驚いてた声を聞いたし、先生もすごいと思っているのは間違いない。

「アッちゃんすごーい!とっても上手!」

深赤色の子が歓声を上げる。まぁ、私の程度で上手と褒めてくれるんだから、アネンさんに対する歓声は上がるでしょうね。

「…ジェイちゃん、ありがとね。でも少し声は抑えて、ね?一応、魔物が出る可能性はあるんだから…」

あぁ、ジェイっていうのかあの娘。

ジェイさんに笑いかけながら、唇に人差し指を当てるアネンさん。

ジェイさんは、はーいと少し声を抑えてにっこり笑った。


と、何だかんだきゃいきゃいやっていると。



「おいおい、庶民と下級貴族の女共。ちゃんとスケッチは終わったのか?」

…はぁ、楽しい気分が削がれる声が聞こえてくる。

ちっ、と舌打ちしたい気分を抑え私は振り返る。

案の定、そこに居たのはツンツン頭とその取り巻き共だった。


「何ですか?スケッチは終わりましたが?」

私がつっけんどんな答えを返すと、それにイラッときたのかツンツン頭は、

「庶民が上級貴族に生意気な口きくんじゃねぇよ!…どら見せてみやがれ、てめえのスケッチをよ!」

チッと舌打ちしながら、私の手から勝手にスケッチブックを乱暴に奪い取ると、中を覗き込む。

「何だてめえ、俺に生意気な口きく割には下手くそじゃねぇか!ギャハハハ!」

と、クソありがたい評論を頂いた。

ついでに、ツンツン頭の笑いに合わせて後ろの取り巻きも笑う。

…良いだろう、そっちがその気なら。

私は、笑っている茶色トゲ馬鹿野郎の脇に挟んであるスケッチブックを強引に奪いとる。

「ギャハハハって、何勝手に庶民が取ってやがる!返しやがれ!」


喚きながら取り返そうと掴みかかってくる、馬鹿男を軽くあしらいながら、中を覗き込む。


「………って、何だ上手じゃないのアンタ」

中を覗き込んだ私が見たのは、アネンさんには届かないものの、私を普通に超えた技量のスケッチだった。

…ちっ、つまんないな。


残念そうな私の手からばっとスケッチブックを取り返した馬鹿男は、


「この低級庶民がッ!勝手に取りやがって!」

と喚いた。

また、身分で馬鹿にするのか…。

ため息をつきたくなる。

「アンタ、結構上手なのに何で他の人のものを一々馬鹿にするわけ?何でもかんでも上に立ってなきゃ嫌なの?」

と言う私の言葉に、

「うるさい、お前に関係ない事だろ!庶民が俺に詮索してくんじゃねぇ!」

と怒鳴るとどこかに…って、おい。

「アンタ、その方向森の奥に…」

「黙れ!俺に口出しするな!」

…怒鳴って、森の奥に入って見えなくなってしまった。


…まぁ、やりすぎたかもね。

一応貴族なんだし、下手すると処罰なんて事もあり得る。

…ほんとに地位とか身分って面倒よね。





「…………はぁ、二人とも私の言葉耳に完全に入って無いのね…」

「仕方ないよ、あそこまで大声で騒いでたら聞こえないもん」

「……いつも騒ぐ貴女の言葉だと、すごく説得力がありますね…」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてませんからね?」




あ、彼女達のこと忘れてた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



喧嘩から数時間後、私たちはスケッチを終えて帰り支度をしていた。

「今日は色々あったねー!楽しかった!」

ジェイさんがそう笑いながら言う。

「えぇ、喧嘩もあったけれど結構楽しかったわね」

微笑みながら、それに応えるアネンさん。

…まぁ、私も楽しかったではある。

この2人の掛け合いを見ていると、なんというか楽しくなってくるのだ。

「リーンさんも、楽しかった?」

そう言って、笑顔で私に問いかけるジェイさん。それに答えようと口を開きーーーーー




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


悲鳴、そして続く轟音。

私は一瞬で、森の奥を見る。


…あの馬鹿共…!


「え?何?」

「…………まさか!」

状況が飲み込めていないジェイさん、私と同じ結論に至ったと思われるアネンさん。


…あの時、アネンさんが言っていた魔物…!

私はスケッチブックをアネンさんに押し付け、森の奥へと走り出す。


「リーンさんッ!危ないですよ!?」

アネンさんの制止。だが、聞けない話だ!

「だからって、放っておけないでしょ!このグループの中じゃ多分私が一番強いから、行かなくちゃならないの!」


そう返す私に、

「…なら、私も行きます!」

とついてくる意思を持った言葉がアネンさんから放たれる。

「私も行く!」

ジェイさんも、何が起きているか分かっていないような顔ではあるが、意思を感じられる目だと感じた。


…でも、


「ごめんなさい!2人はついてこないで!流石にあのアホ共を助けるのが限界のはずだから!」


そう言って、後ろを振り返らず走り出す。


生きてろよ、馬鹿共がッ!



「…私たちも行くわよ。でも、距離は取りながら、ね」

「…うん、分かった」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「くそっ、こっちに来るな!」


よし、まだ生きてるな!

声の聞こえた方向に走る私。

取り巻き共の声が聞こえないが、そっちはやられたのか…?

死んでないと良いが!


この草むらの先!

飛び込んで抜けた先は、草木が少しばかり開けた場所だった。


そして私は目にした物は。


私の身長の倍以上もある巨大な狼だった。

そしてその前に、無謀にも枝を構え、足が震えながらも狼を見据えるツンツン頭。


「おい、ツン頭!しゃがめ!」

「ッ!?」


私が来るなり叫んだ言葉にすぐさま反応して頭を下げるツンツン頭。


「アイシクルシャード!」


私の短縮詠唱に合わせて、氷のトゲがいくつも放たれる。


それは狙い通り、狼の顔目掛けて飛んでいきーー


「ッ!」

軽く振った頭でかき消した。


………ヤバイな。無傷だ。

体に力が入るのを必死に宥めながら、私はツンツン頭に言う。

「ツン頭!取り巻き共はどうしたァ!」

「ツン頭と言うな!連中はとっくに逃げた!」

ツン頭呼ばわりに喚きながらも、状況を説明するツンツン頭。

つーか、見捨てられてんじゃねえか!

「この俺が、おとりとなって逃してやったのだ!貴様も早く逃げ…」

逃げられてはいないのか、むしろ大健闘じゃねえか!

だが、

「寝言言ってんじゃねぇよ、このシェクマク野郎(シェクマク:全身トゲだらけのモグラのような魔獣)が!足震えてるくせしてよォ!」

私の喚きに、

「黙れ!貴様こそさっさと行け!ここは俺が…!」

オオオオオッと無駄に勇んだ声を上げながら突撃をするツンツン頭。

…馬鹿野郎が!


木の枝を振り下ろすツンツン頭。

それを動かずにただ見据えるだけの狼。

どう見ても格上の威厳丸出しじゃねえか!

そして枝が叩きつけられる。


バキィッ!!


という鋭い音ともにへし折れる枝。

「オオオオォォォォォォォォォォォォォォン!!」

それとほぼ同タイミングで狼が前足を振り上げ、横なぎにツンツン頭に叩きつける。


「ぐふぇあああああああっっっっ!!」

すっ飛んで、木に激突しズルズルと落ちるツンツン頭。


…ちくしょうが。


風属性の無詠唱魔術で狼とツンツン頭の間に割り込む。


…息はしているみたいだな。


風魔術の応用で息を感じ取りながらも、狼を見据える。


「お前の相手は、私が引き受けるッ!かかって来い狼野郎がッ!」


そう宣言した。







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