17
俺は目に刺さったままの『黄昏』を引き抜く。
少女に緊張が走り、手に一瞬にして炎が溢れる。
ちょっとぐらい待ってほしいな!
そりゃアンデッドが武器………うんまぁ、武器か、武器を手にしようとしたら緊張するのは当たり前だ。攻撃されないだけありがたいと思わないとな!
よし、『黄昏』。通訳頼む。
ーーおし、任せろ!ーー
『黄昏』の頼もしい声を聞き、少し安心する。よっしゃ、スケルトンになって初の意思疎通……、必ず成功させないとな!
さっきまでの事は忘れよう。うん。
俺は地面にあぐらで座り込む。そして『黄昏』を俺の膝に置き、少女にうなづいてみせる。
少女は警戒しながらもこちらに接近し、俺から見て5歩離れた場所に、座りこんだ。
中々の度胸だ。
座れば立って逃げるのに時間がかかる。
それなのに、スケルトンの俺に接近したばかりか座り込むとは、まったく……何を考えているのか。
個人的にはすごく好感が持てます。
凄く嬉しいですね。はい。
それに従って、粗相もできないな。
真っ直ぐ座って、赤髪の少女を見つめる。
手の『黄昏』を握りしめる。
静寂。
少女は口を開く。
「dmjqmwpj、ajgmpm?」
ーーああ、先に言っておくが、俺はこいつの言葉遣いが分からんから、非常に…その、無個性な通訳しかできん。我慢してくれーー
了解。十分だ。
ーーよし、同時通訳するぞーー
「あなたは意志を持っている、そうですね?」
あぁ、そう言ってるのか。
俺は頭を縦に振る。
肯定は万国共通だと嬉しいんだが…。
どうやら、少女の様子を見るにそれで良いようだ。
少女は少し考え込むと、こう言った。
「あなたは、私を助けてくれましたか?」
…まぁ、結果的には。
これも頭を縦に振る。まぁ、ローブを奪おうとして結果無理だった事は、知る必要はないだろう。
言えないし、表情が存在しないからバレないバレない。
そして少女の言葉に耳を傾ける。
「何故、助けましたか?」
これは…答えられないな。
喋れない。
俺は喋れないことを、なんとか伝えようと手を開いたり閉じたりしながら、首を振った。
少女は意味がわからないようだったが、あまりにもそれだけしかしない俺になんとなく察したようで、質問を変えた。
「私に…」
と、ここで『黄昏』の通訳が途切れた。
ーー……?この言葉は…?ーー
困惑したような声が響く。
どうしたと聞くと、
ーー……………多分、調教、好意、召喚…。とかの意味が混ざってる…はずだが、この言葉をオレは知らんな…ーー
そういうと、すまんと言って声が途切れる。
調教、好意、召喚…となると従魔の事が言いたいのかもしれないな。
ーー従魔か…、言葉が変化したか。どんだけ長くあそこに放置されてたんだオレ…ーー
分からないことが衝撃的だったのか、随分と落ち込んでいる。たしかに、言葉が分からないほど放置されるって、どれだけ昔の話なんだって話だろうからな…。
しかも『黄昏』は従魔について知っていたから余計に衝撃を受けただろう。
だが…言葉の一部分だけ変化なんてどういう事なんだろうか?
…まぁ、そこらへんの学には詳しくないんだから考えても仕方がないな。
微妙に落ち込んでいる雰囲気を漂わせる『黄昏』に、
とりあえず、落ち込むなよ。俺がガンガン外に連れ出してやるから!
と励ましてやる。
ーーそいつはありがたいね、出来れば末長くお前と一緒に戦っていたいもんだ。ーー
そういう『黄昏』にもちろんだと返し、俺は考え込む。
多分、従魔といった方が話がややこしくなくなる。だが…アンデッドを従魔にしたって話は聞いた事がない。外国だと普通にあるのだろうか。
俺が聖教会の連中から聞いた話じゃ、アンデッドは発見即滅殺が基本なはずだが、まぁ、所詮は田舎宗教だったりするのかもしれない。
まあ、大陸全体に広がっている宗教のはずだがな。田舎とは言わんか。
…まさか別大陸とか言わんよな。
勘弁してくれ、外国だけでもキツイんだからな。
…悩んだ末、首を縦に振る。
利用、させてもらおう。従魔ともなれば、街中へ大手を振って入れるからな。
彼女はこっちの長考に、非常に疑問を抱いたようだが、一応納得はしてくれたようで、ひとまず炎を消してくれた。
そして彼女はさらに俺の近くへと近寄ると、座る俺に手を差し出しこう言った。
「私はリーン。よろしく、スケルトン」